聖子のオリジナルアルバムでミュージックテープ(カセット)として日本で公式発売されたのはレコード同様CBSソニー在籍時代のもののみ。

事実上、聖子のオリジナルアルバムで最後のミュージックテープとなったのは1996年5月発売の「WAS IT THE FUTURE」だがこれは海外のみの発売だった。
従って、国内ではそのひとつ前のアルバム「It's Style'95」(通算25枚目)が最後のミュージックテープとなった。
(ただし、アジア地域では独自にカセットでの発売が継続されていた)

そんな聖子のミュージックテープ。
どんな特徴があったのか、当時人気を二分した明菜のカセットと比較してみる。

まず、聖子の方がタイトル数が圧倒的に多い。
明菜が16タイトルに対し、聖子は26タイトル。
もちろんデビューが聖子の方が2年早く、休止期間にも違いがあることを考えれば差が付くのは当然。
しかし、現代の常識で考えればアルバムは1年に1枚出せば良い方で、10枚なら少なく見積もっても10年分にあたる。
現代の常識で考えればせいぜい3,4枚の差となるはずが実際はそうではないということだ。
つまり現代よりも約3倍ほどのペースでアルバムをリリースしていたということになる。
実際、両者とも一年に2,3枚のペースでアルバムをリリースしていた時期があったからこそ、これほどまでに差がついてしまったのだ。
もちろん明菜の16タイトルも活動期間を考えれば聖子同様異常な数字だ。
さらにベストやコンセプトアルバムをカウントすればいっそう現代の常識では考えられない枚数となることも付け加えておこう。

次に聖子のミュージックテープにはカセットならではの特典がほとんどないことが挙げられる。
カセットテープであるということはそれだけで音質に不利である。
だからこそレコードと同価格で販売されたカセットは価値を見出しにくいのだ。
明菜のミュージックテープにはレコードに付属したピンナップやカレンダーをカセットサイズにしてつけてきたし、カセット独自のお得な部分もあり、カセットを選択しても大きな負い目はそれほどなかっただろう。
なので明菜のカセットと比べれば聖子のは質素そのものだ。
(もともと聖子のアルバムはおまけが少ないというのもあるが)
聖子の場合、1タイトルだけカセットだけの限定盤が存在したが、カセットでお得と思わせたのはこれだけだった。
比べてお得感があるのは断然明菜のカセットということになる。

次に注目したいのがミュージックテープのリリース年による形状の変化だ。

レコードは時代が変わっても変化は感じられないが、カセットの場合パッケージングが大きく変化していくので面白い。
よってミュージックテープではその歴史も感じ取れるのだ。

そういうわけでミュージックテープにはならではの驚きや発見があるのも魅力のひとつだ。

それでは詳しく見ていこう。


松田聖子 オリジナルアルバム分のミュージックテープ全巻
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個人的には、公式発売されたオリジナルアルバムは上の全26タイトルだと定義している。
うち、一番右端の「WAS IT THE FUTURE」は国内発売はされなかったものの、もともと海外向けアルバムであり、海外では公式発売されたためここに含めている。

よって国内発売分のみと考えるなら下の25タイトルが全てとなる。
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さらに細かく言うなら「North Wind」の初回限定盤と海外盤オリジナル「Seiko」を含めた全28タイトルでコンプリートとなる。
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ところで、並べてみてまず気になったのは背タイトル部分。
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「Windy Shadow」以前までの初期パッケージ9タイトルに限るが、アルバムタイトル以上に目を引くのがシングルタイトルだ。
アルバムタイトルとほぼ同サイズフォントでアルバムに収録されているシングル曲名が記載されている。
これはレコードにはないミュージックテープ独特の慣習によるものだ。

ミュージックテープの収集を始めた頃、これに違和感を持つと同時にすぐにピンときた。
そういえばそうだった。
当時レコード屋で見かけたミュージックテープの棚はこういう感じのが多かったのだ。

カセットで買うということはレコードプレーヤーを持っていないからだろう。
しかし、シングルヒット曲をカセットで聴きたいと思っても当時はまだポップス分野ではカセットでシングルを発売するという感覚はなかったのだ。
(あくまでそういう時期もあったという意味、後発ではカセットでシングルも発売された)
つまり、当時シングルといえばシングルレコードの一択だった時期があった。
なのでカセットでシングルヒット曲を聴きたいとなるとアルバムが出るまで待たなければならなかったのだ。
だからアルバムに収録されているシングル曲を前面に出し、これを買えば聴けますよとわかりやすく明示していたのだ。
ミュージックテープはこの背部分を表にして店の棚に陳列されていたので、膨大なカセットの中からでもお目当てのシングル曲を探しやすかっただろう。

ではなぜこんなご丁寧なことをする必要があったのかということになる。
これは当時を知らなければ理解できないだろう。
まずバックグラウンドにあるのは当時は老若男女問わず音楽ジャンル問わず音楽が親しまれていたということがある。
若者は普段聴かない演歌のヒット曲を知っており、年配者は若者のポップスを知っている。
例えば小学生の誰もが流行りの演歌を歌えるほど知ってるし、おじいちゃんおばあちゃんがアイドルの曲をいくつも知っているという状況だ。
今では到底考えられないだろう。
つまり、アイドルのレコードやカセットと言えど、購買層が広かったということが一番の理由だと思っている。
例えばカセットの購入者はレコードプレーヤーを持たない子供や高齢者が多かったと仮定すれば合点がいくのだ。
もっといえば中学時代のクラスの女子はラジカセオンリーという子が当時はまだ多かった。
単にヒット曲を聴きたいだけであればアルバムタイトルだけを書かれていてもどれを買っていいかわからない。
おじいちゃんが孫に「夏の扉」が入ったカセットを買ってきてと頼まれたら「夏の扉」と書かれた「シルエット」を簡単に見つけることができるだろう。
これはそもそも当時の演歌のカラオケテープ等では当たり前にやっていたことだ。
そういう意味で初期のミュージックテープアルバムはシングルの代わりも担っていたということだ。
この慣習は聖子のアルバムだけでなく多くのアーティストのカセットでも見ることができた。

次にカセットの形状の変化を見ていきたい。

【初期または終末期】
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最もシンプルでコストがかからなそうな形状。

しかし、長期保管には向かない一番ダメなタイプでもある。
見てわかる通り、カセットケースの外に露出した部分(レコードでいう背表紙とジャケット裏部分)が問題となる。
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カセットのインデックスだけでレコードと同じジャケットデザインを再現するにはこうするしかないという苦肉の策だ。
この部分が普段の取り扱いや経年劣化でボロボロになっていくのは当然だ。
しかも紙が薄っぺらく強度がないのでさらにたちが悪い。
中古ではこの部分がボロボロだったり、切り取られていたりと程度の良いものが少ないのがこの仕様の最大の欠点である。
綺麗に保つにはもう自分でカバーをかけるか極力触らないという方法しかない。

これは初期だけに限らず、ミュージックテープの終末期になると再びこのタイプを目にすることになる。
終末期に再びみかけたのは売れないものにお金はかけられないコスト的な理由からだろう。
聖子のミュージックテープでは初期ものに多く見られた。

【中期】
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初期の裏ジャケットぼろぼろ問題を解決した決定版。
これは聖子のオリジナルアルバムではなぜか存在しない。
厚紙製のスリーブケースにカセットケースを収納するタイプだ。
このスリーブケースにジャケットの裏表を印刷することでレコードと同等のジャケットデザインが可能となった。
当然ジャケット写真はLPに比べずいぶん小さくなるが初期仕様と比べれば大きな進歩だ。
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しかし、スリーブケースもLPジャケットほどの耐久性はないので、汚れや破れの問題はそのままこのスリーブケースが引き受けることになる。
そのおかげで中のカセットケースは保護されるのは利点である。
ミュージックテープといえばまずこれ、という佇まいで親しまれた形状だ。

聖子のオリジナルアルバムでこれを採用したものはないが、初期のベスト盤やサントラでこの形状を採用しているものがある。

【後期】
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これぞまさにミュージックテープの最強進化形だ。
これは当時Gカセットと呼ばれソニー系レコード会社で多く見られた。
初めて見た時は画期的だと思った。
ジャケットとケースが一体型でまさにCDケースのカセット版といったところ。
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ジャケットはさらにビニールカバーで覆われ、ぼろぼろ対策も万全。

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カセットはワンアクションで取り出し可。

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歌詞カードは収納場所が確保され、この樹脂製ケースは非常に割れにくい。

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あえて欠点を挙げるなら、カセット側面が露出しており、ここだけは汚れる。
カセットへのほこりの混入も避けられないのは言うまでもない。

カセット全般の残念な部分のひとつにプラケースが割れる、または汚れて曇るというのがある。

(これはCDのプラケースにもいえることだが)
そのケースがなくなったというだけでなんとストレスが減ることか。
ただし、これは一時代に採用されたミュージックテープ専用ケースのため、交換用ケースが存在しないのが泣き所だ。
また、複数収納できないので2枚組の場合は2個口にする必要がある。
(Bible等はこの仕様)

とにかくミュージックテープは他メディアに比べて外装を美しく保つことがとても難しいメディアなのだ。

ちなみにこのGカセット形状は改良版であり、これ以前の初期仕様ケースも存在する。

下の大滝詠一「A LONG VACATION」はいち早くこのケースを採用していたが、ビニールカバーがないのでジャケットが汚れるタイプである。
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露出したジャケットは多少の防水加工がされており、破れにくいものの汚れだけは避けられない。

さらに歌詞カードの収納スペースを確保していないため、ケースとジャケットの隙間に挟むことになる。
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固定されない歌詞カードはケースの開け閉めでずれていき、背ラベル部分に移動すると曲がって癖がついてしまうという欠点があった。

聖子のミュージックテープは全て改良版が採用された。


それでは個別に見ていこう。


SQUALL
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発売日:1980年8月1日
価格:2,700円
品番:27KH 844

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記念すべきファーストアルバム。
レコードとカセットの2メディアで同時発売された。
1980年と言えばオレはまだ小学生で聖子のアルバムまでは聴いておらず、リアルタイムでは知らないアルバムだった。
(とはいっても歌番組を見てシングル曲は知っていた)
そもそも初めて聖子のアルバムを聴いたのは1982年の6th「Candy」で、それも友人がレコードからダビングしたカセットを借りて聴いたのが初だった。
その後、自分の意思で聖子を聴いたのは「オーディオ小僧ダビングの流儀」でソースとした1983年の8th「Canary」を貸しレコード屋から借りてきた時だ。
なので数年遅れて聴いた「SQUALL」には当然思い入れはないのだが、後追いで聴いた時の感想は「なんか古臭い」だった。
何しろ「ユートピア」「Canary」「Tinker Bell」あたりが聖子の入口となればそりゃ古臭いと思うのも無理はない。
それだけ聖子の楽曲が進化していたということでもある。
しかも声質が「風立ちぬ」あたりから変わっていたのでいわゆるキャンディボイスではないファーストアルバムの頃の聖子の歌声にさらに違和感を感じたのだ。
聖子ほどの長いキャリアになると、ファンには必ず自分の世代のアルバムがあるわけで、どんなに名作と言われようが自分の中の名作は人それぞれなのだ。
とはいえ、年を取れば好みも多少は変わる。
(というより、いいものがわかるようになるといった方が正確か)
子供の頃に食えなかった野菜が食えるようになった程度であるが、そんな好みの変化が一番大きかったのもこのファーストアルバムである。
ここから「Tinker Bell」までは初期仕様形状のため、ジャケットにあたるインデックスカードがいかに綺麗に残存しているかがポイントとなる。
聖子のミュージックテープとして最古であるが、タマ数が多いので中古といえど程度のいいものもまだ存在するだろう。


North Wind
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発売日:1980年12月1日
価格:2,700円
品番:27KH 932

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聖子のオリジナルアルバムのミュージックテープでは唯一初回生産限定仕様の特殊パッケージが存在するアルバム。
(聖子の限定仕様カセットは2つあるが、もうひとつはベストアルバム「Seikoe・Plaza」である)
レコードでは初回仕様がないアルバムでなぜカセットだけなのかは謎であるが、当時は確かにカセットのみの発売とかカセットが優遇されるケースも少なくなかった。
品番は同じであり、価格も据え置きなのでかなりお得といえる。

その初回限定盤を細かく見てみよう。
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発売日:1980年12月1日
価格:2,700円
品番:27KH 932

一目瞭然、カセットケースサイズではない。
サイズはおよそ14cm×11cm×1.5cm。
通常盤ではカットされている部分(両肘)のその先まで見ることができるジャケットがうれしい。
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この手のものはだいたい紙で作られており、サイズは規格外で自由自在だ。
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型は全て紙で作られている。

カセットサイズに縛られないことで封入されるものも制限がなくなる。
しかし、通常サイズのカセットと一緒に保管できないのは難点だ。
また、紙製である以上ケースの経年劣化は避けられない。
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固定されていない蓋を開けると、上のように収納されている。
蓋裏には別ショットの写真、ケース側には聖子のサインが印刷されている。

カセット本体はこの時期の通常色であるホワイトハーフとは異なるブラックのハーフを使用し、通常盤との差別化を図っているようだ。
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歌詞カードは見開きタイプで、開くと横12.7cm×縦20cmのビッグサイズになる。
LPの歌詞カードと同じ紙質で作られているため、丈夫で歌詞も見やすい。
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このショットはレコードでも使用されていない特別な撮りおろしなので、レコードよりもお得な部分といえる。

カセット本体は通常のプラケースでなく樹脂製の特別ケースに収納され、聖子のイラストとサインが印刷されている。
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このケースはソニーのブランクテープでも一時期使われたことがあり、これが初見ではない。

屋外に持ち出す時はこのケースだけを持ち運べるよう配慮されている。
ケース用に曲目が記載されたカードが付属するのだ。
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これはシールになっており、ケースに直接貼り付けることができる。
タイトルは上の写真の背ラベル部分に張り付けられる。

曲目はここら辺だろう。
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聖子の限定仕様は少ないので希少な一品といえる。


Silhouette ~シルエット~
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発売日:1981年5月21日
価格:2,800円
品番:28KH 992

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レコードとカセットの価格が2700円から2800円に変わった価格変更後のアルバム。
以降1980年代はレコード・カセットとも2800円が定着することになる。
オレの中ではレコードといえば2800円だ。
当時でも2700円のLP、600円のシングルを見ると古いなぁという印象を受けた。
2800円といえば子供には大金だが、価格相場は現在とさほど変わらないようにも思う。
しかし、現代のアルバムは余計なものをつけすぎだ。
それで価格をつり上げている感があり、現代のほうが高いと錯覚してしまう。
限定盤、通常盤、配信など選択肢が増えたのは手放しで喜べるものではない。
大した特典もなく、皆同じアルバムを持っていた当時のほうが純粋に音楽に没頭できていたような気がしてならない。


風立ちぬ
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発売日:1981年10月21日
価格:2,800円
品番:28KH 1083

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聖子の声質の変換期として有名な4thアルバム。
聖子として初めてシングルタイトル名がそのままアルバムタイトル名となり、コンセプト性が強いことでも有名だ。
A面は大滝詠一のアルバム「ロングバケーション」の曲と対をなしており、大滝がリリースできなかった実質のロンバケ2であると大滝は後に述べている。
聖子の初期ミュージックテープの中で「風立ちぬ」のような、色使いの少ないジャケットは傷みが目立つ傾向にある。
初期仕様のケースであるゆえ、ジャケット写真が色落ちしやすいのだ。
もちろんこれはカセットでのみ言えることで、レコードジャケットは紙質が違うので問題ない。


Pineapple
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発売日:1982年5月21日
価格:2,800円
品番:28KH 1160

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ここにきて一気に聖子のアルバムイメージが明るくなったと感じるアルバム。
ジャケット写真も初めて歯を出して笑う姿が採用され、最も夏を感じさせる1枚だ。
キャンディボイスに明るい曲調、全編元気に歌い上げるこのアルバムは初めて聖子を聴く人にもおすすめだ。
個人的な感覚として、パイナップルのミュージックテープは意外にまともな個体が少ないように感じる。
人気盤であるせいか、流通量は多いものの痛みが激しいものも多く、コレクションに苦労したカセットのひとつだ。


Candy
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発売日:1982年11月10日
価格:2,800円
品番:28KH 1252

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オレが人生で初めて聴いた聖子のアルバム。
別記事に書いた通り、初期ロットでテイク違いが収められたアルバムだが、それがこのミュージックテープにも存在することを確認している。
松田聖子 オリジナルアルバム「Candy」ファーストプレス盤検証

もちろん当時はそんなことは知る由もない。
当時聴いてどう感じたかはよく覚えていないが、シングル曲しか知らないガキだったオレは大人の世界を垣間見たような気持ちだっただろう。
当時聴いたのは友人のK君がダビングしたカセットでだ。
インデックスにはK君が手書きした曲名が記されていた。
ただ、B-5「真冬の恋人たち」が「真冬の変人たち」と書き間違えていたことだけは忘れられない。
「これ間違いだよな」と一応確認したことを覚えている。
結果的にK君のおかげで思い出のアルバムとなったのだ。
(ただし、K君がダビングしたカセットの音はキラキラしていて抜群によかった)
貸しレコード屋の存在を認識したのもこの頃だろうか。
買えないなら借りればいい。
お金がなくても聴ける音楽が増えることにワクワクした。
ある意味オーディオに目覚めるきっかけにもなったアルバムだ。


ユートピア
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発売日:1983年6月1日
価格:2,800円
品番:28KH 1310

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前作で聖子のアルバムを意識したにも関わらず、この超名盤の当時の記憶がほとんどない。
ダビングしたものを聴いていたのには間違いないが、発売後すぐではなかったと思う。
数年後にレコードで所有することになるが、やはりリアルタイムで聴いていないと当時の感想が溢れ出てこないようだ。
やはり音楽は可能であればリアルタイムで聴くことがとても重要だ。
その時代の出来事、空気も含めてアルバムに想いを託すのは何事にも替えがたい財産になるのだ。


Canary
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発売日:1983年12月10日
価格:2,800円
品番:28KH 1425

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「オーディオ小僧ダビングの流儀」の記事ではソースアルバムとした、オレが初めて自分でダビングした思い出のアルバム。
オーディオ小僧 ダビングの流儀 その1(カセット選定編)

当時の貸しレコード屋で見た店内の様子など細部を未だに記憶しているのもこのアルバムのおかげだろう。
なぜこのアルバムを借りたのか理由を覚えていないが、これでも自分の中では目一杯背伸びした方だ。例えば、気になっていた女の子を急に意識してしまったような、恋心に近い感覚だったかもしれない。
そんな不純な理由で選んだ最初の一枚だ。
とにかくオレのオーディオの原点となったアルバムといっても過言ではない。
といってもまだラジカセしか持っていない頃なので、ダビングするかFMラジオが新しい音楽を聴くための手段だった。
そういえばオーディオを意識するようになってからはミュージックテープを買うことはなくなった。
もっぱらレコードからダビングを繰り返し、これから買うならレコードという感じだった。
自分でカセットに録音した音は本当に最高だった。
なぜこんないい音で録音できるのか不思議でしょうがなく、そこからオーディオに興味を抱いたのだろう。


Tinker Bell
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発売日:1984年6月10日
価格:2,800円
品番:28KH 1485

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オレにとって聖子にどハマりするきっかけとなったアルバム。
もちろん聖子アルバムマイベスト10には確実に入るほどのお気に入りだ。
当時はやはりダビングしたものであるがここからはリアルタイムで聴いたのは間違いない。
(たしか奮発してマクセルのXL-ⅡS(金ラベル)にダビングしたはず)
この頃になると、とにかくレコードからダビングするという作業が面白くて仕方なかった。
未だにA-1イントロのロードスターのエンジン音を聴くと当時の情景が目に浮かぶ。
友人の間でもオーディオ仲間は多くなり、オーディオ談義に花を咲かせたあの頃が懐かしい。
カセットテープにはごひいきのメーカーがあり、「流派」があることを意識したのもこの頃だっただろう。
ダビングしたカセットが1本また1本と増えていくことがとても嬉しかった。
それと共に自分でダビングしてみたいと強く思い始めたのもこの頃だ。
兄貴がいる友人はそのおかげですでに自分でダビングできる環境を手に入れており、すごく羨ましかったのを覚えている。
その友人の家には学校帰りによく集まっていた。
メーカーは忘れてしまったがレシーバーにレコードとスピーカーを組み合わせた本格的なコンポを兄から譲り受けたのだと言っていた。
貸しレコード屋にも一番近いその友人宅で1枚のレコードを全員でダビングしたことはいい思い出だ。
ダビングの最中はもちろん電気屋でもらってきたオーディオのカタログをみんなで眺め、あれが欲しいこれが欲しいと語り合った。
オーディオのモチベーションのひとつの要素は競い合いであると思っている。
そんなオーディオ好きな友人に囲まれて、誰が一番最高の音質で聴けるのかに熱くなっていたからだ。
では、今のオレのオーディオに対するモチベーションは何だろうかと考えた。
結局のところ今は楽しかった80年代の追体験をするために当時のオーディオやレコードを買い集め、アナログの音をたしなむことが一番のモチベーションになっている気がする。
オーディオの音質はその次なので、ハイエンドとは到底言い難いシステムで聴く貧乏オーディオマニアなオレであるが、それに満足もしている。


Windy Shadow
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発売日:1984年12月8日
価格:2,800円
品番:28KH 1600

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ここからはミュージックテープ史上最強の樹脂製ケース<Gカセット>の出番となる。
中古でもこのケースを採用したものはだけは綺麗なものが多い。
汚れには非常に強いが日焼けしないわけではないので油断は禁物だ。
また、このアルバムからカセットのハーフが白からグレー系スケルトンに変わる。
ただし、再び白ハーフに戻るのでこの変更理由は未だ判然としない。
このアルバムはプレス時期の違いで別テイクが収録されていることで有名だ。
松田聖子 オリジナルアルバム「Windy Shadow」ファースト/セカンド/サードプレス盤検証
LP、カセット、マスターサウンド(LP/カセット)、初盤CD、と発売当時の全メディアでテイク違いが存在すると思われる。


The 9th Wave
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発売日:1985年6月5日
価格:2,800円
品番:28KH 1685

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聖子のCBSソニー中期アルバムとしては個人的にそれほど印象に残っていないアルバム。
やはりこれ以前のアルバムが良すぎて、明らかなパワーダウンを感じていたからだと思う。
ただし「星空のストーリー」だけはなぜか好きすぎて未だに何度もリピートしてしまう自分がいる。
ベースラインが独特でかっこいい曲なのだ。
聖子のようにたくさんのアルバムが出ていると、もうなかなかアルバムを1枚通しで聴くことがなくなってくる。
そんな時はお気に入りの曲だけ飛ばして聴くのだが、ミュージックテープであれば曲飛ばしは逆に面倒。
(というか選曲が難しい)
そういう意味ではアルバムに最も真正面から向き合えるメディアこそカセットなのだなと思ってしまう。
好きな曲が1曲でも入っているアルバムはその理由だけで、アルバム自体を思い出して聞き返すきっかけとなるものだ。


SOUND OF MY HEART
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発売日:1985年8月15日
価格:2,800円
品番:28KH 1720

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全編英語詞で話題となった1枚。
当時はてっきりこれで海外進出するかと思ったが、実際は国内販売に留まったようだ。
未だにこれはなんだったのかと思うが、その後の聖子の海外向けアルバムを見ても、アジア人はそうそう欧米圏で受け入れられるものではないのだと当時実感していた。
ただ「DANCING SHOES」など一部の曲は海外盤シングルが存在しているので、アルバムも海外で発売されていた地域があるようだ。
(日本では12インチシングル化された)
当時の感想は歌詞はわからないが曲はかなりカッコいい曲ばかりだと思っていた。
当然のことながらこれまでの聖子の楽曲とは大きく雰囲気は異なるが、決して駄作というわけではなく、むしろ十分評価できる作品だと思っている。
まぁ逆にこの時聖子が海外流出してしまっては後の名盤も生まれなかったわけで、現代のスタンスが確立できたのも、この当時からの地道な積み重ねがあったからということなのだろう。


SUPREME
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発売日:1986年6月1日
価格:2,800円
品番:28KH 1850

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前作から約10か月、本来の聖子が帰ってきた。
ミュージックテープの裏面にはここからバーコードが印刷されるようになる。
ひとつ思ったのはカセットのサイズではバーコード部分が結構場所を取るものだということ。
以降のカセットを見てもデザインの妨げになっていると感じる。
また、カセットのハーフが再び従来の白に戻ったのは謎である。
この時、聖子は結婚・出産し、その芸能活動休止中にリリースされたのがこのアルバムだ。
普通、アイドルは結婚してしまえば人気は落ちる、当時は特にその傾向が強かっただろう。
正直オレもがっかりはしており、聖子熱が冷めていたのは否定できない。
しかし、このアルバムを聴いた時、クオリティの高さに驚いたことを覚えている。
実際、未だにセルフカバーや多くのアーティストがカバーもする「瑠璃色の地球」や「蛍の草原」などの名曲揃いでいまもよく聴くアルバムだ。
オレとしては結婚してしまった聖子のファンをやめようと思っていたさなかのことだ。
思うに「The 9th Wave」「SOUND OF MY HEART」と明らかな失速感(迷走?)があったと思っていただけに意表を突かれてしまった。
こんなアルバムを出されては、もう復帰が待ち遠しくて仕方なかった。
もし新しいアルバムが出るのなら絶対に買おう、と聖子ファンであり続けることを決心したことを覚えている。

”アイドルは結婚すればもう終わり”。

そんな常識を覆したのは聖子だったのではないか。

オレはアイドルとしての聖子が好きなのではなく、聖子の歌声が好きだったんだと思った瞬間だ。

大人の階段を1段登って、アイドル好きのオーディオ小僧が音楽好きのオーディオ小僧に成長した節目のアルバムとなった。


Strawberry Time
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発売日:1987年5月16日
価格:2,800円
品番:28KH 2157

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聖子のオリジナルアルバムカセットとしては初めて冊子タイプの歌詞カードが添付された。
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前作から待つこと約1年。
待ちに待った復帰第1弾アルバムが発売された。
この時ほどうれしかったことはない。

このアルバムは発売の報を聞いてレコード屋で早々に予約していたので、本当に待ち遠しかった。

(買ったのはレコードだが)
当時、オーディオ小僧の行きつけのレコード屋は2軒あった。
その内の1店舗で店長と顔見知りになっていたのでこれの販促用のポスターをもらう約束をした。
店長が「ポスターの裏に名前書いといて」と言うので名前を書いておけば後でもらえたのだ。
考えてみたら「SUPREME」の宣伝用ポスターも貰ってたことを思い出した。
(もちろんお店に1枚しかないので早いもの勝ちだった)
さらに思い出したが、行きつけの家電屋でも宣伝用のポスターなどを貰っていた。
珍しいものでは薬師丸ひろ子の等身大パネルを貰ったことがある。
(確か東芝ビデオデッキの宣伝用パネルだった)
自転車で持ち帰るのに風に煽られたり、人に見られたりでちょっと恥ずかしかった思い出だ。
我ながら当時の行動力(情熱)には呆れるほどだ。
さて、発売日には手にしたこのアルバム、早速家に帰って聴いてみた。
その時の感想はもう言葉で言い表せないほどの感動だった。
当時人気だったTMネットワークの小室の曲あり、その他ビッグアーティストから提供された楽曲ありでそれはもう素晴らしい。
聖子がパワーアップして帰ってきたと思ったし、もう聖子ワールド全開な曲ばかりだし音もいい。
未だにマイベスト3に入るほど好きなアルバムとなった。
また、このアルバムはオレが買った聖子最後のレコードにもなった。
この後CDプレーヤーを手に入れたので、以降全てCDで買うことになる。
月日は流れ2020年、長い年月を経て聖子の新譜レコードを再び手にすることになる。
その時思い出したのがこのストロベリータイムだ。
あれから33年の月日が経ち、オレはおっさんになった。
しかし、ストロベリータイムを聴けば気持ちだけは当時のオーディオ小僧に戻れるのだ。


Citron
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発売日:1988年5月11日
価格:2,637円
品番:28KH 5040

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前作からさらに1年。
オレが聖子のオリジナルアルバムとして初めた買ったCDだ。
また、国内で発売された聖子のオリジナルアルバムのレコードはこれが最後となった。
この時、もうレコードを買うという選択肢はなくなっていたのだ。
当時の心情は「レコードよさようなら、CDウエルカム」だ。
レコードの終焉に名残惜しさなど一切なく、ただ新しいCDというメディアに夢中だった。
そんなレコードの影に隠れて発売されていたカセットは存在すら忘れていた。
CDの販売から実に6年、やっと手にしたデジタルの聖子の世界に魅了されていた。
ここまではレコードが存在するとはいえ、当時オレが聴いたのはCDのデジタル音源。
よってこのアルバムの音の基準はオレの中ではデジタル音源だ。
そしてこのCDの音はそれはまぁいい音だった。
録音はロサンゼルスでデビッド・フォスターがプロデュースの完全海外録音だ。
しかしこのアルバムには一種独特のスタジオの音があるような気がした。
表現が難しいが、柔らかく、日本の録音とは違って聴こえたのだ。
良いか悪いかとかではなく空気が違う感じだ。
これまでの聖子のアルバムとは何か違う不思議な感覚を覚えた。
空気感といえばこれ以前にも同じ感覚を持ったアルバムがある。
松任谷由実の「昨晩お会いしましょう」だ。
気のせいかこれも独特の空気感があってやけに生々しさを感じたのだ。
スタジオの空気が録音されているのか、もっと電気的な何かの影響なのか、とにかくそういうアルバムに出会った時はオーディオやっていてよかったと思うし、オレの中では強く印象に残るアルバムとなる。


Precious Moment
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発売日:1989年12月6日
価格:2,800円
品番:CSTL1039

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CBSソニーのカセット品番がここから変わる。
そして、このアルバムからはもうレコードが存在しないので、アナログ音源はこのカセットだけとなった。
そういう意味ではこの品番の変更がその目印になる。
アナログ音源が残ったとはいえ、CDと比べれば音質はかなり劣ると言わざるを得ない。
だからこそレコードだったらどんな音がだっただろうと考えることがある。
そういう意味でここからのアルバムをレコードで復刻するというのも有りだろう。
とにかくこれ以降のミュージックテープは当時のアナログ音源として価値があることは間違いない。
カセットで聖子のアルバムを買い続けていた人にとっては、そのまま継続できるのはありがたいだろうが、さすがにこの頃はCDの普及にも拍車がかかっていた頃だ。
カセットの売り上げは右肩下がりになっていただろうことは想像に難くない。
そういう事情もあってか、これ以降の聖子ミュージックテープの中古は激減する。
デビュー当時のミュージックテープはゴロゴロあるのに、新しいアルバムほど入手しにくいという状況になっているということだ。
売れてないからという理由で希少なのは、MDやDCCソフトも同様なので不思議ではない。
これ以降のミュージックテープは音源的に全て最重要となる。


Seiko
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発売日:1990年6月7日 ※海外では5月15日
価格:2,300円
品番:CSTL1090

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事実上の海外デビューアルバム。
国内では約1か月遅れの発売であったため、オレは当時輸入盤CDを購入し、後に国内盤CDも手に入れた。
ミュージックテープにおいても同様、国内盤と海外盤が存在した。
価格は海外相場を反映したためか2,300円となる。
売上的にはまず成功を収めたようであるが、やはり外国人には聖子のボーカルは理解できないのだと痛感したアルバムでもある。
結局は日本国内ではそこそこ売れたようだ。
現代に至ってはシティポップのブームで聖子の楽曲までも見直されているようであるが、このこともあり、今さら認められてもという感じだ。
そりゃ日本人からすれば英語より日本語の曲の方がいいに決まっている。
だからこのアルバムは聖子の他のアルバムに比べて国内では売れなかったかもしれないが、聖子の声は類まれなる日本の絶対的宝なのだ。
声量ばかりデカく技量にこだわるばかりの海外アーティストを基準に比較し、それ以外を見ようと(聴こうと)しないのは海外のダメなところだ。
(米国のオーディション番組アメリカンアイドルを見てるとそれがよくわかる)
日本人は理解できない言語の歌でも単純にメロディ(音)だけで好む人は多くいる。
だからなんでも受け入れることができるし音楽の幅も広がるのだ。
ボーカルを楽器の一部として聴くことが潜在的にできる民族なのだろう。
おそらくは欧米人にとって聖子の声はアニメ声優のような声に聴こえ、子供っぽいということが本音なのだ。
(本当にくだらない)
まぁそういったことで音楽そのものを聴こうともしない固定観念がなくなりつつある現代であるからこそ、いま日本のシティポップが理解されはじめたのだろう。
さて、恨み節はこれくらいにしておいて、このアルバムは海外デビュー作であり、発売も海外が先ということで、海外盤がオリジナルという解釈が正しい。
なのでそれも掲載しておこう。

・北米盤
品番:CT46046
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これが北米オリジナル盤となる。
カセットはスケルトンでテープとハーフの接触を防ぐセパレーションシートが黒色となる。
また、インデックスカードがジャケット、裏ジャケット、歌詞カード兼一体型という画期的?な形状だ。
海外ではこれが一般的なのだろうが、驚くべきはジャケット裏がカセットケース内に収められていること。
これにより、初期国内盤の弱点であった裏ジャケットぼろぼろ問題は解決するのだ。
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ケース内で取りまわすので、裏ジャケット部分には穴を開けてテープ止めを通すという発想は素晴らしい。

ついでに手持ちがある香港盤も載せておこう。

・香港盤
品番:CJK1472
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これは香港で発売されたいわゆるアジア盤というこになる。
ケース形状は日本の初期仕様に近く、カセットはほぼ国内仕様と同等だ。
裏ジャケットは切り取られたような形跡もあるようで、これが完全な形かどうかは不明。


We Are Love
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発売日:1990年12月10日
価格:2,800円
品番:CSTL1569

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CDの初回盤はスペシャルパッケージで豪華だった。
レコードの時とはそれほどでもなかったパッケージの差もCDに置き換わり大きくなった。
ミュージックテープの限界は音質だけでなく、サイズの限界でもあり、CDにはもう太刀打ちできない状況になっていた。
例えば「North Wind」の初回限定のようなパッケージにでもしない限り、明らかにカセットでは損した気分になってしまう。
もう、持てる武器はアナログ音源であることだけでそれ以外何もない状況だ。
とはいってもこの時代のアナログ音源はレコード亡き後の貴重音源。
レコード発売が無くなってからのカセット音源はアナログの音を聴ける唯一のメディアとしての意義がある。
アルバム自体は12月の発売ということもあり、季節感あるクリスマスアルバムのような雰囲気をまとっている。
「SOUND OF MY HEART」の時同様、英語アルバムの後の懸念は全くなく、いつもの聖子ワールドも健在のお気に入りのアルバムである。


Eternal
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発売日:1991年5月2日
価格:2,800円
品番:SRTL1714

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ここでも品番が少し変わった。
聖子初の初カバーアルバムだがフルカバーでなく1曲だけオリジナルが収録されている。
オレ的にはカバーアルバムならコンセプトアルバムの部類に入るのではと思っているが、公式にはオリジナルアルバムとして分類されている。
カバーなのでオリジナルを知っている曲、知らない曲があったが、総じて言えるのはアレンジの素晴らしさが光るアルバムということ。
カバーと言えば80年代の大映ドラマ主題歌として日本で大ヒットした曲たちを思い出す。
中でも「スクール★ウォーズ」の「Hero(麻倉未稀)」や「ヤヌスの鏡」の「今夜はANGEL(椎名恵)」は秀逸だった。
これらは日本語詞に置き換えられ、アレンジは原曲以上にかっこよかった。
原曲を知らずにカバーを先に聴いた当時のオレはこれらカバー曲に熱狂したものだ。
とにかく日本語版のアレンジは絶妙で、申し訳ないが原曲よりカバーの方が好きなものがほとんど。
そんなバックグラウンドがあって、このアルバムのアレンジも安心して聴けたというのがある。
後に続編が制作されたのはこのアルバムの評判がよかったからということだろう。


1992 Nouvelle Vague
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発売日:1992年3月25日
価格:2,800円
品番:SRTL1807

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90年代に入るとオレは聖子のライブにかなり足を運ぶようになる。
全て日本武道館公演だったが、3日間全てを見た年もあった。
その後発売されるライブのLD(レーザーディスク)も欠かさず購入したものだ。
このアルバムを引っさげたライブツアーも例にもれず見に行った。
この頃からか、ライブ前に発売されたアルバムを短期間で聴き込むようになる。
直近のアルバム曲を知らなければライブが盛り上がらないという理由からだ。
聖子は毎年定期的にライブをやってくれたので、ファンの間ではいつの間にかそんなことが慣例となったのだ。
ただこんなことが続くと、アルバムを聴くという行為がライブのためということに置き換わるのは当然の流れだろう。
(逆にいうとライブが終わると聴かなくなる)
当の聖子もライブツアーのために新譜を出さなければという義務感のようなものがなかったとは言い切れない。
この頃になると聖子のアルバムは自ら作詞作曲した楽曲が多くを占めるようになる。
一人でそれをこなすことがどれだけ大変なのかは想像を絶する。
そしてそれを待ち望む何万人ものファンがいるのだ。
となると懸念されるのは楽曲のクオリティだ。
多くは語らないが、アルバムの目的がライブのためという比重が高くなれば残念なアルバムが出てくることも予想できる。
しかし、ひとつ言えることは90年代のアルバムはそれでもクオリティが高かったということだ。


Sweet Memories'93
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発売日:1992年12月2日
価格:2,800円
品番:SRTL1853

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既存曲のリメイクを多く含むコンセプト性の高いアルバム。
残念ながらオリジナルアルバムとしてのクオリティは持ち合わせていないと思っている。
(リリース時期も12月だし)
おそらくこのアルバムを好きなアルバム上位に持ってくるファンは少ないことだろう。
完全コンセプトアルバムとすればまた意味が違ってくるのでそれなりの評価はできるアルバムであるが、オリジナルアルバムにラインナップするのであればこれはかなり弱い。
あまり聴きこんでいないアルバムのひとつで、このアルバムを今聴いてもなにも思い出が出てこない。
タイトルの付け方でも損をしている、これはないなと思う一枚だ。


DIAMOND EXPRESSION
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発売日:1993年5月21日
価格:2,800円
品番:SRTL1864

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オレ的にはオリジナルアルバムとは認められなかった前作から約半年後。
待ちに待ったニューアルバムはとても満足のいくものとなった。
まずジャケットがいい。
「Pineapple」を思わせる黄色を基調とした派手なジャケットだ。
タイトルも何やらゴージャスな雰囲気。
(ダイアモンドというワードは聖子にとって定番ワードな気がする)
もちろん曲も粒揃いの良曲が多く、今でもちょいちょい聴きたくなるアルバムのひとつ。

好きすぎて怪しいアジア盤も入手したのでついでに載せておこう。
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聖子の「聖」が・・・
やはり国内盤だけでいいやと思わせた1本だった。


A Time for Love
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発売日:1993年11月21日
価格:2,800円
品番:SRTL1899

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クリスマスコンセプト要素が強いアルバム。
しかしこのアルバムとにかくジャケットが好きなのだ。
この聖子は最高に可愛いと思う。
(髪型がかなりレア)
オレのジャケットベスト10を選ぶなら必ず入ってくるだろう。
これのAmazonメガジャケが欲しい。

それはそうと、この記事ではすでにレコード未発売分に何タイトルか突入しているわけだが、ミュージックテープについてひとつだけ考える部分がある。
それはA面とB面のことだ。
1989年の「Precious Moment」からはレコードが存在しないのでつい忘れていたのだが、カセットでは当然のことながらA面とB面が存在している。

つまり作り手として、A面B面を意識したアルバム作りをまだやっていたのかということだ。
(それは現在にも通ずることだが)
以前どこかの記事で書いたが、レコード時代のアルバムはA面からB面に切り替える間が発生するため、これを前半後半と捉えて、ある種のストーリー性がそれぞれの面にあったということ。
(別にストーリーがなくてもいいが)
また、レコードの外周と内周の音質差や収録時間という制約がそのストーリーを描くための一種の縛りの要素があったのだ。
ただ、CDの時代になると真ん中で分けて考える必要はないので制約無しで自由に作れる。
1曲目から10曲目までで大きなストーリーを好きに描けばいいのだ。
しかし、カセットでもリリースする以上はまだ何かストーリーがあるのではとつい意識してしまうのだ。
たしかにレコードからCDへ移行したての頃は、オレもなんとなくCDにはまだその名残りはあるなと意識していたものだが、果たしてどうなのか。
カセットテープで音楽を聴くということは、そんなメッセージも含めて聴くということなのだ。
CDであってもそんなことを考えながら聴くと、また新しい発見があるかもしれない。


Glorious Revolution
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発売日:1994年6月12日
価格:2,800円
品番:SRTL1911

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このアルバムでもいえることであるが、オレはアルバムの1曲目はロック調で導入するものが好きだ。
(最低限キャッチ-なポップスであればよい)
90年代に入ってからもその傾向が続いていたので、作曲は聖子本人がやっているということはほとんど意識していなかった。
もちろん当初の作曲は小倉良との共作ではあったものの、80年代の天才作家の協力により作り上げられたアルバムと比べても大きな遜色があるとは感じなかったのだ。
聖子はアイドルなので曲まで作る必要はない、ボーカルだけに集中してくれればと思うのはファンの偏見かもしれないが、ファンとしてはやはりいい曲を聖子に歌ってほしいと思うものだ。
しかし、90年代のアルバムを振り返ると好きな曲は山ほどあることにも気付く。
つまり聖子は作曲の才能もあるってことだ。
ただし、どんな有能な職業作家であっても駄作はあるし、出てこないこともあるだろう。
アイドルである聖子ならなおさらそこは責められない。
しかしながら90年代のアルバムは80年代の流れから大きなギャップもなく順当に聴いていられたような気がするのだ。
何が言いたいかというと、全曲聖子が作曲のアルバムも忖度なしでいいアルバムはあるということだ。
現代に至るまで、かなりの曲を聖子は作ってきたが、さすがに90年代までの勢いは感じられない。
そんな中でも自分が好きな傾向の曲を集めてマイベストを作るとするなら、かなり強力なアルバムが作れると思うのだ。


It's Style'95
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発売日:1995年5月21日
価格:2,800円
品番:SRTL1951

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聖子の国内盤ミュージックテープとして最後のアルバムとなった。
よってこれ以降、アナログ音源は国内では公式に存在しないということになる。
(ただし、プロモ盤としてレコードやカセットが作られることもあった)
そういう意味ではアナログで聴ける最後のアルバムであり、このミュージックテープは大変貴重だ。
特筆すべきは最後までGカセット仕様を貫いたことだ。
ミュージックテープの歴史を見る限り、90年代の終末期は先祖返り(初期に戻る)していったメーカーも多い。
CDが普及し、売れなくなったカセットにコストがかかりそうなGカセットで出してくれたことの意義は大きい。
この形状は汚れに強いため、未だ中古品でも綺麗なままであることが多いからだ。
アルバムは全体にキャッチ-かつポップな安定の仕上がりとなっており、今でも時々聴きたくなる1枚だ。


WAS IT THE FUTURE
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発売日:1996年5月14日 ※国内はカセット未発売
価格:不明
品番:31454 0480 4

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「Seiko」に続く第二弾全米向けアルバム。
パッケージングは前作同様の海外仕様。
このアルバムは裏ジャケットにも写真を使っているので仕組みがわかりやすい。
シンプルにして非常に優秀なパッケージ仕様なので日本でも採用してもらいたいほどだ。
日本国内ではCDが約1か月遅れで発売され、メディアもCDのみとなった。
そうなると、やはりオリジナルはこの北米盤ということになるだろう。
このジャケットはかなりお気に入りでLPサイズも欲しいなと思わせる。


おまけ

Vanity Fair
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発売日:1996年5月27日
価格:不明
品番:532454-4

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これはミュージックテープの公式盤としてカウントしないおまけ。
基本的に海外盤には興味がないのでオリジナルでなければほとんど所有していないが、リリース順につながるということでこのアジア盤を掲載することにした。
日本語の通常のアルバムは当時もアジア圏では広く発売されていたため、このようにカセットが存在するのだ。
(おそらくレコードまではないはず)
そもそもアジア盤は日本語のままでリリースされることが多い。
それゆえ怪しい日本語が散見されるのはこの手のものでは珍しいことではない。
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明日へと駆け出してゆこ

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ロマンテックにKissしましよら
もし、も一度戻れるなら

まず、ハーフに直接印刷されているのは珍しい。
「う」を「ら」と勘違いし、また小文字は不得意のようだ。

日本国内ではメジャーレーベルのミュージックテープのリリースはほぼ90年代中頃には終わっている。

細々と2000年頃までリリースしたレーベルもあるが、終焉は実質1995年くらいと見ている。
新しいものが好きな日本人はメディアの切り替えも早い方なのだろう。
対するアジア地域では日本のポップスは人気があるため、日本よりもまだ売れるカセットという形態で販売は続いていたようなのだ。

90年代中盤となれば日本ではCDがメインの音楽メディア。
MDやDCCがカセットの後を引き継いだが、CDよりも音質が劣ることや記録メディアでもある(カセットテープの代替)というイメージから販売数は従来のカセットに遠く及ばなかった。
しかしアジア圏でMDなど普及するわけもなく、継続してカセットが使われ続けため、日本発売されていないミュージックテープが海外でだけは存在したのだ。

「Vanity Fair」はデビュー当時から在籍したCBSソニーを離れ、マーキュリーへの移籍第一弾アルバムでもある。
当時のことはよく覚えている。
まずCBSソニーから離れたことはちょっと残念には思っていたが、アルバム自体は見た目も含め、それをあまり意識させないものだった。
CDにはもちろんマーキュリーのクレジットがあるので確かに変わったのだがやはり聖子は聖子だと思わされた。
とはいえ、鮮烈な印象が残るソニー時代のアルバムに比べれば物足りなさがあることも事実だ。
このアルバムは全アルバムを通しても個人的にはそれほど印象に残るアルバムではなかった。


さて、これが聖子のオリジナルアルバムでカセットでの公式発売分の全てになる。

もともとミュージックテープというメディア自体には思い入れはなかったものの、アルバムはどれも親しんできた思い出があふれるものばかり。

いまとなってはレコード以上に希少性が高いと思われるミュージックテープだが、その存在自体を気にする人は少ないだろう。

そういうオレも少し前までは特に興味もなく、逆にここまで手を出したら沼にハマりにいくようなものだとわかってはいた。

ただ、アナログの一時代を担った音楽メディアのひとつとしてカセットの存在を見過ごすわけにはいかないという思いも少なからずあった。
結局試しに1本手に入れてみたら、レコードでは味わえない音とカセットならではの魅力に気づかされたのだ。

当時レコードやCDで聴いたアルバムを、現代あえてカセットテープで聴いてみて思ったのは、やはり音質はレコードにはまるで敵わないということ。
解像度、音場ともにカセットでは追いつけない部分は多くある。
ラジカセさえあれば、レコードよりは手軽に聴けるとはいえ、複雑な機構を持つ機器を維持していかなければならないのも煩わしい。
ただし、この音こそがカセットならではの音であり、レコードでは味わえないものなのだ。

ノンメディアで音楽を聴く現代において、カセットはおろか物理メディア自体を所有することの意義さえ揺らいでいるのも確かだ。

では物理メディアで所有する意義は何かと考えた時、オーディオマニアの観点からまず言えるのは「音がチューニングできるから」の一言につきると思う。
言い換えるなら、再生環境の影響を大きく受けるので人それぞれ聴く音が違うのが面白いとも言える。

今の時代なら音源をバックアップする必要がないということも重要な要素だろう。

また、物理メディアで聴いていたらこそ、この記事に書いたような思い出が心に残ったのだろうとも思うのだ。
もともと形のない音楽を物理メディアで形として所有する。
歌詞や写真も直接手に取って五感でも音楽を感じる。
どちらが心に残るのかは比べるまでもなく明白だ。

保管スペースや再生の手間が無くなるノンメディア音源は、効率の良さと引き替えに大切なものが欠けている気がしてならない。
それは、オレがこのブログで何度か言っている「音楽は写真アルバムと同じ」という部分だ。
思い出が残せないなら、オレがノンメディアだけで音楽を聴くことは一生ないだろう。

ただし、オーディオの本質を考えた時、高音質再生が第一命題となろう。
それを基準にするとカセットは全メディア中ではもっとも音が悪いという評価になる。
であればよりいい音で聴きたいというのが人間の単純な欲望だ。
より音のいいCD、それに加えて再生時に物理機構を必要としないデータ音源。
高音質で手間もかからないとなれば主流となるのは当然のこと。
そこは全く同意だ。

しかしオーディオの楽しみは高音質だけにこだわると実は全く面白みがなくなるとも思っている。
一番音が悪いカセットをどこまで高音質で再生できるか、なんてことを考えてるとこれはこれで面白いのだ。
つまり、物理メディアはノンメディアよりも遊べる要素が多く、その変化量も大きいということだ。

ノンメディア一択はオレには無理だが、物理メディアとの共存はむしろ大歓迎である。

オレは可能性を秘めたミュージックテープが今は愛しくて仕方がない。