CDシングルアダプターとは8cmサイズのCDに装着して通常の12cmCDサイズに拡張するアダプターである。

このアダプターの存在理由はCDの歴史を紐解くことで見えてくる。


8cmCDとは
1980年代後半、この時期はレコードの終末期にあたる。
それまでの主要音楽メディアであるレコードが、CDにその座を奪われようとしていた時期だ。

しかし、その移行期間は決して短くはなかった。
移行段階でまずターゲットとなったのはLPレコードだ。
LPレコードとは、通常のフルアルバムを収録できる12インチサイズを指す。

日本では1982年にCDが登場し、アルバムはレコードとカセットに加えてCDでも発売されるようになっていた。
しかし、CDの当初の規格ではEP(シングルレコード)に相当するCDシングルは存在しておらず、シングルについては引き続きレコードで聴くという期間がしばらく続いた。
よって、アルバムはCDで存在するのにシングルはCDで出ていないという空白期間があったわけだ。

だが、当然のようにLPだけでなくEP、つまりシングルレコードも終わりを迎える日がやってきた。
1988年にシングルレコードに相当するシングルCD(8cm)が発売されたのだ。
それまでCD化されていなかった空白期間に発売されたシングルレコードはここからCD化されていくことになる。
なお、聖子や明菜の1988年以前のシングルCDのデザインが統一されているのは、この時一斉にCD化されたためである。

とにかくこの時点でCDはレコードに代わって音楽ソフトのスタンダードとなっていく。

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大滝詠一 幸せな結末(CW:Happy Endで始めよう)

当初のシングルCDは上の写真のように縦長(縦17cm×横8.5cm)のパッケージングであった。

構造はジャケット兼用の厚紙の台紙にプラスチック製のCDトレイを張り付けた簡素なものだった。
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トレーの下半分(網目部分)は縦長サイズを維持するための骨組みであり、切り取ることもできた。
下半分を切り取ることで約8cm角のコンパクトサイズとなり、省スペースで収納できるという仕掛けだった。

では、最初から8cm角サイズで売ればいいじゃないかと思ったが、どうやら万引き防止のために無理にサイズを大きくしたものだと当時聞いたことがある。
中古CDで8cmサイズで売られているのを見かけるのは、この下半分を切り取ったためだ。
オレはこの下半分を切り取ると価値が下がるような気がして嫌ったが、一度だけ試しに切り取ったことはある。

この「幸せの結末」のジャケットは縦長前提(下半分を切り取らない状態)でのデザインだ。
初期のCDシングルは切り取りを前提に上半分だけをデザインするものがほとんどだった。

しかしこの縦長8cmCDシングルもやがて少なくなり、現代ではもう見かけることはない。

縦長に代わってシングル用として台頭したのが現代の主流でもあるマキシシングルサイズのシングルCDである。
(ミニアルバムとして使われることもある)
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左がリサ・ローブの「Do You Sleep?」マキシシングル

サイズ的には通常のCDと同じである。
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しかし、これはマキシケース(スリムケース)であるため簡易な2ピース(蓋+受け皿)構造だ。
つまりバックインレイ(裏ジャケット収納部分)がないので裏面はスケスケ。
よってディスク本体を表裏逆にトレイに装着することでCDラベル自体をジャケット裏のデザインとすることが多かった。

ディスク自体は12cmと同等の記録領域があるのでマキシシングルはだいたい4曲くらい入っているものが多い。
これを機にオフボーカルトラック、つまりカラオケも収録されることが多くなった。


CDシングルアダプターはなぜ必要だったか
本題に入るが、8cmCDシングルアダプターとは8cmCDを12cmCDと同等のサイズに拡張するアダプターである。
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8cmCDにシングルアダプターを装着した状態

なぜこのようなものが必要だったか、それはCDプレーヤーが関係している。

CDプレーヤーは1982年のCD発売と同時に販売されるようになったが、先に書いたとおり8cmCDが出現するのはその6年後の1988年である。
つまりCDが出始めの頃のCDプレーヤーには12cmサイズのCDをセットするトレイしかなかったので、まだ存在するはずもない8cmCDをかける構造ではなかったのだ。
現代のCDプレーヤーに8cmサイズの溝があるのは8cmCDをこのアダプター無しで再生するために改良されたからである。
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上の写真が8cmCD対応プレーヤー。
内側の溝に8cmCDを直接セットできるようになった。
よって1987年くらいまでに製造されたCDプレーヤーにはこの溝がない。

CD世代であってもCDシングルアダプターの存在を知らない人がいるのは、使っていたCDプレーヤーが1988年製以降の8cmCD対応品だったため、アダプターは不要だったからだ。

オレが当時所有していたCDプレーヤーは1986年製のパイオニアPD-7010で、8cmCD用の溝がなかったので、CDシングルアダプターは必須だったというわけだ。
ちなみに1986年時点ではCD発売から4年が経過していたが、その期間をもってしてもCDプレーヤーを所有する人はまだ多くなかったように思う。
要するにオーディオ好きであればかなり早期にCDに移行していたが、一般人となるとプレーヤーの値段もまだ高かったこともあり、普及していたとは到底言い難い。
レコード終焉期である1980年末、ハードであるCDプレーヤーもようやくレコードの役割を完全に引き継げる状態となった。
そのタイミングでCDプレーヤーを購入していれば当然8cmCD対応品=CDシングルアダプター不要であったということだ。


記憶する限り、当初はメーカー物だと3種類のCDシングルアダプターが発売されていた。
それぞれ300円くらいだった。
オレはその全てのアダプターを買い揃え、それを現代まで持ち続けている。

以下の3つのCDシングルアダプターは日本で一番最初に発売されたアダプターである。
よってこれ以外のアダプターものちにいくつか存在したと思われる。

1.NAGAOKA BR-653CD
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これはレコード針で有名なナガオカ製。
レコード関連のアクセサリーといえばナガオカだ。
当時はナガオカ製のレコードクリーナーはよく使っていた。
これは時代の流れでナガオカもCD分野にも進出したということだ。

これにはなぜかコンパクトディスクのロゴがない。
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2.SONY CSA-8
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もともとソニーとフィリップスでCDを共同開発したので、ソニーが出すのは当然かつメーカーとしての責任だ。
ただ、ナガオカと全く形状が同じなのでどちらかがOEMということになる。
(どっちか忘れたが多分ソニー製がOEMか?)

ナガオカ製との違いは印字が異なるだけだ。
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3.audio-technica AT6621
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今も昔もオーディオアクセサリーの老舗と言えばオーディオテクニカだ。
当時はレコード針のクリーナー(スタイラスクリーナー)はオーテク製を使っていたがそれは現代も当時の形のまま販売されているので使い続けている。

ブラックのアダプターはカッコよかった。

なお、取付部の形状はソニー、ナガオカとは異なる。
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このオーテクのアダプターは取付部の遊びが少なく、他の2つよりも取付にやや苦労した。


これらアダプターを使用する上での注意点はただひとつ。

しっかり装着しないと外れてしまいCDプレーヤーの中で大変なことになる。
具体的にはCDに傷がついたりプレーヤーのトレイが開かなくなるとかだ。

オレはこの3種類のアダプターを使っていたが、使い分けたところで音質の違いはない。
(と思った)

CDシングルが発売されるようになると、各オーディオメーカーは8cmCD対応(アダプター不要)のCDプレーヤーにモデルチェンジしていった。

そうなるとこのCDシングルアダプターも不要だ。

しかし、当時のオーディオ誌で「8cmCDはアダプターを付けて再生したほうがそのまま再生するよりも音質がよい」というような記事を読んだことがあり、論争を呼んだ。
今も昔もオーディオはオカルトな面があるのが面白いが耳がいい人なら違いはわかったんだろう。

その理屈はアダプターをつけることでディスク自体の重量が増し、スタビライズ効果があるということだったと思う。

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オレにはその違いがわからなかったが、少しでも音質がいいのならということで、8cmCD対応のCDプレーヤーに買い替えてからもしばらくはこのアダプターをつけて再生した。

しかしそのうち装着が面倒になり、やがて使わなくなった。

そしていつの間にか8cmCDそのものも消えていた。

このアダプターを買った日から長い年月が経ったが8cmCDシングルは今も何枚か持っている。

レコードは一度は消えてしまったので、リアルタイムという意味ではレコードよりCDのほうが付き合いが長くなってしまった。

このアダプターを未だ捨てずに持っているのは、あの時読んだ「8cmCDをより高音質で再生する」という記事をどこかで支持していたからだろう。


たまには、あえてアダプターを装着してシングルCDを再生してみようか。

きっと音がよくなるはずだ。