かつてカセットテープに録音して楽しんだ世代としては当時のライブラリは貴重な資産だ。

果たして当時のカセットテープを今も大切に持っている人はどれくらいいるだろう?

ほとんどの人が処分したか、実家の押し入れにしまいっぱなしだと思う。

オレの場合、考えて見れば何度かの引越しの際にも当時のカセットをひたすら運び続けていたということになる。
記念写真のアルバムを捨てられないのと同じで自分の生きた証と考えているからだ。

途中でデジタル化して整理しようと思ったことは一度もないし、ましてや捨てるなんてことはもってのほかだ。

ある時からカセットテープだけは写真アルバムのように保存していこうと決めていた。
(ただし、当時のカセットは手元にあっても写真アルバムは手元にはないが・・・)
とにかくオレにとって、自分でダビングしたカセットテープだけは特別だった。

カセットテープの時代が終わり、DATに移行した時にも数本のカセットを整理したくらい。
あとはうっかりデッキに巻き込んでしまい、テープをくしゃくしゃにしてしまったことも何度かあったが、今後は細心の注意を払い、1本も失わないよう努めよう。

今では時々それらのカセットテープをカセットデッキやウォークマンで再生しては懐かしい写真を見るかのように当時に思いを馳せる時間が何物にも代えがたいものとなっている。

さすがにわざわざカセットへ録音することはもうなくなってしまったが、再生するだけならカセットデッキのメンテを兼ねた日常的な楽しみとなっている。

従って、常にカセットを再生できる環境を維持し続けることもライフワークのようになっている。

カセットテープはアナログメディア故、その音質はテープの種類、録音・再生環境などでどうにでも変わってしまう。

それがカセットテープの面白いところでもあり、泣き所でもある。

友達に録ってもらったカセットを自分のデッキで再生したら音が悪かった、ってことは当時のあるあるだった。

音が悪いテープはそのほとんどが高音がこもっている、あるいは再生スピードが違うとかだ。

カセット再生における基本は、録音したデッキで再生する自己録再がベストとされるのはそういう理由からだ。

しかし、録音に使ったデッキやラジカセが既に手元にないのなら、もう録音当時の音の再現はほぼ不可能だ。

高域がこもった音は本当に残念だ。

後付けでトーンコントロールやイコライザで補正してしまうという手もあるが、再生のたびにやるのは面倒だし、オーディオマニア的にはそれでは納得がいかない。

そこで本題に入るが、自分の持ってるカセットをもう一度綺麗な音で聴いてみたいのなら方法はある。

【方法1】
デジタルプロセシングデッキで音質を補正する
わかりやすく言えば、カセットデッキの機能で高域が出ていなければ補正し、テープヒスを軽減する方法だ。
それができるのはパイオニア T-D7だ。

 パイオニア T-D7
イメージ 1



【方法2】
アジマス調整できるデッキでヘッド角度を調整し、録音時の音に近づける。
当時の録音状態の再現としては理にかなった正攻法である。
オレの所有するデッキではCR-70やDRAGONでアジマス調整可能だ。

 ナカミチ CR-70
イメージ 2


今回はこの方法1,2の両方を試し、その効果を検証してみる。

ソースとして使用したのは、

(1)レコードからNR OFFで録音したカセット

(2)CDからNR Cで録音したカセット

いずれも当時所有したAKAI HX-R44の2ヘッドリバースデッキで録音したものである。

これをデジプロデッキ パイオニア T-D7とアジマス調整可能なナカミチ CR-70で試聴する。

比較はより細かい違いがわかるようヘッドホンにて行った。

使用したヘッドホンはSONYのMDR-Z600。
モニター系のくせの少ないヘッドホンだ。



(1)レコードからNR OFFで録音したカセットでの検証

アルバム:松任谷由実/NO SIDE
TAPE:TDK MA
Position:Metal
N R:OFF
SOURCE:レコード
DECK:AKAI HX-R44

当時全てのカセットテープのインデックスカードに書き込んでいた最低限の情報だ


【方法1】
Pioneer T-D7 の設定
NR:OFF
Digital NR:ON ※ドルビーNRではないがノイズ抑制効果がある
FLEXシステム:ON ※周波数を平坦化し、主に高域補正に強い

・感想
曲間のレコードのトレースノイズやテープヒスは「サー」ではなく、
デジタルNRの効果により、かなり低い「ゴー」という感じで聴こえる。
低い音なのでいわゆるテープのホワイトノイズほど気になるものではない。
レコード特有の「パチッ」っというノイズは「プシュー」っという感じで角が取れたような音になる。
これは全てT-D7に搭載されたデジタルNRによるノイズ処理効果である。
ちなみにスピーカーから音を出すとこの曲間ノイズはほぼ気にならない。
録音レベルが高ければCD並みの静寂性といっても過言ではない。

曲が始まると高域が異常なほど鮮やかに聴こえる。
T-D7は音楽信号を一旦デジタルに変換して補正するのだが、NR OFFで録音したカセットでも
あたかもNRを入れたかのようなノイズの少ない音で各楽器も実に明瞭になる。
ドラムの切れのよさも心地よく、明るく元気な印象に補正されるようだ。

とても綺麗にキチっと再生してくれるのだが、ややこじんまりとした音場が気になる。
おそらくはデジタルNRの弊害と思われ、わずかな残響はカットされてしまうためと思われる。
残響がカットされれば音場が狭く聴こえるのは当然のことだろう。
ヘッドホン試聴では特にそれが顕著に現れる。
そこに違和感を感じる場合はデジタルNRだけはOFFでもかまわないだろう。

あと気になったのは曲の終わりにフェードアウトする曲はブリージング現象(息つき現象)が
目立ち、とても不自然になる時があった。
例えばNRをOFFで録音したカセットをdbXをONで再生した時のような、抑制されたような音。
これもスピーカーで聴くとあまり気にならない部分だがデジタルNRを切ればこれはなくなる。
フェードアウト部分だけでなく、スローな曲・静かな曲でもブリージングが目立った。

デジタルNRのノイズ除去効果は超強力。
あまり不自然に感じるならOFFにしてFLEXシステムのみ使うでも十分楽しめるだろう。
本来の音を出すという考えではないので嘘くさい感じではあるが単純にどのテープでも最高の音で再生してくれる。


【方法2】
Nakamichi CR-70の設定
NR:OFF
プレイバックアジマス:手動聴感による補正

・感想
曲間のレコードのトレースノイズ&テープヒスは「サー」と普通に聴こえる。
NRがOFFなのでこれはどのデッキでも変わらない部分。
良くも悪くも録音時の状態を再現するので、元が質のいい録音であれば見事な再生音である。

曲が始まると、T-D7とは打って変わって雰囲気が違う。
ごく自然な音でストレスを全く感じない。
あー、これが録音した時の音なんだなという説得力がある。
やはりT-D7のFLEXシステムの補正は原音に対して味付けがされているということがよくわかる。
CR-70では高域はT-D7に比べればぜんぜん出ていないのだが、高域がこもっているわけではない。
音楽信号はいじらないのでこれが本来の音ということだ。
先にT-D7で聴いてしまうと高域不足を感じるが、アナログらしい安心する音だ。
それにしても聴き進めていくごとに、まるでそのままレコードを聴いてるような錯角さえ覚える。
当時のカートリッジが拾った部屋の空気までもが再現されてるような心地よさだ。
録音した当時に戻ったように、時折はっとする瞬間がある。
CR-70の本来の再生性能の高さを見せ付けられた。



(2)CDからNR Cで録音したカセットでの検証

アルバム:今井美樹/エルフィン
TAPE:TDK MA
Position:Metal
N R:C
SOURCE:CD
DECK:AKAI HX-R44

【方法1】
Pioneer T-D7
NR:C
Digital NR:ON
FLEXシステム:ON

・感想
もともとノイズの無いCDがソースでさらにNRがCとくれば曲間のテープヒスは皆無と言ってもいいほどの静寂性。
デジタルNRとのダブルノイズリダクションともなると、もはやカセットテープであることを忘れるほど。
デジタルNRは通常のノイズリダクションとの相性も悪くないようだ。

曲が始まるとやや息つき現象を確認した部分があるものの気になるほどではない。
もともとの録音状態がよいものほど違和感は軽減するように思う。
FLEXシステムにより補正された高域もレコードがソースの時より自然だ。
不思議なことにフェードアウト部分の息つき現象も違和感が少ない。
これはCDなのか?
と思わせるカセットのイメージが完全に打ち消されるほどの衝撃を覚えた。

【方法2】
Nakamichi CR-70の設定
NR:C
プレイバックアジマス:手動聴感補正

・感想
曲間のテープヒスはNR Cと言えど、ヘッドホン試聴ではわずかに「サー」と聴こえる。
曲が始まるとやはりT-D7との違いは歴然。
やはり響きが違う。
自然な空間の広がりや消え行く楽器の残響音があったことに気づかされる。
また、ボーカルとバスドラの中低域が意外と太かったのだということにも気づく。
T-D7で補正された高域は原音以上に補正された高域が出ていたことがわかる。
比較すると高域が最も顕著に違いが現れる部分のようだ。
それにしてもいくらカセットテープとはいえ、ソースがCD(デジタル)だと綺麗に録れているほど"味"がないなぁとも思えてくる。
逆に言えばCDを聴いているのとそう変わらなく感じるということなので凄いことなのだが。



総評

パイオニア T-D7
NR OFFで録音したカセットはテープヒスが激減するデジタルNRの影響が強く出やすいようだ。
アナログのもつ本来のなめらかさが失われているなと感じる部分が伺えた。

デジタルNRは微小な音やわずかな残響音もノイズと判断してカットされるようだ。
フェードアウト部分がブリージング現象で違和感がでてくるので、曲間ノイズを取るか、雰囲気を
取るかでON/OFFを切替えて好みで使用するとよい。

FLEXシステムによる高域補正は、原音以上に高域が補正されるため、若干バランスが崩れる。
言い換えれば、元気な音に生まれ変わるという感じだ。
デジタルNRと同様、高域に不足を感じなければ使用しないという選択もありだ。

本来の目的でのこもった音を改善するという意味では十分すぎる仕事をしてくれる。

結論としては、レコードからの録音やNRを入れていないカセットは状況により補正機能はOFFの場合がよいことがある。
CDソースやNRを入れた録音ほど、この補正機能との相性はいいように感じた。
オレはほとんど使わなかったが、NR Bでの録音や市販ミュージックテープの再生時にはさらに効果的かもしれない。
もちろん補正機能をすべてOFFとしての素の再生も可能であるので好みで試してみるのも面白い。

T-D7の音は、

昔録ったカセットを "デジタルリマスターした音"
と表現したい。


ナカミチ CR-70
レコードがソースでNR OFFのカセットの再生は最高のパフォーマンスを見せてくれた。
言うなれば録音したデッキをいいアンプに繋ぎ直して聴いているかのような感じだ。
テープヒスはそのままではあるが記録された音を十分かつ味付けなしに引き出してくれる。
それだけに録音品質が重要だと痛感した。

CDソースかつNR有りの再生はもはやCDそのものというレベルである。

CR-70の音は、

昔録ったカセットを "当時のままプラスαで再現した音"
と表現したい。


どんなカセットテープでも再生するだけ、またはデジタル化が目的であれば、T-D7とCR-70はこの上なくいい仕事をするカセットデッキである。