これは明菜がデビュー時に所属していたワーナー・パイオニア期のオリジナルアルバムをメインとした、全18枚セットの完全生産限定ボックスだ。


面倒な話だが、このボックスはタイトルの通り2種類存在している。

ひとつは2006年に発売された「AKINA BOX 1982-1989(通称:赤箱)」。
その6年後の2012年に発売されたのが「AKINA BOX 1982-1991(通称:青箱)」だ。
(通称の由来はこの三方背ボックスの色からきている)
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ちなみに通販専用として「紫箱」も存在したが特典ディスク無しの17枚組CDボックスなのでこの内容は完全に赤箱がカバーしていることになる。
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写真:Amazonより

各ボックスとも基本コンセプトは同じでワーナー・パイオニア時代にリリースされたオリジナルアルバム(プラスα)でLPジャケットを完全再現した紙ジャケットCDまたはSACDのセットだ。

明菜のワーナー時代のアルバムだけでよければこのボックスのどちらかを持っていればこれだけでコンプリートとなる。

一般的に誰もが知る明菜の楽曲はワーナー期のものがほとんどであり、このボックスにはそれがほぼ収められているからだ。


それではそれぞれを詳しく見ていこう。

AKINA BOX 1982‐1989
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発売日:2006/6/21
価格:35,238円(税抜)
品番:WPCL-10293~310
組数:18
仕様:2006年24bitデジタル・リマスタリング、三方背ボックス入り、オリジナルLP再現紙ジャケット、LPセンターレーベル再現CDレーベル

キャッチコピー:デビューからLPで発表(’82年~’89年)されたアルバムを紙ジャケットで完全復刻した豪華18枚組スペシャルボックス

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ボックスタイトルの年代部分が青箱とは異なるが、これはここに収録されている中で最も新しいアルバム「CRUISE」が1989年発売だからだ。

このボックス発売時点では最新のリマスター&LPジャケットの完全再現紙ジャケットということで、過去最高の再発だったことは言うまでもない。
また、本ボックスの売りである「Seventeen」が初CD化されたことも当時話題となった。

その後、青箱が発売されてからはこのボックスの魅力は多少色褪せたが、このボックスならではの魅力はいまだ持ち合わせており、明菜のバイブルとして所有するに値することは変わりない。
細かい違いは後述するが、これはこれで絶対に手放せない理由があるのだ。


AKINA BOX SACD/CD Hybrid Edition 1982‐1991
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発売日:2012/8/22
価格:42,857円(税抜)
品番:WPCL-11152~69
組数:18
仕様:2012年デジタルリマスター、三方背ボックス入り、オリジナルLP再現紙ジャケット、LPセンターレーベル再現CDレーベル、CD/SACDハイブリッド
キャッチコピー:明菜初のSACD/CDハイブリッド+紙ジャケット仕様の豪華18枚組スペシャルボックス‼ 「プロローグ(序幕)」から「BEST Ⅲ」まで、ワーナーから発表されたアルバムを一挙収録‼

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ボックスタイトルの年代部分が1991に変わったのは「BEST Ⅲ」が新たに収録されたからだと思ったが、「BEST Ⅲ」は1992年発売なのでそうすると1982-1992でないとおかしい。
よくよく考えると、1992年は実質歌手活動としての新譜発売がなかった年であり、あくまで明菜の歌手としての活動期間を表す意味で1991にしたのだと思われる。
さらに、1992年は明菜にとって激動の年であり、所属レコード会社のワーナーから去ったことで「BEST Ⅲ」は実際のところ本人非公認の非公式ベストと捉えられていることも1992としなかった理由のひとつとなるだろう。

このボックス発売当時、オレは明菜の動向を注視していなかったがため、発売の約1年後に気付いて慌てて購入した経緯がある。

ボックスが売り切れても各アルバム単品としての発売はその後も継続されたが、間もなく在庫がなくなったようだ。

(2020年現在、アンコールプレスにより在庫限りだが入手可能となった)

赤箱の焼き直しのように捉えられやすいが、このボックスの売りは、

SACDであること!


オーディオマニア的には待望の初明菜SACDであり、ワーナー期の明菜音源の新バイブルとなった。
(高音質という意味ではシングルベストのDVDオーディオ盤があった、もともとワーナーはDVDオーディオ勢だった)
このボックスの音質は配信を除けば物理メディア音源ではナンバーワンだろう。
(とはいってもアナログも捨てがたいが)

CDレイヤーもあるので普通のCDプレーヤーでも再生でき、パソコンにも取り込める。
さらにSACDプレーヤーがあればワンランク上の音が楽しめるのだからいうことない。

音源には2012年にリマスターされた24bitマスターを使用しているが、SACDということもあり、今後これより高音質の物理メディアものは当分期待できないとみて間違いない。
(配信除く)


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ワーナー期のアルバムこそ明菜の全盛期だったので、そこだけ聴ければよいというのなら、このどちらかのBOX1つを持っていれば事足りる。
一般的に誰もが知る明菜の楽曲は、やはりワーナー在籍時代の曲だと思うので、そういう意味でもワーナー時代の区切りというのはファンやコレクターとしてはうまく線引きされることになり都合がよい。
実際、ワーナー時代までは明菜を聴いていたが、MCAビクターへ移籍後から聴かなくなったという声も多い。


それではこのボックスの違いを細かく見ていきたい。


【赤箱と青箱の違い】

ジャケット外観
基本的に品番などの文字情報以外の違いはないが念のため。
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左:赤箱、右:青箱

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参考までにオリジナルLPを。

微妙に文字色が違うがまあいいだろう。
帯色の違いは、あまりに暗く撮れてしまったのでオレが明るく補正したせいで色がオレンジに見えるだけ。
(実際はCDと同じ赤色)
「NEW AKINA エトランゼ」は他アルバムと違って細帯を使用しており、その違いもしっかり再現しているのでLPジャケット完全再現の言葉に嘘はない。

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右:青箱の帯にはハイブリッドディスクである説明書きが追加されている

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左:赤箱、右:青箱
封入物は全く同じ。
オリジナルに付属したポートレート類も完全再現されているのが嬉しい。
どちらもオリジナル歌詞カードとは別に、CDサイズに最適化された歌詞カードが追加されている。
(オリジナル歌詞カードは字が小さくて読めないため)

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参考までにオリジナルLPを。

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上のレコードのセンターレーベルはCDでもよく再現できている。


ディスコグラフィー冊子
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左:赤箱、右:青箱

これも違いはないと思っていた。

しかしこのページだけ違っていた。
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青箱側に「ノンフィクションエクスタシー」が追加されている。
見落としていたから追加したのか?
これはもともとカセットテープのみで発売されただけのシングル扱いなのだが、別にこのカテゴリーにわざわざ追加する必要があったのだろうか。


メディアフォーマット
 赤箱:CD
 青箱:SACD/CDハイブリッド


つまり音が違うということだ。
青箱のSACDは専用プレーヤーでないと再生できないが、マスターテープに近い音という観点ではCDよりも魅力的だ。
もちろんCDレイヤーも備えているので誰もが安心して聴けることも大きい。

赤箱CDラベル
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青箱CDラベル
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リマスター年
 赤箱:2006年
 青箱:2012年


リマスター年の違いだけで同じアルバムが何度も再発されることはよくあることだが、この6年の差でどれだけリマスター技術が進歩したか、あるいはイコライジング(味付け)がどう異なるか、という部分が聴きどころだろう。
SACDレイヤーは別として、まずCDレイヤーの音がどう違うのかを比較するのが面白い。
リマスターとはいえ、80年代当時の音自体が全然いいので、新しいほど音がいいという考えはまず捨てた方がよい。
それよりもリマスターによるエンジニアの味付けを聴き分けることのほうが楽しいのだ。

ちなみによく配信の音のほうがよいという意見があるが、同じマスターテープを使用しているならフォーマット(サンプリング周波数等)の違いだけでは聴き分けることはまず不可能だと思っている。
違いがあるとすれば、それはイコライジング(味付け)の違いである。
実際、聖子のリマスタリングエンジニアはSACDと配信で同一人物であるが、それぞれイコライジングが違うとコメントしている。
どちらの音が好みであるかがすなわち自分のいい音なのである。


アルバム BEST AKINA メモワール
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 赤箱:通常盤(緑帯) カラー・ポートレート(2枚)付
 青箱:初回盤(赤帯) 1984年のカレンダー付


オレはこのアルバムが大好きだ。
アルバムタイトル通りベストアルバムであるがその位置づけは実質5thオリジナルアルバムの扱いだ。

明菜としては初の見開きジャケットであることと、初回盤/通常盤の存在が魅力のひとつ。
(もちろんレコード、カセットも同様)
ただ、初回盤、通常盤といっても現代でいう意味とは少々異なる。
このアルバムでいう初回盤というのはそもそも後付けなのだ。
つまり、一定期間初回盤を売り続けたあとに通常盤に切り替えるというやり方だ。
そもそも「BEST AKINA メモワール」はベスト盤のため、その後ある程度は明菜のベストとして売り続けることが必要となる。
初回盤と呼ばれる方にはリリース年である1984年のカレンダーが付属した。
(カレンダーを付属するのはアイドルもののアルバムにはよくあること)
しかしベスト盤なのでそれ以降も初期明菜ベストという名目で売り続けるとなると1984年のカレンダーをいつまでもつけるのはやや体裁が悪い。
1985年に購入したとして、1984年のカレンダーが付属していても意味がなかったということだ。
そこでそのカレンダーをポートレートに差し替えたものが後に通常盤と呼ばれるものになったのだ。
(呼ばれてるかわからないがオレが勝手にそう呼んでいるだけか?)
現代の初回限定盤というのはあくまで通常盤と同時発売であり、特典の有無での差別化が図られたものだ。
結果的に2パターンとなったにすぎないBEST AKINA メモワール」とは全く意味が異なるのだ。

とにかく赤箱青箱の両方を所有したいと思う重要な要素がこういう部分だ。
当時レコードで所有していたのがどちらだったかは思い出せないが、このアルバムは後追いで購入したのでおそらく緑帯の通常盤だったのだろう。

赤箱と青箱はそれぞれがこの細かい違いを再現しているわけである。

しかし青箱が初回盤を再現してくれたことは非常にありがたいことだ。
赤箱とかぶっているように見せかけて実は違うというワーナーの心憎い気遣い。
実際、初回盤の忠実な再現はこれが初で、スーパーディスクや2018年復刻LPも通常盤をなぞるものだった。


ボックスの特典ディスク
 赤箱:Seventeen
 青箱:BEST Ⅲ


まず、赤箱青箱で共通するのはオリジナルアルバム15枚(BEST AKINA メモワールも含む)にベスト盤2枚の計17枚の部分だ。
(通販の紫箱の内容はここまで)

そこに追加されたのが18枚目の特典ディスク。
ミニアルバムである「Seventeen」がつくか、3枚目のベスト盤の「BEST Ⅲ」がつくかの違いである。

まずは赤箱「Seventeen」から。
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オリジナルLPと赤箱のCD

赤箱発売の2006年時点では「Seventeen」はまだCD化されておらず、レコードでしか聴くことができなかったのでこの時の復刻は大変意義のあるものだった。

しかし2014年発売の「Mini Album Collection」で全てのミニアルバムが再発されたことで、赤箱でなければCDで聴けないという状況ではなくなった。
(「Mini Album Collection」はまた別記事で)


ただし「Mini Album Collection」の「Seventeen」はEPサイズであり、再現性もいまいち。
むしろ再現というよりただでかいだけで帯さえもついていないというよくわからないコンセプトだから赤箱の「Seventeen」のほうが断然よい。

赤箱の再現クオリティの高さは未だオンリーワンといってもいいだろう。

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ちなみにオリジナルLP(45回転)はピクチャーレコード仕様なので、CDはレーベル面でそれを再現した。

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が、当然レコードのB面までは無理だった・・・


次は青箱の
「BEST Ⅲ」
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2018年初LP化のレコードと青箱のCD

これは青箱発売時に若干物議をかもしたアルバムだ。
なぜなら「BEST Ⅲ」はもともとレコードでの発売がされていなかったからだ。
ボックスのコンセプトはオリジナルLPの再現なので、疑似LP再現のような形となったのだ。
つまり、LPだったらこうなるでしょ、ということ。

ただ「BEST」と「BEST Ⅱ」があれば明菜ベスト三部作できっちり揃えたいという気持ちもよくわかる。

これは2018年の重量盤LP復刻シリーズと全く同じ理屈だ。
(逆にLP復刻時は青箱のコンセプトに倣ったというべきだが)
中森明菜 レコード復刻盤(2018年カッティング 180g重量盤)

そういう意味では、青箱の後ではあるがレコード化はされているので結果的にLPジャケット再現のつじつまは後になって合ってしまったということになる。
逆に2018年盤はCDの帯を元にしているとはいえ、レコード用にたすき帯を作ったところは評価できる。
もともとレコード発売のなかったCDをLP風紙ジャケで作ってもなんの感動もないが、今となっては少し存在価値が上がった気がしている。

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復刻LP盤の歌詞カードと青箱の歌詞カード

当然であるが復刻LPの歌詞カードはLP風にするとこうなるという表裏の1枚もので味気ない。

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青箱のほうはもともとCDが元になるのでCDの歌詞カードをそのまま使っている。

よってこの盤だけCD用歌詞カードのみになるのだ。
(他はオリジナル歌詞カード+CDサイズに最適化した歌詞カード)

このように赤箱と青箱で特典ディスクが異なるが、単純に曲数だけみると青箱のほうがお得だという見方もある。


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さて、赤箱と青箱の内容を振り返ってきたが、このボックスシリーズの素晴らしい部分は何よりもLP再現の紙ジャケットということに尽きる。

紙ジャケットが好きになったのは2009年のビートルズリマスターからであるが、その紙ジャケットは日本の企業が作ったものだった。

その再現性については非の打ちどころがなく世界で評価された。
(といってもビートルズのオリジナルを知らないが・・・)
帯、付属ピンナップ等もCDサイズで大変丁寧な仕事をしている。

紙ジャケット再現は、たとえオリジナルのLPレコードを持っていなくても(レコード世代でなくても)、当時どのように販売されていたかを伺い知る貴重な歴史資料となる。

それが紙ジャケット復刻の意義である。

これから明菜を聴く人、昔聴いていた人、まとめて明菜を高音質で楽しみたいのならどちらのボックスを選んでも間違いはない。