DATとはデジタル・オーディオ・テープの略だ。

「ディー・エー・ティー」または「ダット」と読む。

DATはカセットテープと同様、磁気テープを使用するテープ記録メディアだ。

カセットと違うのは、音声はデジタルデータとして記録されること。

従って理論上コピーによる劣化はない。

労せずしてCDやレコードを音質劣化なしに丸々コピーできるというまさに夢の記録メディアだった。
(厳密にいうと同じビットレートであるCDはということになるか)
また、その高音質さゆえ発売当初から著作権の問題が生じた。

MDが発表されたのが1992年、DATは1987年なのでMDより5年も前にデジタルコピーは可能だったことになる。

今ではデジタルコピーは騒ぐようなことではないが、CDを劣化なしで丸々録音できるということが当時は衝撃的であり、アーティスト側からみれば脅威的な存在でもあったのだ。

1987年に商品化されたDATだが、やはり最初は高額のため売れ行きはイマイチだった。
最初はなんでも高いのは言うまでもない。

コスト面で出足は鈍かったものの、話題性は十分だった。

そして遅ればせながらも小型化にも成功し、例の如くウォークマンにもDATがラインナップされた。

SONY WMD-DT1
1993年3月発売
価格:49,800円
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ただし、再生専用のDATウォークマンはこの1台のみである。

最初のDATウォークマンは1990年発売のTCD-D3が1号機。

初号機から遅れること3年の歳月を経て発売されたのがこの再生専用機 WMD-DT1だ。
かなり遅れての投入となったが、DAT自体が広く普及していなかったというのも一因だろう。

ニーズがあれば開発スピードも加速されるはずだし、種類も豊富になったはずだ。

民生用としては最高スペックであり、時代のマスター音源であるCDと同等音質なので今でも十分通用するとも言える。
それゆえ、当時は一般にはオーバースペックとも言え、マニアだけには大歓迎された。

本機は再生専用なので、録音できるデッキも所有していることがまず購入の大前提となるだろう。
自分でテープに録音できなければ再生専用機など持っている意味がない。

しかし、当時カセットの音質も頂点を極めた中、録音媒体をカセットからDATに変更しようと思うのは確かに一部マニアに限られた。

CD・カセットのようにお店にミュージックDATが置いていなかったわけではないが、その数は少なく、よほど大きなショップくらいにしか置いていなかった。

そんなわけでこのような再生専用機は基本2台目のDATということになるのだろう。

DT1は写真の通り手のひらに納まるコンパクトサイズだ。
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サイズ(mm):116.3(W)×28.3(H)×69.5(D)
重量:約250g(電池含む)

カセットテープとDT1本体を比べてみる。
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厚みこそDT1のほうがあるもののカセットケースとさほど変わらないサイズだ。

DATテープ自体はカセットテープの約半分なのでカセットがかなりでかく見える。

テープの装着方法が特殊なため、なんとも大げさなイジェクトの状態。
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テープをセットするとこんな感じ。
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この無駄のなさが気持ちいい。

上蓋を閉じたあとはでっぱった部分を奥へと手でグッと押し込む。
電動ではないのでちょっと力のいる作業だ。

このテープセットの手順はウォークマン史上もっとも複雑かつ不安要素満載だ。
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テープをセットしたあとはこれで大丈夫なの?というのが率直な感想。
DT1はヘッドへのローディング時の機械的な音が一切しないからだ。

なぜならこのウォークマンはテープをセットした時点でローディングがほぼ完了している状態。

本体の約1/3を占めるバッテリー部は単3乾電池2本で駆動する。
もちろんACアダプタでの動作も可能。
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アルカリ電池でも4時間しか再生できないという悲しきバッテリーライフだがニッケル水素電池を使えば倍とまではいかないまでも結構使える。
今となっては専用バッテリーでなく、乾電池駆動のウォークマンはありがたい。
(専用バッテリーなら現代ではもうバッテリー駆動で使えなかっただろう)

右側面。
バッテリーインジケータ。
かつてのウォークマンで不評を呼んだリモコン専用端子。
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このウォークマンの全ての機能をリモコンで操作しようということになると専用端子になってしまう。
リモコンが壊れたらどうするのといいたくなるが、このコネクタ形状用のヘッドホンアダプタも同梱されているのでリモコンなしで聴くことも可能だ。

しかし、DT1には別にステレオミニジャックもついている。

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後にこのリモコン制御用コネクタ形状はステレオミニジャックと兼用のハイブリッド端子へと変更される。
当時のリモコン付カセットウォークマンで多く見られたジャック形状だ。

ただ致命的なのはリモコン側のヘッドホン端子がマイクロプラグだったことだ。
(3.5mmより小さいので普通のヘッドホンがささらない)
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というわけでリモコンを使用するとなるとマイクロプラグ専用ヘッドホン(付属)を使用するかマイクロプラグアダプタを使用して普通の3.5mmのヘッドホンを使えるようにしなければならないというわけだ。

このリモコンにはバスブーストやAVLS(オートボリュームリミッターシステム)など、本体では操作できない機能がある。

例えばこんな感じでリモコン+ヘッドホンというめんどくさい使い方もできなくはないが・・・
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どっちにしてもリモコンが壊れたら困るのは間違いない。

本体裏面。
再生、停止などの基本操作ボタン類はホールドシャッター兼のカバーを左へスライドすることで現れる仕組み。
閉じれば操作部が隠れ、誤動作も防げるということだ。
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リモコンの液晶表示部。
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AVLSが効いていることを表すスマイルマークが懐かしい。

そしてDT1の心臓部であるロータリーヘッド。
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このサイズに収めるためにウォークマン用に開発された専用ヘッドである。
通常のDATのヘッドではこのサイズに収まりきれない。

DATはビデオテープと同様、丸い回転ヘッドにテープを巻き付けるように装着させる。

テープ速度は標準モードで8.15[mm/sec] とカセットと比べてかなり遅い。
(ちなみにカセットは48[mm/sec])
テープ確認窓から見ると再生中でも止まってるかのような速度だ。

テープ速度がカセットより遅くても高音質が実現できるのはロータリーヘッドの恩恵だ。

アナログテープは送り速度が速いほど、1秒間当りの記録領域がが長くなるので、その分音質も比例してよくなる。

しかしDATはロータリーヘッドのため、線速度(相対速度)の理論値は余裕でカセット以上となる。
DATテープは1秒に8.15mmしか進まないがヘッドが高速回転している分理論上カセットより長い領域に記録していることになる。
これはビデオデッキと同じ考え方だ。

カセットテープと異なり、本体からテープを引き出してヘッドと接触させるため、機構も複雑になり、トラブルもカセット以上に起こりやすい。
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DATの注意点はプレーヤーにテープをセットしたまま放置しないこと。

カセットの場合はヘッドがカセットの方へ読みに行く構造だが、DATはテープをカートリッジから
引き出してヘッドに接触させるため、テープに負担がかかりやすい。

問題はテープセット後のスタンバイ状態がどうなっているかだ。

この機種はハーフローディングのような状態だろうか?
ヘッドにテープが接触はしていないものの、カートリッジからテープは引き出されている。
テープをセットしたままでの長期間放置はテープが痛み易く、トラブルの原因にもなりかねない。

だからカセット以上に聴かないときはテープはプレーヤーから出しておきたい。

再生専用DATウォークマンはこれ以降、次期モデルが発売されることはなかった。

実質最後のDATウォークマンとなった「TCD-D100」が2005年11月25日付けで出荷完了し、あわせてデッキタイプのDATの生産も完了した。

2005年は事実上のDATの歴史の終焉ともいえる。
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とはいえ、それまでDATが辿った歴史を振り返ればさほど驚くべきことではない。

高音質ゆえの著作権問題で当初はデジタルコピーはできなかった。
その後SCMS(シリアルコピーマネージメントシステム)の採用により1世代に限りデジタルコピーが可能になったものの、ハード・ソフトの低価格化は結局進まず広く一般に普及しなかった。
その後、カセットテープの代替となったMDにその座を奪われる。
MDはディスクメディアなのでテープメディアであるDATより扱いやすく、価格も安かったのだ。

もう一部マニアとプロの現場以外ではDATほどの高音質規格は必要なかったということだ。

DATはもともと民生用にと開発された規格だったが、思いむなしく普及することなくプロ用としてのみ現在も生き残ることになる。

DATが発売された1987年当時を振り返ると、アナログ録音の技術は頂点に達し、カセットへの録音音質は限界まで高められていた。

カセットでもCDとほとんど区別がつかない音質で録音できるほどになっていたのだ。

DATがいくら高音質といっても確かに一般にはオーバースペックだと言われても仕方ない。

パソコンの普及でCD-Rにも無劣化コピーができるようになったことも大きい。

DATはカセット同様テープメディアに変わりなく、ディスクメディアの使い勝手には到底かなわない。

CD-Rへのコピーも著作権問題がなかったわけではないが、ソフト側も対抗しCCCDプロテクトが一時期採用された。
(不評に終わったが)

この頃になるとすでにDATの入り込む余地は微塵もなく、その存在さえも忘れられていたほどだ。

そんなDATであるが今でもオレは大好きだ。
当時はCDから丸々コピーができるのが嬉しくて狂ったようにDATテープの数を増やしたものだ。

今も大切に当時録音したものは持っているが聴くことがない。
音はCDと同等なので文句なしに音質はいい。

ただ何かが欠けているようだ。

デジタル故のオリジナル感の欠如だろうか、情緒がないということなのか。
実は録音する行為こそが楽しかったのかもしれない。

今DATを聴くならば、レコードと同様「音楽をあえてデジタルテープでたしなむ」という感覚が正しいような気がする。

オーディオマニアゆえにDATを歓迎した反面、オーディオマニアがゆえにつまらないとも思う。

オーディオマニアというものは非常にやっかいだ。

高音質を求めているのに、不確かな何かも追い求めているような気もする。

このDT1を眺めていると今もDATウォークマンを作り続けていたらなと思うことがある。

しかしそれはあくまでハードとしての興味からだ。

もっとサイズは小さくなったかなとかバッテリーはどれくらいもつんだろうとか。

カセットの代わりには十分なり得たDAT。
カセット同様ウォークマン、カーステと幅も広げた。

しかし優れた規格でありながらも時代の寵児になれなかった不運の民生用規格。

DATはオレにとっては音楽を聴くためというより、録音だけするためのものだったようだ。

ハードとしては十分面白くもあるが純粋に音楽を楽しめないと思うのはオレだけだろうか。