SEIKO MATSUDA 2020は2020年に発売された53枚目のオリジナルアルバム。

デビュー40周年の周年記念アルバムである。


2020年初頭からのコロナ禍の影響というべきなのか、当初発売予定だった6月3日から大幅に遅れての発売となった。

槇原氏の不祥事により当初収録予定だった曲がなくなったこともあり、アルバムのコンセプトの練り直し等も必要だっただろうが、いずれにせよ発売延期の理由がコロナと重なり、うやむやになったのはせめてもの救いだ。

さて、アルバムはAmazonで注文分の通常盤と初回限定盤は9月30日の発売日前日に届いたが、ユニバーサル盤は発売日に到着した。

まさに久々に待ちわびたアルバムだ。

世の中のごたごたで大いに影響を受けたこのニューアルバム。

出来をとても心配していたのだが、まずはなんとか形になってよかった。

このアルバムの発売を受け、聖子を特集する番組が増える等、聖子のメディアへの露出が多くなったのはファンには嬉しいことだ。

直近では、
9/22 松田聖子スペシャル 風に向かって歌い続けた40年(NHK総合)
9/27 関ジャム 完全燃Show(テレビ朝日)
9/30 松田聖子のオールナイトニッポンGOLD(ニッポン放送)
10/2 ミュージックステーション3時間スペシャル(テレビ朝日)
10/3 Music Fair(フジテレビ)

などから貴重な情報を入手できたので織り交ぜながらまとめておこうと思う。

では詳細を見ていこう。

※音質の評価基準は別記事に定めた通り。



SEIKO MATSUDA 2020
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販売元:ユニバーサルミュージック
発売年:2020/9/30
レーベル:EMI Records
キャッチコピー:松田聖子 デビュー40周年記念アルバム

通常盤
 品番:UPCH-20551
 構成:CD
 価格:3,000円(税抜)

ケース表
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ケース裏
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CD
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Amazon特典(メガジャケ)
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初回限定盤
 品番:UPCH-29365
 構成:SHM-CD+DVD
 価格:4,500円(税抜)

ケース表
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ケース裏
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CD
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DVD
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Amazon特典(メガジャケ)
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UNIVERSAL MUSIC STORE 限定生産盤
 品番:PDCN-1921
 構成:SHM-CD+GOODS
 価格:5,500円(税抜)

プラケース収納時 表
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プラケース収納時 裏
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プラケース全景
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ケース表
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ケース裏
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CD
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グッズ(応援ハチマキ)
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UNIVERSAL MUSIC STORE特典(クリアファイル)
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今回は通常盤、初回限定盤、ユニバーサルミュージックストア限定生産盤の3形態での販売だ。

なかなかに悩ましい選択となったが今回は三者三様どれも捨てがたい。

まずは通常盤だ。
限定盤2枚がSHM-CDであるのに対し、通常CDとなる。
同時発売のオリジナルアルバムでこのような差別化は今回が初だ。

こうなるとSHM-CDと通常CDでどれだけ音質差が出てくるのかがまず気になる。
選べるのなら当然オレはSHM-CDの方を選ぶが、正直なところ音質の違いを聴き分けるのは難しい。
それを意識して試聴すればSHM-CDの方がクリア感があり、音が前にでて力があるような気がしないでもない。
(いいと言われればそう思えるという程度)
なので違いといってもオーディオマニアがじっくり聴き比べても微妙なレベルであり、通常CDだから音が悪いというものではない。

気にするべきは、限定盤2枚に収録の11曲目ボーナストラック「瑠璃色の地球 2020 Piano Version」がないことだ。
ボーナストラックという名の通り、本編10曲こそが「SEIKO MATSUDA 2020」であり、10曲編成で聴くのが本来である。
この11曲目はM01「瑠璃色の地球 2020」の単なるアレンジ違いであるが、その違いはタイトル通りピアノ演奏がメインのバージョンだということに他ならない。
ただし、通常バージョンのピアノパートだけを残したというわけではなく、ピアノアレンジは若干違う部分がある。
ストリングスやドラムがないとなれば、その部分をピアノがカバーするので当然アレンジが違ってくるのだ。
(厳密にはストリングスは少し入っている)
とはいっても元々ピアノがリードする曲なので雰囲気に大きな違いがあるわけではない。
よって個人的にはボーナストラックが無いとしても許容できる範囲だ。

これまでは通常盤も限定盤も収録内容は同じで、DVDや写真集の特典有無で差別化していたので、今後の通常盤と限定盤の在り方がどうなるのか注視する必要がある。
限定盤は無くなり次第廃盤、通常盤はずっと販売を続ける、というそのままの意味でとるならいずれボーナストラックは聴けなくなる幻の音源になるからだ。

と、ここまで通常盤のデメリットばかり挙げたのだが、ひとつだけこれでなければならないものがある。

それはこのジャケットだ。
通常盤ジャケ
このジャケットはまさに聖子の40年の歩みを表しており、このアルバムのコンセプトを表現しているといってよい。
(今後このアルバムが紹介されるときの写真は間違いなくこのジャケットだろう)
松田聖子のオールナイトニッポンGOLDによると、このジャケット右側の聖子は18歳のデビュー前(17歳の終わりごろ)に撮ったもので東京に出てきてすぐのものらしい。
四谷四丁目にある事務所(サンミュージック)の近くにある外苑で撮影したということなので明治神宮外苑のことだろう。
とりあえず撮ったスナップらしいが、まさか40年後の記念アルバムジャケットに採用されるとは夢にも思わなかったと本人は語っている。
このようなエピソードを知ってしまうと、よりこの通常盤ジャケットの重要性がわかるだろう。

ともあれ、これを機に今後の聖子のアルバムの販売形態がこの差別化の方向に定着するとなると以前のアルバムより内容の精査をしっかりやるべきだ。
しかしオレは全部買ってしまうのだろう。

次に初回限定盤。
これは過去アルバムの初回限定盤 DVD付きの方だと思えばいい。
重要なのはそのDVDの収録内容だ。
オレの場合どちらかというと、ミュージックビデオよりも、他では見られないインタビューが貴重だと思っている。
ミュージックビデオはのちのちまとめてDVDまたはブルーレイ化される可能性があるし、そのほうがこのCDのDVDよりも見る機会ははるかに多いだろう。

今回の3種類のジャケットの中では実はこの限定盤の聖子が一番好きである。
だからこそデカジャケが欲しくてAmazonで購入したようなものだ。

そういえばショップ特典は、最近になって多くみられるようになった。
今回のアルバムはショップによりデカジャケ・クリアファイル・チケットケースの3種類があるようだ。
オレはAmazonのデカジャケが最近のお気に入りなので通常盤、初回限定盤をAmazonで購入した。
よって特典内容によっては今後はまずショップからの選択となりそうだ。
このアルバムは最初からAmazonで予約していたのだが、あまりに早くから予約してたのでAmazonで特典情報が出る前のものを予約していた。
しばらくしてそれに気付き、慌てて一旦キャンセルして再度特典付きで予約しなおしたのだ。
キャンセルできるからよかったものの、これからはショップ毎のオリジナル特典が出揃うのを待ってとなるとめんどくさいことになりそうだ。

話がそれたが、初回限定盤の売りはもちろんDVDである。
DVDTITLE
DVDメニュー画面

「SWEET MEMORIES~甘い記憶~」「瑠璃色の地球 2020」のミュージックビデオは共にフルバージョンで収録。

特に「SWEET MEMORIES~甘い記憶~」は見どころ満載だ。

事前にYouTubeで編集版を見て知っていたが、あのペンギンのCMの実写再現である。
PENGUIN
サントリーCMより

SWEET
聖子の髪飾り、後ろの3人の容姿といい見事な再現

正直これには涙が出そうになった。
ペンギンも可愛いが聖子も可愛い。

これはミュージックビデオは聖子の企画で、どうしてもあの時のCMを再現したかったのだそうだ。

歌詞が撮影に間に合うよう、デビュー当時同様に松本隆が万年筆で書いた直筆歌詞が手渡される様子がメイキングで確認できる。

最後にユニバーサルミュージックストア限定生産盤。
これは初回限定盤と同内容同仕様のSHM-CDだ。
この盤の売りは先の写真の「応援はちまき」となる。

初回限定盤は4,500円でDVD+ボートラ分が通常盤(3,000円)のプラス1,500円と考えれば、こちらははちまき+ボートラで通常盤のプラス2,500円。
最初からわかっていたが、これだけでこの値段はさすがにオレでもためらう値段。
しかもはちまきしか入っていないのにスカスカなプラケースまでついてCDラックの場所をとる。

ごく普通の布製の応援はちまきはオレのは紺色だが他の色もあるのだろうか?
(使わないけど少し気になった)
80年代当時は応援はちまきを巻いて応援するほどの強者ではなかったが、どう考えても女性ウケはしなさそうだ。
とはいえ、次のコンサートツアーではこのはちまきを巻いたファンが多くいるのだろうな、と思うとある意味ライブに行く人には必須アイテムということにもなるのか。
(ライブ会場のショップでも売るかもしれないが)
そこまでを見越しているのなら、ユニバーサルの戦略、実は奥が深いのかも。

以上になるが、価格とバランスを考えればやはり初回限定盤が無難とみている。


さて収録内容だが、収録曲を見れば一目瞭然これは聖子の過去と現在(未来)がコンセプトだ。
レコードを意識したかのように前5曲、後5曲で区切られている。
もちろんCDなので明確な区切りはないが、もしレコードならそのコンセプトがはっきり伝わっただろう。

M01~M05をレコードA面とすれば80年代を振り返る過去Sideだ。
英語詩を除き作詞は全て松本隆。
再録音なのでアレンジだけは当然新しくなっている。
(M05を除く)

松本隆は、聖子はいつも詩の意味も聞かずにさらっと歌い始めたと語っている。
聖子はといえば、なぜおじさんが女の子の気持ちがわかるのかと驚嘆していたという。

歌詞は当日スタジオで渡すのが普通だったという。
(そんなことですぐに歌える聖子が恐ろしい)

前日に歌詞を渡すと聖子は気持ちが入りすぎるので、という理由かららしい。
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歌詞カード冒頭の松本隆のメッセージ

対するM06~M10(B面)は現在Side。
今の聖子と未来がテーマだ。
目玉となるM06をはじめ、前5曲とは明らかに色が変わる。

懐かしさと新しさが味わえる珍しいアルバムとなった。

それでは曲を見ていこう。


M01 瑠璃色の地球 2020
作詞:松本隆 作曲:平井夏美 編曲:野崎洋一

オリジナルアルバム「SUPREME(1986年)」のラストを飾った名曲中の名曲のリメイク。
それが2020年のアルバムの1曲目として復活するとは感慨深い。
この曲は正式にはシングルカットはされなかったがプロモ盤でEP化がされている。
ベスト盤ではたびたび選曲されてきた名曲だが、何かと厳しい年となった2020年に新録音されたのはとても意義あることとしてメディアにも多く取り挙げられた。
(「夜明けの来ない夜はないさ」の部分が特にコロナ禍の応援歌のようにとれるからだ)
聖子の場合、アルバムに収録された曲やシングルのB面曲が後になって話題になることが多い。
映画やアニメの主題歌としてタイアップした曲がアルバムに収録されて話題になるならわかるが、それとは全く性質が異なるただのアルバムの中の1曲なので今ではまず考えらないことだ。
ちなみにこの曲の作曲者である平井夏美は川原伸司の別名で、オレの好きな名曲「Romance」の作曲者でもある。
新録音なので編曲は現在聖子とタッグを組む野崎洋一だ。
出来は上々、あらためて作り上げた曲の偉大さに感服するばかりだ。
Youtubeの聖子オフィシャルで7/15からミュージックビデオが先行配信されていたので聴いてはいたが、やはりCDで改めて聴いたほうが感動する。
この新録音では原曲の雰囲気を壊すことないアレンジと、かみしめるように歌う聖子のボーカルを聴くことができる。
RURI


M02 セイシェルの夕日 ~40th Anniversary~
作詞:松本隆 作曲:大村雅朗 編曲:野崎洋一

オリジナルはアルバム「ユートピア(1983年)」からの選曲。
なぜこの曲がチョイスされたのかは不明であるが、名盤だし作曲の大村雅朗の曲も入れたかったのではと勝手に推測している。
当時、最初のレコーディングの時はとても疲れていたらしく、セイシェルの夕日がイメージできていない(セイシェルに行けてない)とダメだしされたというエピソードがある。
後日仕切り直しの録音では無事セイシェルに行けたらしい。
当時はこのようなやりとりがたくさんあったのだろう。
これもオリジナルの雰囲気を全く損なうことない新しいアレンジがよい。
オリジナルは爽やかに歌うが、当時より強く気持ちが入っていることがわかる。


M03 赤いスイートピー(English Version)
作詞:松本隆 英詩:Marc Jordan 作曲:呉田軽穂 編曲:野崎洋一

シングル「赤いスイートピー(1982年)」の全てを英語で歌いなおした新録音だ。
聖子にとっては女性ファン獲得のきっかけとなったターニングポイントとなった曲でもある。
聖子は「女の子と私をつないだ架け橋の曲」と表現している。
DVD収録のインタビューでは「いい曲というものは何語であっても素晴らしい」と言っていたがまさに同感。
イントロだけを聴くと赤いスイートピーだと一瞬わからなかったがそれはイントロだけだ。
名曲を多く持つ聖子は英語詞による歌いなおしは慎重にすべきと思うが、これは非常にすばらしい出来だ。
今後は過去の名曲を英語詞で歌いなおすのもありだと思ったので、新しいアルバムのなかで1曲くらいは毎回取り入れれば若い世代にも聖子の名曲が伝わるのでは。
もうひとつ思ったのは、ジャズアレンジも合いそうなので次回「SEIKO JAZZ 3」を作るのならいっそオリジナル曲をジャズアレンジで歌ってオリジナルのみで固めるというのも良さそうだ。
オレはジャズも好きなので何のためらいもなくスタンダード曲を聴けるが、ジャズに馴染みのないファンにとってジャズはやや敷居が高いようだ。
(聖子だからと聴きなれないジャズを聴いても楽しめないだろう)
ジャズはスタンダード曲を誰が歌うか、アレンジはどうかという部分も楽しみ方のひとつなのだ。
聖子の名曲を世界に知らしめるためにも是非とも検討してほしい。

話がそれたがこれはとにかく英語詞であるのに、まるで最初から英語詞だったかのように違和感がないのには感心した。
さらによかったのは秀逸なアレンジ。
とにかくコーラスがとても美しく、オリジナルより切なく、かつ洗練された仕上がりとなった。
リメイク分としてはオレはこれが一番の出来だと思う。
曲


M04 SWEET MEMOREIS ~甘い記憶~
作詞:松本隆 作曲:大村雅朗 編曲:野崎良一

原曲はシングル「ガラスの林檎(1983年)」のB面からだ。
SWEET MEMOREISは当時サントリービールのCMでペンギンが歌っていたのが印象深いが、当初は歌手名がクレジットされておらず、サントリーに問合せが殺到し話題となったことで広く知られることになった。
(後に聖子の名前がクレジットされたようだ)
なぜ聖子ほどの特徴あるボーカルに人々が気づかなかったのかと疑問に思うが、CMで使われたのは英語詩の部分だからだろう。
(それだけ英語となると印象が変わるということだ)
CMはペンギンのアニメーションで、バーでジル(歌手を夢見る女の子)がSWEET MEMOREISを歌い、それを聴きながら涙するマイク(戦争帰りでPTSDを患う放浪ペンギン)のシーンが未だ強烈に脳裏に焼き付いている。
もっともこれは後に映画化された際のキャラクター設定であり、CM放送時にその設定があったのかは定かではないがおそらく後付けだろう。
ちなみにCMに近いシーンは映画「ペンギンズメモリー 幸福物語」にも出てくる。
確かジルのバイト先でマイクが初めてジルの歌を聴くというシーンだ。
ちなみに映画ではマイクは涙を流さなかったと思う。
(ミュージックビデオでは男が涙を流すシーンがある)
また、劇中
で「SWEET MEMOREIS」は歌われていても、この映画の主題歌はあくまで映画公開当時のシングル「ボーイの季節(1985年)」である。
(CMはシングルバージョン、映画はシネマバージョンだ)

映画化までされたことから当時どれだけブームになったかが伺えるだろう。
このヒットにあやかり、後にジャケット差し替え版のガラスの林檎/SWEET MEMOREISのシングルが追加リリースされたほどだ。
ただし、再発されたからといってSWEET MEMOREIS」がA面となったわけでなく、クレジットがガラスの林檎と同サイズに拡大されただけのジャケット差し替え盤となった。
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左:最初のシングル、中:再発盤、右:ボーイの季節
最初のジャケットはSWEET MEMOREIS」の文字がが非常に小さいのに対し、再発盤では「ガラスの林檎」と同サイズになっている。
また、ペンギンのアニメキャラが再発盤に追加され「ボーイの季節」にも印刷されている。

さて、本題に入るがこれは中盤の英語歌唱部分を日本語に訳した上での新録音だ。
ただし、正確にはここで歌われる日本語詩が先に書かれている。
今回マスターテープと共に松本隆が当初書いた歌詞ま発見されたということらしいのだ。
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その原本と思われる原稿は歌詞カードにそのまま使われている。
今回の曲で、オリジナル、シネマバージョン(サントラ収録)、ニューバージョン(Sweet Memories’93)も入れて4 バージョン目となる。

当時長い英語詞を見た聖子はビビったらしく、英語部分だけの歌い方を英語の先生に指導してもらったらしい。
また、その英語詞は松本隆が書いたのではなく、別人によるものとのことだ。
当時の聖子にはこの曲はあまりに大人っぽく、表現には苦労したようだ。

今回、元となった日本語詞を見て、やや表現が松本隆らしくないような気もした。
その違和感から英語に変更したのか、結果大正解だったということだ。
逆に英語のみバージョンもボーナストラックとして入れてもよかったのではと思う。



M05 いちご畑でFUN×4
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内

いちご畑でフォー・タイムス・ファンと読む。
もともとは聖子の「いちご畑でつかまえて」と大瀧詠一の「FUN×4」が原曲になる。
この二つのミックス曲なのでこのようなタイトルとしたのだろう。
しかしこのミックスは当時大瀧詠一自身がミックスしたものということがまず重要だ。
大瀧本人のラジオで一度だけ流したらしいが、聖子はこの曲の存在を全く知らなかったと語っているほどの幻の音源なのだ。

さて、この曲はいきなりFUN×4側(大瀧詠一のボーカル)から始まることにまず驚いた。
イントロから「FUN×4」なので、急に大瀧詠一のアルバムを聴き始めたかのような錯覚を覚える。

原曲はどちらも何度も聴いているが、この2曲がなぜミックスされたのか、理由を知らない人もいることだろう。

イチゴ畑…が収録された聖子のアルバム「風立ちぬ(1981年)」とFUN…が収録された大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION(以降ロンバケ)」はシンメトリーになっているという話は有名だ。
詳細はアルバム「風立ちぬ」の時に書こうと思うが、要は大瀧詠一の遊び心というところだろう。
リリース順としては、ロンバケが風立ちぬの7か月前に発売。
聖子同様CBSソニー(ナイアガラレーベル)に属した大瀧はロンバケのヒットを受けてソニーからロンバケ2のリリースを熱望されていた。
しかし結果的にロンバケ2は出なかったわけであるが、アルバム「風立ちぬ」はロンバケ2の意味合いがあるということだなのだ。
ただし、正確にはアルバム「風立ちぬ」の最初の5曲(A面)のみが大瀧プロデュースなのでロンバケの10曲とは頭数が合わない。
では残りの5曲はというと、1982年にリリースされた大瀧詠一、佐野元春、杉真理によるアルバム「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の大瀧担当の5曲がそれにあたるというのだ。
つまり、アルバム「風立ちぬ」の5曲とアルバム「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」の5曲を合わせて10曲が「A LONG VACATION 2」であり、これが大瀧のロンバケとシンメトリーになるということである。
従って、
聖子のアルバム「風立ちぬ」から「いちご畑でつかまえて」
大瀧のロンバケから「FUN×4」
トライアングルから「ハートじかけのオレンジ」
の3曲は同系という解釈になる。

どこがシンメトリーであるかはこのミックスを聴けばそれが答えということだ。

繰り返すが今回のミックスは大瀧詠一が個人的にミックスしたものであるが、決して初出しではない。
1981年暮れに大瀧のラジオ番組でこのミックスを一度だけかけたからだ。
レア音源には違いないが、そのマスターテープが残っていて、今回新たに編集しなおしたものをこのアルバムに収録したといういきさつになる。
大瀧詠一は自身のアルバムを自身でリマスターするなど、ミキシング技術についてもプロだった。
そんな中で遊びでミックスしたのだろう。
大瀧詠一が聖子のマスターテープを使用して作成したのかは不明であるがそれに近いものを所有していたのだろう。
当時の聖子のボーカルがそのまま2020年のアルバムに入ること、デュエットのように大瀧詠一のボーカルが入ること、まさに前代未聞で今回一番驚かされた曲である。


M06 風に向かう一輪の花
作詞:松田聖子 作曲:財津和夫 編曲:野崎洋一

日本を代表するバンドのひとつチューリップのメンバー財津和夫が作曲した新曲。
財津和夫はバンド活動以外にも他アーティストに多くの曲を提供していた。
この人もまた天才だ。
かつて聖子にも多くの楽曲を提供、ヒットさせており、その曲のラインナップを見れば聖子を語るうえで外せない重要曲ばかりとわかる。
提供曲をあらためて見てみると、シングルでは「チェリーブラッサム」「野ばらのエチュード」「白いパラソル」「夏の扉」あたりが有名だが、アルバム曲の「Bye-bye Playboy」「星空のドライブ」「愛されたいの」も財津だったのであらためて驚いた。
アルバムにも深く携わった人だったのだ。
とにかくそんな聖子の往年の名曲を作曲した天才の37年ぶりの曲提供となった。

聖子は通常自作の場合は曲が先で詩が後らしい。
今回は詞を先に書き、財津和夫に渡したうえで自分のイメージを伝えたらしい。
詞はファンに向けた感謝の気持ちを表現したということだ。

しかしこの曲、何やら最近の聖子の自作した曲と雰囲気が似てるな、というのが第一印象だ。
よほど聖子の注文が細かったのか現代の聖子が作る曲にかなり近いものがあると感じた。
まあ聖子のオーダーは細かいので財津和夫がうまく意向を汲み取ったということだろう。
もちろんこの曲は素晴らしいが、前5曲の流れからのあまりの違いに現実に引き戻される感覚が大きかった。
(もともとそれがコンセプトだが)
そういう意味では前半後半の区切りとなりちょうどよい。
まぁ財津和夫作曲と聴いて、オレの中で勝手に昔の曲のようなイメージが膨らんでいただけだ。
曲2


M07 La La!! 明日に向かって
作詞:松田聖子 作曲:松田聖子 編曲:松本良喜

テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のエンディングに採用された曲だ。
辛いこと悲しいこと苦しいことがあっても明日に向かってがっばって行こうという主旨の応援ソングだ。
聖子はファンへの感謝の気持ちをこのアルバム(曲)でお返ししてくれたわけだが、辛い2020年だからこそ元気づけられるタイムリーな曲となった。


M08 40th Party
作詞:松田聖子 作曲:松田聖子 編曲:野崎洋一

コンサートのラストを飾る定番の周年記念曲の3作目だ。
当然入れてくるだろうと思ったし、これがないと周年記念アルバムとは言えないほどおなじみとなった。
曲を作ったあとに詩をあてたとのことだ。
(聖子のスタイルはもともと曲先詞後のようだ)
聖子いわく全部のシングルタイトルはだいたい入れているらしい。

先日30th Partyをじっくり聴いたばかりだが、今回はそれを超えてきた。
これは詞を聴きながらあの曲だといかに瞬時に判断できるかという、自らの聖子力が試される曲だ。
毎度のことながら、シングル曲のタイトルをうまく繋げてよく歌詞が書けるものだと感心する。
聖子からのクイズにどれだけ答えられるか腕試しだ。

20thよりも30th、30thよりも40thとシングル曲は増えていく。
追加で新曲のタイトルも組み込む作業はさぞ大変だったろう。
しかし聖子は楽しみながら書いたのだろうことは伝わってくる。
素材(言葉)は揃っているので組み上げるだけとはいえ、これはさすがに聖子にしか書けないだろう。
本来なら確実にコンサートで盛り上がる曲なのだろうが、来年以降におあずけとなった。


M09 そよ風吹いたら~I can hear the sound of the waves~
作詞:松田聖子 作曲:松田聖子 編曲:野崎洋一

これはこれまでの聖子自作の楽曲の中でも異色作だと感じた。
曲調がその最たるものなのだが、詞と曲のマッチングも抜群にいい。
具体的にいうならボーカルが楽器として聴けるほど詞と曲がなじんでいると思うのだ。
感覚的には80年代の曲を聴いているかのような不思議な感覚だ。
バラードでもない、派手なポップスでもない。
聖子の曲としてはあまり聴いたことがない。
聖子もこんな曲が書けるのかと感心した。
ちなみにタイトルはもっと短くシンプルにしてほしいと思うのはオレだけか?
タイトルで詩の内容を多く語る必要はない。
(後の英語の副題はいらない)
気に入った曲だからこそ、覚えやすいタイトルであってほしかったかな。
とはいえ新曲中ではもっともお気に入りの曲となった。
曲3


M10 赤いバラ手に抱え
作詞:松田聖子 作曲:松田聖子 編曲:野崎洋一

ボーナストラックを考えなければ本来アルバムのラストを飾る曲だ。
(通常盤はここで終わる)
当然のように聖子が得意とするバラードを持ってきた。
曲自体は近年のものと同程度というところか。
流れとしてのラストバラードは定番中の定番なので別にいいが、周年記念なのでいつもと違うことをやってもいいのかなと思った。
ラストは「40th Party」で明るく終わったほうがオレとしては聴き終わった後の満足度が高かったかもしれない。
アルバム自体は前半から後半にかけて過去~現在~未来を表現しているが、後半があまりに通常のアルバム然なので。
後半5曲の曲順を変えると一気に周年記念ムードになるのだが。



M11 瑠璃色の地球 2020 Piano Version
作詞:松本隆 作曲:平井夏美 編曲:野崎洋一

これはボーナストラックなので本編とは本来なら切り離して考えるべきだろう。
M10でこのアルバムのストーリーは完結しているからだ。
先に述べたが、M01「
瑠璃色の地球 2020」の単なるピアノバージョンなので想像通りのシンプルな音になっている。
しかし、ピアノだけでも十分荘厳な雰囲気が出ているのにはさすがのすごい曲と思い知らされた。
ただ、細かいが実際はピアノだけでなくストリングスも多少入っているので、それも手伝ってか通常バージョンの雰囲気と大きく違わないと感じたのかもしれない。


まず、40周年というとてつもなく長い歌手生活で多くの歌を送り届けてくれた聖子に感謝し、おめでとうと言いたい。
本作では、瑠璃色の地球・セイシェルの夕陽・赤いスイートピー・SWEET MEMORIESの4曲が新録音で収録された。
どれも80年代の名曲なのでこのチョイスに誰も文句は言わないだろう。
いくら周年記念といっても、オリジナルアルバムに過去曲が多数収録されたことには賛否もあるだろう。

ただ、「歌い継ぐこと」と「歌いなおすこと」はまったく違う意味があるということだ。
多くの曲を聖子は歌い継いできたが、歌いなおした曲は多くはない。
これは非常にリスクがあるからだろう。
歌いなおすということは、つまり音源として正式に残るということであり、コンサート等で歌い継ぐのとは全くわけが違う。
こうなると必ず出てくるのはオリジナルの方がよかった、という声である。
もちろん基本的にオリジナルを超えることはできなくとも、最低限オリジナルを汚すようなことだけはしてはならないと思う。

今回の歌いなおし4曲を聴いて思ったことは、決して原曲の焼き直しではなく、新しい曲だと思えたことだ。
全く新鮮な気持ちで聴けただけでなく、知っている曲なのにオリジナルを越えたと思わせた部分も見受けられた。
とにかくどれも秀逸なのだ。
過去曲が半分を占めるこのアルバムを危惧していたがいまはそれも払拭された気分だ。

むしろオレの好きなアルバムの上位にここにきて食い込んできた。

もちろん次のアルバムも出すだろう、聖子はまだまだファンを楽しませてくれそうだ。