2022年11月 オーディオテクニカの創立60周年記念モデルとして、

・MCカートリッジ:AT-MC2022
・ヘッドホン:ATH-W2022
・ワイヤレスヘッドホン:ATH-WB2022
・ベルトドライブターンテーブル:AT-LP2022
・サウンドバーガー:AT-SB2022

が発売され、大きな話題となった。

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※オーディオテクニカHPより

全て限定生産につき数量限定ということで100万越えのヘッドホンさえ売り切れるほどの人気である。

その中でも俄然注目を浴びたのがサウンドバーガー(ポータブルレコードプレーヤー)なのだ。
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※オーディオテクニカHPより

記念モデルといえばスペシャルなスペックを持ったモデルという印象が強いが、サウンドバーガーだけは毛色が違い、オリジナルの復刻モデルだったのだ。

さて、オーディオテクニカと言えばオレがオーディオ小僧に目覚めた1980年代以前からオーディオアクセサリーを中心に力を入れるオーディオメーカーだ。

ヤマハ、ソニー、パイオニアなど、ハードメーカーに比べれば目立たない存在ではあるが、かゆいところに手が届くアクセサリーを数多く発売し、音楽愛好家ならお世話になっていない者はいないほどの知名度を誇っている。
オレもオーディオテクニカはアナログアクセサリーを中心に現代でも途切れなく使っており、なくてはならない存在だ。
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そんな縁の下の力持ち的なオーディオテクニカもハードを全く出していなかったわけではない。

そのひとつがサウンドバーガーである。

オリジナルのサウンドバーガーが発売された当時のオレの記憶はとてもおぼろげだ。
何しろまだオーディオに目覚める前(小学生)だったので無理もないがその存在だけは覚えている。
まぁ仮に興味があったとして、まともなレコードプレーヤーさえ持っていない子供が初めての1台にポータブル機を選ぶことはまずないし金もない。
レコードプレーヤーは家にあるにはあったが、蓋を開けたらスピーカーになる7インチタイプターンテーブルを備えたナショナルのポータブルもどき(割とでかいやつ)プレーヤーでアニメやヒーロー物の音楽を聴いていた。

何よりレコードは家で聴くものであり、ウォークマンのように外に持ち出して聴くようなものではないことは多くの人々の思うところであり、レコードのポータブルなんてとんでもないという風潮が強かったと思う。
(もっともウォークマンのように歩きながら聴けるものでもないが)
そんな常識外れのサウンドバーガーは当時不遇な扱いを受けていたと思うのだ。

あれから40年の月日が流れた。

現代に蘇ったサウンドバーガーは、当時否定的だったオレはもとより多くの人々の注目を集めることとなった。
レコードが当たり前だった時代より、レコードが復権した現代のほうがサウンドバーガーの存在意義が認められるとはなんとも皮肉な話である。
だからそこに目を付けたオーディオテクニカはあっぱれだ。

さて、今回の復刻のニュースを目にしたオレはこれが猛烈に欲しくなった。
当時と今とでは状況は激変しているのでオレの気持ちも変わっているのは言うまでもない。

なぜなら近年はレコードをもっと手軽に聴きたいという願望が強く、2021年の夏に購入したのがオンキョーのポータブルプレーヤーだ。

ONKYO ポータブルターンテーブル OCP-01
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これは非常に有意義な買い物となったが唯一の不満は音が悪いことだった。
ただ悪いといってもこのタイプではごく標準的な音。
内蔵スピーカーの音のショボさからヘッドホンでも出音のチェックを行ったが、このプレーヤー特有の中音域に重点をおいた音の傾向は変わることはなかった。
まぁ音には期待しないことを承知で購入したので不満というわけではない。
あえてローファイな音を当時のスタイルで聴くところにこれの良さがあるのだ。
ある意味予想通りであり、ONKYOもそのつもりで作っている。

そういうわけで手軽に聴けるレコードプレーヤーはすでに持っている。
しかもこれを買ったら4台目になる。
(全部安物だったり、中古だが)

もう満足だろ?終わりにしよう?

という心の呼びをかき消すだけの魅力がこのサウンドバーガーにはあったのだ。

なによりウォークマンをこよなく愛するオレにとって、小型かつギミックの効いたガジェット感漂うサウンドバーガーはオレの心を鷲掴みにした。
たったそれだけの動機であり、音は二の次で購入の意思を固めたのだった。

サウンドバーガーはもともとオリジナルが1982年発売なので今回は復刻版という扱いだ。

そこでまずはオリジナルについても少しは知っておくべきと思い調べてみた。

ステレオディスクプレーヤーシステム サウンドバーガー(1982年)
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※YouTubeチャンネル「AUDIO VISUALLY」様より画像をキャプチャーして引用

・本体のみモデル
型名:AT727X
価格:23,800円

・アクセサリー付きモデル
型名:AT727
価格:28,000円
備考:ミニステレオホン(インイヤータイプ)、アクセサリー付き

【共通仕様】
トーンアーム:ダイナミックバランス型
カートリッジ:VM型
再生周波数:30~25,000Hz
電源電圧:4.6V DC
重量:1.2Kg

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※当時のチラシ

チラシにある通り、販売形態は2パターンあり、付属品の有無で大きく価格が違ったようだ。
カラーバリエーションはレッド、イエロー、シルバーの3色から選べた。

単二乾電池3本で駆動し、本体にはボリュームつまみ、ラインアウト×1、ヘッドホン端子×2、ACアダプター端子を備える。
現物は持っていないのでYouTubeでいろいろ見たが音は「悪くない」という意見が多い。
復刻版においても意外に「悪くない」という評価が多く期待が膨らむ。
※「音が良い」「音が悪くない」この表現の違いはとても印象が変わる

さて、発売当日の騒動もSNSで話題となっていたのでオレの顛末も記録しておこう。
騒動の根本原因はサーバーが弱かったことに起因する。

1.ユーザー登録は事前に済ませログインしている状態からスタート
2.11/7(月)10時前 PCにオーテクのサウンドバーガーページを表示
3.10時数秒前からブラウザの更新ボタンを押すが更新自体できない
4.しばらくして画面が更新され、カートがオープンされた画面に変わる
5.しかし、、、「在庫×」
6.絶望の中、一応更新ボタンを押す
7.するとなぜか「在庫わずか△」に変わった!
8.わけがわからないがすかさずカートにイン
9.しかしカートに入ったのかどうかもわからない
10.画面を更新しているとカートが点灯
11.購入画面に行きたいがやっぱり画面が遷移しない
12.そうこうしていると情報入力画面に変わる
13.大急ぎで住所やカード情報を入力し次へを押す
14.しかし、、、決済エラー・・・(カードが承認されない)
15.カートには入っているのでもう一度10番からやりなおす
16.再度確認画面に遷移させるが再び決済エラー
17.スマホを見るとカード会社から承認要求が来ていたので許可する
18.また10番からやりおなし、今度はカード決済が承認され確認画面に変わる
19.購入するボタンを押す
20.エラー(最初からやり直してください・・・)
21.一旦諦める
22.休憩後また10番からやり直すがやたらと重い
23.時間は10:30、何気なくスマホを見るとメールがきている
24.10:09の時点で購入できていたいたことに気づく

サーバーのこともあるので購入完了メールさえエラーではないかと疑う。
しかし、2日後の11/9 午前9時頃 ヤマト運輸から無事配達された。
いろいろバタバタしたがこれはおそらく早い到着組だったと思う。

それでは本題に入ろう。

audio-technica SOUND BURGER AT-SB2022

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名称:ワイヤレス ステレオ ディスク プレーヤー システム
発売日:2022年11月7日(再販は12月1日)
価格:23,800円(税・送料込み)
付属品:1.5mUSBケーブル(USB Type-A/USB Type-C)、オーディオケーブル、45RPMアダプター
別売:交換針 ATN3600L
備考:限定生産(7,000台)、オリジナル手ぬぐい付き

本体+同梱物一式
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オリジナル手ぬぐい
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【主な仕様】★は独自調査
●本体
電源:DC3.6Vリチウムイオン電池(内蔵式)
駆動方式:ベルトドライブ方式
駆動モーター:DCサーボモーター
回転数:33-1/3または45回転/分
ターンテーブルプラッター:アルミニウム製
ワウフラッター:< 0.25% (WTD)at 3kHz
S/N比:> 50dB(DIN-B)
カートリッジ型式:VM型ステレオカートリッジ
針圧:3.5g弱★
出力レベル:標準値150mV(1kHz、5cm/秒) (No phono-output)
PHONOプリアンプゲイン:標準値36dB、イコライザー特性RIAA
充電仕様:5V 0.5A
消費電力:1.5W(充電時)
充電時間:約12時間*
使用可能時間:約12時間*
 *使用条件により異なる
入力端子:USB Type-C ジャック
外形寸法:H70×W100×D290mm
質量:900g

●通信部
通信方式:Bluetooth標準規格Ver.5.2準拠
最大通信距離:見通しの良い状態で10m以内
使用周波数帯域:2.4GHz帯(2.402~2.480GHz)
対応コーデック:SBC
伝送帯域:20~20,000Hz

本体背面
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右から給電用のUSB C端子と有線出力用のラインアウト(ステレオミニ)端子のみ。
持ち運び用のベルトもオリジナル同様についている。
限定生産である証のシリアルナンバー表示が誇らしい。

本体操作部
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電源スイッチとスピード切替スイッチのみ。
シンプルなので取説も不要だ。
写真はパワーオン、45回転でLEDが白点灯時。
(保護シールは操作部や余分な部分を切り取って剝がさないことにした←見た目悪いが)

見た目はオリジナルとほとんど変わらないように見える。
1982年デザインなので古さはあるが、だからといってこれ以上手を加えるところがないと思えるほど洗練されたデザインだ。

さて、まず最初に着目したいのは価格である。
オレは23,800円という値を知った時

「安いような気がするがまぁこんなもんか、妥当かも」

と思いつつ、

「どうせオリジナルより高くなってるんでしょ?」

とも思った。

しかし、オリジナルの価格を調べると前述の通り、アクセサリーなしのAT727Xと全く同じ価格だったのだ。
そんなことが可能なのか?

当時と今とでは貨幣価値も違うしオリジナルより値上がりしててもおかしくない。

そこでネットで調べてみた。
日本円消費者物価計算によると、結果は以下である。

・1982年を基準にすると
CPI:1982年(S57)の23,800円は、2019年(R1)の30,172円にあたります(1.27倍)

・2019年を基準にすると
CPI:2019年(R1)の23,800円は、1982年(S57)の18,773円にあたります(0.79倍)

※2019年までしか計算できなかった
※CPIは消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)をもとに貨幣価値(物価)を計算

つまり当時の23,800円の感覚で売るなら現代は30,172円で売ってイコール。
また、現代の23,800円は当時の感覚なら18,773円で売られていたということにもなる。

これはオリジナルよりもコストダウンしているという見方もできるが、作り続けていないのでむしろコストは高くなりそうなもの。
むしろ60周年記念の出血大サービス価格ということになるのかもしれない。
オーディオテクニカがいかにがんばったのかが伺える。

なのでこのプロダクトに限って言えば、23,800円を高いと思うのは筋違いということになるんだろう。
各個人のものさしで計るなら23,800円の重みがそれぞれに違うのは当然。
高いとみるか安いとみるかは個人の自由だが、物の価値を見定める場合、それが障害となり実際「お買い得」なことを見逃すことほど不幸なことはないだろう。
何か欲しいものがある時は少しはそれについて調べて判断すべきだと思い知らされた。

お買い得なことはわかった。

しかしオリジナルより劣っているようではただの手抜きの劣化版である。
オリジナルのクオリティを保ちつつ、現代版には+αがあってしかるべき。
見る限り質感は変わっていないようなので「どこが進化し、どこが退化したのか」を挙げ、それがメリットであるかデメリットであるかを確認してみたい。

【オリジナルから進化した点】

・Bluetooth接続ができるようになった

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結論から先にいうとメリットでしかないだろう。
これはもう現代のオーディオプレーヤーには必須の機能といえる。
先述したONKYOのポータブルプレーヤーは受信機能はあったが送信機能はなかった。
(レコードの音は無線で飛ばせなかった)

サウンドバーガーはONKYOより更に小型であり、スピーカーを内蔵するスペースなどないので、当然Bluetoothは必須な機能だ。
本来のレコードの音を聴くならラインアウトで有線接続すべきだが「普段聴きは無線、リッピング等するなら有線」という使い分けができるのは現代的でスマートだ。

・バッテリー駆動(充電式リチウムイオン)になった

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オリジナルの電池ボックスと同じ位置にネジ固定であるが充電式バッテリーが格納された。
充電式バッテリーとなったのはありがたいが、気になるのは電池が劣化した時どうするかだ。
蓋を開けて確認するとバッテリーは簡単に交換可能なようでとりあえず安心した。
(それでもいつまでこのバッテリーが手に入るかは不安だが)
ともあれ乾電池よりもランニングコストは段違いにいいということになる。
乾電池式のまま発売してたら、むしろ酷評されていただろう。
歓迎すべきメリットとなる進化である。


【オリジナルから退化した点】

・ボリュームの省略
個人的にはボリュームが無いことが一番気になった部分だ。
本体でボリューム調整ができないということは外部アンプやスピーカー(ヘッドホン)側での音量調整が必要ということになる。
使い方はある意味制限され、外部機器に委ねる部分となる。
ラインアウト出力もBluetoothも音量は固定なので、ボリューム調整は外部機器にて行うことが前提の商品なのだ。
これをデメリットと取るかは意見がわかれるが、個人的には音響回路の接点がひとつでもなくなり、ノイズの原因ともなる「ガリ」の心配がないという意味ではメリットが大きいと捉えたい。

・ヘッドホン端子の省略
オリジナルにはヘッドホン端子がA/Bの2系統あった。
これはまさにソニーの初期カセットウォークマンと同様だ。
外で聴くポータブル機を誰もが持っていない時代はこの意味は大きい。
しかしこれもボリュームあってのヘッドホン端子。
音量調整できなければ省略せざるを得ないのは当然だ。
復刻版は有線出力がステレオミニの音量固定ラインアウト1本のみとなったが、ここに有線でヘッドホンを接続することはできることはできる。
(ただヘッドホン側で音量調整ができなければ使えない)
普通に考えてここにヘッドホンを有線接続して聴こうとする人はもうほとんどいないだろう。
ボリュームの省略でリスニングスタイルが少し変わるということだ。
製造コストや現代のリスニングスタイルを考慮すればやはりメリットとすべきだろう。

結果的に進化点、退化点は全てメリットとして受け止めることにした。
(個人的に)

さて、ここまでの検証で復刻版サウンドバーガーはオリジナルにひけをとらないどころか、より現代風にアレンジされ蘇ったものであることがわかった。

次は単純に問題点である。

復刻版で歓迎すべき最たる部分はUSB端子の採用とBluetooth接続の追加である。
現代のオーディオプレーヤーとして必須の機能であるが一部ユーザーからは不満の声が上がっている部分もあるようだ。

・入力端子:USB Type-C ジャック
本体の充電端子はUSB端子であり、USBケーブルType-A to Cが付属する。
本体側がCでコンセント側がAという使い方になる。
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充電の際は付属のケーブルを使用し、Type AのUSBコンセント等に接続する。
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全く問題ない。
が、近年はType Cの使い勝手の良さからC to Cケーブルの需要があるのも確か。
そして問題はそのC to Cケーブルでは充電できないとの報告があることだ。
オレの場合、家のコンセント(テーブルタップ)はほぼType Aの端子付きに交換しており、今のところ不自由はしていないので改めて検証はしない。
今後のことを考慮してもType A形状が無くなることはまだまだないと思われるが、忘れた頃にC to C接続をして充電できないということにならないよう、このことは頭の片隅にでも置いておく必要があるだろう。

・対応コーデックがSBCのみ
本機はBluetooth接続で外部スピーカー等と無線通信する際のコーデックに「SBC」を使用している。
コーデックとはBluetoothでは無線送信する際に音楽データを圧縮するための圧縮方式を指す。
そのごく一般的なものが「SBC」であるので問題ないといえば問題ない。
また、SBC方式に未対応という機器も少ないだろう。
問題なのはSBC方式は古いということ。
この方式は音質や遅延状況があまりよくないのだ。
例えば、SONYなら「LDAC」、Androidなら「aptX」、iPhoneなら「AAC」を採用しており、これらは「SBC」よりも音質が良く、低遅延であることで知られている。
これらに対応していないことについて、オレ個人としては特に気にならない。
理由はBluetooth接続して聴く時は気軽に聴く時だからだ。
また、サウンドバーガーは安価なポータブルプレーヤーでありアナログ音源であることも忘れてはならない。
レコードをBluetoothで飛ばした時点でそれはもうレコードの本来の音ではなくなるからだ。
だからそこに執着するなら他のプレーヤーを買った方がいい。
多くのコーデックに対応することで価格が上がるのもいやだし、高音質で聴きたいのならオレはラインアウトで有線接続する。
そもそもの話、Bluetooth接続にオレ個人としては音質を求めないし、音源がレコードであればなおさらだ。
もちろん考え方の違いはあるだろうが、気軽に聴けることが売りのサウンドバーガーに多くを注文するのはちょっと違うような気がするのだ。
また遅延に関しては音声のみならより気にするものではない。

・キャリングケースがない
発売前からわかっていたことだが「キャリングケースはどうした?」である。
ポータブルなのでケースはやはりほしいし、家に置いておくにしても普段はケースに入れてホコリを防ぎたい。
これオリジナルにはついていたようだ。
限定生産で7,000台なので仮に作るなら最低7,000個は作ってほしいが発売後となってはそれが全員の手に渡ることは難しい。
サードパーティーから出てくるか、手作りするか、今後の動向を見守りたい。


そして最後に検証するのは肝心の「音質」だ。

オレはサウンドバーガーは本格プレーヤーではないのでもともと音には期待していない。
ただ、これ1台でレコードを聴き続けたいという人にとってはそれなりの音質であって欲しいということにもなるだろう。
オーディオ製品にとって音質は最重要事項であるが、その反面音質評価は曖昧であり、捉えどころがないものなので他人の評価を鵜呑みにすることは非常に危険だ。
ときにオーディオ評論家やマニアの音質評価は「ポエム」のようだと揶揄されることもあるが、まさにその通りであり、そうなるのも当然なのだ。
オーディオを長くやっていれば誰もが詩人になってしまう。
詩人には詩人にしかわからない言葉の「あや」があったりなので、それを第三者がどう解釈するかで印象は変わってしまうのだ。
ポエムが苦手なマニアは科学的に音を分析しようとするも、それでも一部マニアにしか伝わらないものとなる。

「自分がいい音だと思えばそれがいい音」

ということで解決してもいいが、商品をレビューするならその言葉はあえて封印したい。

1台のプレーヤーの音の良さをロマンチックなポエムを並べ立てて評価したところで理解しろという方が無理がある。

そこで今回は別プレーヤーとの比較とした。

音質に定評がある○○プレーヤーと比較し、このプレーヤーは音が○○です。
とすれば一応指標がある。
その「音質に定評があるプレーヤー」を聴いたことがあればより分かりやすいということだ。
まずは自分のいい音の基準は何かを明らかにするだけでも他人が受ける印象も多少変わるかもしれない。
また、聴かずしての音質良否の判断は他の多くのレビューを参考にすべきであることも至極当然である。

で、今回の基準はオレが所有する据え置き型の中級機のプレーヤー DENON「DP-59L」である。
うちの中ではフラッグシップのレコードプレーヤーだ。
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※写真はわかりやすい「オーディオの足跡」様より引用

1984年に発売されたものだが、メンテしていれば未だ申し分ない再生能力を持ち、当時も評判が良かったレコードプレーヤーだ。
(おそらく今これと同じプレーヤーを作るのなら当時の倍以上の値段になるのでは?)

このプレーヤーとサウンドバーガーを比較するのは少々酷ではあるが、「音は悪くない」との前評判があるのでこれにどれだけ太刀打ちできるかが見ものだ。

音の聴き比べはそれぞれを以下の方法で行う。
1.ラインアウトをアンプに接続してスピーカーから聴く
2.ラインアウトの音を直接聴く
※Bluetoothによる比較はDENON側ができないので省略

【試聴環境】
アンプ:YAMAHA RX-A2040
スピーカー:KENWOOD LS-K901+SW
PCMレコーダー:SONY PCM-A1(録音用)

以下DENON DP-59Lのみ
MCカートリッジ:DENON DL-103
MC昇圧トランス:Phasemation T-300

ついでに音質に影響すると思われるスペックを参考までに挙げておく。

・AT-SB2022
モーター制御:ベルトドライブ
S/N比:50dB
ワウ・フラッター:0.25%
針圧:3.5g弱(実測)

・DP-59L
モーター制御:クォーツロックダイレクトドライブ
S/N比:82dB
ワウ・フラッター:0.02%
針圧:2.5g(使用カートリッジ推奨値)

わかる人ならこれをみればおおよその素性は推測できるだろうが簡単に説明しておこう。

まず、レコードプレーヤーの駆動方式にはざっくり分けてモーターの回転をベルトをかけて伝える「ベルトドライブ」とモーターからダイレクトに回す「ダイレクトドライブ」がある。
(他にリムドライブなどもある)
どちらもメリットデメリットがあるが、サウンドバーガーのようなポータブルプレーヤーのほとんどがベルトドライブ方式を採用している。
ただし、高級機=ダイレクトドライブというわけではない。
ここではサウンドバーガーのベルトドライブの出来が試されることになる。

S/N比は信号対雑音比で数字が大きいほど静寂性がある(=ダイナミックレンジが広い)と解釈してもいいだろう。
筐体の堅牢さやカートリッジ、アーム等さまざまな要因が絡むと思うが、本来サウンドバーガーのような簡易プレーヤーではいいものは少ない。
これが聴感上どれだけ確認できるものなのかを注意して聴きたい。
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カートリッジは安っぽさはあるものの、作りは本格的カートリッジのうような佇まいだ。

ワウ・フラッターは回転ムラであり、ターンテーブルが一定の回転数で回っているかの基準。
数字が小さいほど音がゆらゆらしない優秀機といえる。
(JISでは3%以下と定められている)
サウンドバーガーはスペースの限られたベルトドライブ方式のため、スペックを見る限りでも期待はできないが、それにしてもこのプラッターはただものではない。
明らかに重いのだ。
高級プレーヤーはプラッター部分だけで数キロあるのが一般的で、プラッターが重いことは回転モーメントに有利に働き、ワウフラ値の改善に貢献できる。
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このプラッターには驚いた。

最後の針圧はあくまで参考として。
針圧は使用するカートリッジによって決定される。
適正な針圧をかけなければもちろん音質に影響する。
なぜ針圧を比較するのかというと、DP-59Lの調整上限は最大で3gであるのに対し、サウンドバーガーの実測値が3.5g近くあったことに驚いたからだ。
(ただし個体差はあると思う)
簡易プレーヤーはダンパーで針圧をかけているものが多いので実質調整は不可能であり、カートリッジも専用品となるため、この3.5gが重すぎると言いたいわけではない。
ただレコードの方がちょっと心配かなというのはあるが、実用上は問題ないのだろう。

こうやって並べてスペック比較するとDP-59Lはレコードプレーヤーとして申し分ない性能だ。
参考までに先述のONKYO ポータブルプレーヤー「OCP-01」のワウフラはJIS上限である3%以下としか書いておらず、実際聴感上でもはっきりと揺らぎが認識できる。
(ただ、OCP-01の購入価は9,180円であることを忘れてはならない)
希望としてはOCP-01のように明らかにローファイな音でなければよし。
欲を言えばレコードのリッピング(ダビング)にも耐えうるくらいの音が出せれば御の字だ。

それでは、実際どうなのか確かめてみよう。

音源は何より自分が聴きなれた曲がベストである。
そこで以下の2枚のアルバムから1曲ずつチョイスした。

●松田聖子 Canaryより「Silvery Moonlight」
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この曲を選んだ理由はかつてワウフラの揺らぎを経験した中で最も印象に残っていた曲だからだ。
B面5曲目なのでLPレコードの最内周曲。
つまり角速度一定のレコードにとって最も音が悪い部分。
ワウフラは回転偏差なので外周より内周のほうがより確認しやすいということで。
ポイントはボーカルがない間奏ピアノソロ部分あたりがわかりやすいだろう。
また内周であるがゆえのどんずまり感もプレーヤーの性能をチェックするにはちょうどよい。
この部分をうまく再生できれば言うことないのだが。

●中森明菜 BESTⅡより「DESIRE-情熱-」
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これを選んだ理由はCanaryとは真逆の理由。
このアルバムはオリジナル33回転を45回転の2枚組としたブリッジ盤である。
SIDE2の1曲目なのでレコードにとってはもっともおいしい部分。
なおかつ12インチ45回転なら一番いい音で聴けるはずだ。

ブリッジ盤の詳細は以下

中森明菜 2020年レコードの日限定盤 BEST・BESTⅡ(2枚組レコード ブリッジ盤)

以前の記事では2018年復刻版LPとの比較試聴を行い、勝負にならないほど音がよかった。
音圧が高く、かつ激しく波打つ音溝をピックアップがどれだけトレースできるか、また針飛びや歪なく再生できれば合格だ。
そもそも針圧が最適でなければ破綻するので特にサビ部分に注目だ。


1.ラインアウトからアンプに接続してスピーカーから聴く
この方法はBluetooth接続したスピーカーから出る音だと思っても概ね問題ないだろう。
アンプとスピーカーという外部機器の性能に左右されるが環境は同じなので違いは分かりやすい。

まずはDP-59Lから。
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Canary「Silvery Moonlight」

もともと録音のいいアルバムである。
ただそれ故、下手なプレーヤーで再生すると粗が目立つという特徴がある。
しかしさすがにDP-59Lは終始安定した圧倒的な音を聴かせる。
まず解像度が高く緩急の表現も抜群だ。
針圧が最適でないとサビのボーカルがすぐに歪むのだがほぼ問題ない。
また間奏のピアノソロ部分もゆらぎは感じられず、音楽に集中できる安心な音だ。

Canary「Silvery Moonlight」空気録音サンプル
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BESTⅡ「DESIRE-情熱-」
とかくうるさくなりがちなDESIREだが、さすがにMCカートリッジらしい繊細な音。
メリハリがあり、一音一音の解像度が高いのが好印象。
間奏のギターソロのなんと美しいことか。
ただ個人的にはもう少し迫力が欲しいところだが、うるさくなりすぎないのもそれはそれで聴きやすい。
どんな曲でもどんとこい、とでも言わんばかりの懐の深さが伺える安心感ある再生音だ。

BESTⅡ「DESIRE-情熱-」空気録音サンプル
空気録音_明菜


次にサウンドバーガー。
このスペックのプレーヤーを聴くのは初めてである。
(本格プレーヤーとおもちゃプレーヤーの中間という意味で)
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Canary「Silvery Moonlight」

やはりDP-59Lと比べると1枚ベールがかかったような感じを受ける。
聴き比べてしまえばという話だが、透明感が足りないのがよくわかる。
バラード曲なので静かなところはもっと静かに聴きたいところ。
イントロ部分でわずかに音のゆらぎも確認できるがボーカルが入るともう気にならない。
VMカートリッジゆえの力強い音はちょっとだけこの曲には向かないと思うものの、ドラムの力強いアタック音はたまらない。
サビ部分の聖子のボーカルはやや余裕がなく苦しさが出た。
間奏のピアノソロはやはりワウフラ性能が出てしまい少しだけ気になった。
とはいえ、レコード再生で最も難しい部分をこれだけ表現できるのは大したもの。

Canary「Silvery Moonlight」空気録音サンプル
空気録音_聖子

BESTⅡ「DESIRE-情熱-」
これはいい。
さすがに得意中の得意の分野といったところか。
繊細かつメリハリのDENONに対し、ダイナミックさを前面に押し出した力強い音だ。
DESIREの聴かせ方はこっちの方が好きである。
サビのボーカルも歪むことなく再生できるのできちんと調整できているようだ。
やや大味とはいえ、聴き比べをしなければ十分満足できるレベルの音といえる。

BESTⅡ「DESIRE-情熱-」空気録音サンプル
空気録音_明菜


2.ラインアウトの音を直接聴く
ラインアウト出力の音は空気を介さないため、ノイズや揺らぎをダイレクト聴きとることができる。
スピーカーで聴いていたアルバムをヘッドホンで改めて聴くとそれまで聴こえなかった音が聴こるようになったという経験は誰にもあるだろう。
なのでノイズ含めごまかしは一切きかなくなるのだ。
本来、プレーヤーそのものの素性を知るにはこの方法がベストである。

まずはDP-59Lから。
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Canary「Silvery Moonlight」
関係ないが比較前に聴いていてノイズが酷かったのでナガオカ式クリーニングをしたのが効いた。
ほとんどパチパチノイズがないので曲にとても集中できる。
しかしやはりこれは難しい曲のようだ。
ワウフラは全く問題ない。
ただサビのボーカルは歪みが出やすいので、ちょっとだけビリついてしまった。
とはいえ、合格ラインといったところか。
そこを除けばCDと見まがうほどの安定感。
デジタル化の再生機として十分使える音といえる。

Canary「Silvery Moonlight」直接録音サンプル
ライン_聖子


BESTⅡ「DESIRE-情熱-」
これはさすがとしか言いようがない。
スピーカーから聴いた音は若干迫力に欠ける印象を受けたが、直接聴くとこれはCDをリッピングしてウォークマンで聴いているかのような錯覚に陥る。
何も考えず聴いていればレコードであることを忘れるような圧倒的な音。
間奏のギターソロ部分が気持ち良すぎる。

BESTⅡ「DESIRE-情熱-」直接録音サンプル
ライン_明菜

次にサウンドバーガー。
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Canary「Silvery Moonlight」
バラード調の曲はやや厳しい印象を受ける。
繊細さが欲しいところだが、解像度が今一歩。
空気録音で視聴した時よりイントロの揺らぎも目立つようになった。
サビ以外にもボーカルのビリつきとノイズっぽさはさらに強調された。
間奏のピアノソロはもちろんだがその他の部分でも揺らぎがでて音程が狂うような場面が散見された。
曲は最後にフェードアウトするがここは特にワウフラの性能差がでてしまった。

Canary「Silvery Moonlight」直接録音サンプル
ライン_聖子


BESTⅡ「DESIRE-情熱-」
うーん、これはDENONとは逆で空気録音の方が印象がよかったかもしれない。
直接だとごまかしが効かないので解像度のなさが露呈している。
とはいえこれはあえて厳しく言うならであって、そのレベルは非常に高く、個人的には合格点だ。
油断して聴いていれば気になるところなどほとんどないといってもいい。
表現は大味だがDESIREはこれでいいのだ。

BESTⅡ「DESIRE-情熱-」直接録音サンプル
ライン_明菜


【総評】
DP-59Lに対するサウンドバーガーはもはや大健闘といえる。
ずっと聴いているとこんなちっちゃなプレーヤーで再生していることを忘れてしまいそうなクオリティだ。
聴き比べさえしなければこれで十分なのではとも思った。
厳しく言えば「いい音」だとは評価できないがそれでも「悪くない音」だ。
いい音の基準があっての「悪くない音」なのだからそのレベルは高いと思っていい。
そもそも比較したくなるほど「いい音」だったから比較して「悪くない音」だったという結論はこのクラスでは最高の誉め言葉ではなかろうか。


あとがき
さて、復刻版サウンドバーガーをひととり検証し終えた感想は、

「大変満足」

の一言につきる。

正直音はどうでもよかったので、音もついてきたのは嬉しい誤算であり、いい買い物したなと思える。

ただ、レコードを再生していてひとつだけ気になったことがある。
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見てわかる通り、カートリッジとシェルがかなり平行だ。
これはおそらく激しく反ったレコードを再生すると外周部はシェルに擦るだろう。
そこだけ注意しておきたい。

近年のレコード復権において、新譜レコードの発売も増え、レコードプレーヤーもいろいろ選べるようになった。

とはいえこれからレコードを聴こうという「初めて世代」の中には、まだ敷居が高いと手出しするのをためらう人もいることだろう。
まずはそんな人には自信をもっておススメしたいのがこのサウンドバーガーだ。
アナログというものは極端な言い方をすれば金をかければかけるほどいい音が聴ける。
それはカセットテープにしても同じことが言える。
だから下手なプレーヤーを買ってレコードの音ってこんなものかと思わないでほしい。

安い、コンパクト、音も悪くない(←ここ大事)の3拍子が揃っており、買って失敗はまずない。
例えレコードを聴くことがなくなったとしても引き出しの片隅にでもしまっておけるだろう。

古くからのオーディオマニアに至ってはアナログ再生の新しい形として、またガジェット感を楽しむセカンドマシンとして末永く愛されることだろう。

気になるのは今後のオーディオテクニカの動きである。
限定7000台を売り切った後、更なる再発を予想する声もちらほら。
オーテク社内でもサウンドバーガーの手ごたえは十分感じているはずである。

今回は60周年記念企画だったので便乗して再発するなら1年以内だろう。
例えば次は60周年記念第2弾 イエロー、シルバーというふうに。
でなければ次は65周年なのか70周年なのか・・・。

長年にわたり、人々のオーディオライフに潤いを与えてくれた縁の下の力持ちが日本のオーディオをこれからも支え続けてくれるよう祈って。

祝 オーディオテクニカ創業60周年
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