別にシリーズではないが、ある一定期間に発売された聖子の特殊形状スリムケース入りのCDのみを集めてみた。

なぜならこのケース形状が特殊すぎて非常に興味深いからだ。
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このケースはCBSソニー独自だと思っているが、早くもCDケースに革命をもたらした画期的なケースだった。
(結果もたらしてないが)

このケース形状は一定期間採用された後、やがて通常のジュエルケースに戻ってしまう。

その背景に何があったのか?

これはCDの扱いやすさを強調しつつ、ついでに省スペース化を目指して考えられたものだと思う。
しかし後述する不都合な部分が多かったため廃止されたのではないかと推測している。

今となってはCD普及期の試行錯誤とも取れるが、CDの歴史を振り返る上でオレにとっては忘れられないものなのだ。


それでは詳しく見ていこう。


ラインナップ
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まず聖子のアルバムでは全6枚がリリースされている。
いずれもこれらが初期盤となる。

Seiko Avenue(30DH 160)
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帯にある通りCD発売2周年記念として企画されたもの。
よってCDのみ発売で1984年の作品でありながらアナログ音源は存在しない。
限定盤アナログLP「金色のリボン」音源のCD化を基軸とした企画アルバムで当時大きな話題となった。


Windy Shadow(32DH 170)
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プレス違いが存在する10thオリジナルアルバム。
そのプレス違いはこの初盤である「32DH 170」で生じており、この形状以外のCDは全て公式となったサードプレス盤の音源となる。
松田聖子 オリジナルアルバム「Windy Shadow」ファースト/セカンド/サードプレス盤検証


Seiko-Train(32DH 178)
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ユーミンが楽曲提供したもののみが収録された企画ベストアルバム。
面白いのはレコード及びカセットのアナログ盤と曲順と曲目が異なること。
そういう意味でジャケットには「CD VERSION」とある。


カリブ・愛のシンフォニー(32DH 233)
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聖子主演の4作目映画「カリブ・愛のシンフォニー」サウンドトラック。
1枚目帯部がぼんやりしてるのはネットで見つけた写真を加工して手作りしたため。
裏面は全て文字を打ち直したのでまだ見てくれはいい。


The 9th Wave(32DH 238)
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11thオリジナルアルバムで、この年聖子は神田正輝と結婚。
実質独身時代最後のアルバムとなり、翌年1年間は産休を理由に活動を休止した。


ペンギンズ・メモリー 幸福物語(32DH 240)
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アニメ映画「ペンギンズ・メモリー 幸福物語」サウンドトラック。
よく勘違いされるがこの映画の主題歌は「ボーイの季節」であり、CMにも使われた「Sweet Memories」はあくまで挿入歌だ。
このサントラはレア音源の宝庫でもあるので必聴だ。


これらは全て初盤CDに限り、ケースがCBSソニー独自のスリムケースであった。


発売時期とリリース枚数の検証
先に述べた6枚が本当に全てなのかを確認してみる。
発売時期がどの辺りだったのかは前後のアルバムを調べればおのずとわかってくる。
スリムケース採用前後(1984~1985)に発売された全ての聖子のCDアルバムをリリース順に並べてみた。

青:オリジナルアルバム
緑:ベスト・企画アルバム
ピンク:サウンドトラック

ースリムケース採用前ー

1984/6/10 9th「Tinker Bell」→通常ジュエルケース
1984/7/7 サントラ「夏服のイヴ」→2枚組マルチケース
1984/11/1 ベスト「Seiko・Town」→通常ジュエルケース

ースリムケース採用期ー

1984/11/21 企画「Seiko Avenue」
1984/12/8 10th「Windy shadow」
1985/3/6 ベスト「Seiko-Train」
1985/5/3 サントラ「カリブ愛のシンフォニー」
1985/6/5 11th「The 9th Wave」
1985/6/21 サントラペンギンズ・メモリー 幸福物語」

ースリムケース廃止ー

1985/8/15 12th「SOUND OF MY HEART」→通常ジュエルケース
1985/11/10 ベスト「Seiko Box」→4枚組マルチケース

綺麗に分かれているところをみると全6枚で間違いなさそうだ。
つまり1984/11~1985/6のわずか8か月間で発売されていたCDの歴史的にはレアなCDということになる。


次にケースの詳細を細かく見ていこう。


取り出しかた
このケースの特筆すべき点はまずそのギミックにつきる。
どのように取り出すか順を追ってみよう。

1.ケース外観
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一見して通常のスリムケースのようにも見えるが通常のCDケースよりも幅がない。
ちょうどCD盤のサイズと思えばいい。

2.右に開く
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通常左開きのところ、このケースは逆である。
ケースが薄いこともあり、これが実にやりにくい。
普通のやり方で無理に左開きしようとしてヒンジ部を破損することは容易に考えられる。
オレもつい左に開こうとしてしまう。

3.トレー部分を折る
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これがこのケースの最大の特徴。
樹脂製なので折ることができるが意外に強度はありそうだ。
よくこんなこと考えたものだ。

4.取り出す
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おかげで取り出すのはすごく簡単。
なんとなくカセットチックだ。


メリットとデメリット
廃止されたからにはデメリットがあったからだということは予想できる。

メリットは1つ。
薄いので省スペースであることのみだ。

しかしデメリットは多い。

1.右開き
先に述べたようにこのケースは右方向に開く。
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写真上のように通常のCDケースは左から開くという固定概念があるので最初は誰もが左に開こうとするだろう。
すぐに気づけばいいが、無理に開けようとすれば確実に壊れる。
左右変わっただけで実に開くのに手間取るものだ。
それでも右開きとした理由は簡単だ。
このギミックの最終形は左手にケースがある状態。
つまり、最終的には右手でCDを取り出すことができるからだ。
これが逆だと左手でCDを取り出すことになり、恐ろしくやりづらいことがわかる。
(まぁこれは右利きの意見であるが)
さらに右開きということは歌詞カードを右端からいれることになる。
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よってホッチキス止めしてないばらついた方を突っ込むので入れにくいのは言うまでもない。


2.傷の問題
これを初めて見た時とっさに思ったのが、これではCDに傷がつくだろうということ。
左端のCDホールド部を見るとスリッドが入っており、CD外周に向かってスリッドの突起が高くなっている。
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ホールド性を出したかったのだろうがこれが傷の原因となる。
しかも多少のホールド感があり、下に向けてもCDが滑り落ちることはない。
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それゆえ出し入れを繰り返すことで傷がついてしまうのだ。
幸い傷がついても外周のため、信号が記録されていない領域であることから問題ないといえば問題ないのだが。


3.デザインの自由度のなさ
薄く省スペース化を目指したゆえにデザインに制限がかかるのは言うまでもない。
さらにはこのギミック自体もデザインの妨げとなっている。
表こそ通常CDと変わりないがジュエルケースのようなバックインレイ部がないのでジャケット裏のデザインができない。
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よってケースに直接紙を張り付けているのだ。

本来バックインレイが背ラベルを担うがこのCDはケースに直接貼り付けられている。
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しかも、そもそも裏面は折り曲げるので大半は紙を貼ることもできないということだ。
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4.帯がでかい
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普通の帯と比べるまでもなく、特殊な帯だ。
まぁ帯というよりほとんど裏面ジャケットデザインのためといった方が正しい。
カセットやMDでも同様の形状のものがあり、これをオレは包み帯と呼んでいる。
通常の帯でさえ収納場所に悩むというのに、これだけはどうしようもない。
そこで、ここで生きてくるのが元オーディオ小僧のCD保管の流儀ということだ。
元オーディオ小僧 CD保管の流儀 その1
これはもうこうするしかない。
中古で帯がないものが多いのは保管場所に困り、やがて紛失してしまったということだろう。
オレは帯を当時の情報を知る上でも貴重なアイテムと捉えているが、この帯ほどなければ意味がないと思わされたものはない。


5.歌詞カードに制限
このケースはとにかく薄い。
となると収納する歌詞カードの厚さには大きな制限がかかるのも当然。
つまりページ数が多くなるほど収納が厳しくなるのだ。
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通常のCDケースは約2.5mm程度の厚さまでは入る。

しかし、このケースはそのおよそ半分ほどだ。
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それこそ写真集のおまけやらピンナップ、ステッカー等を入れる余裕はない。
このケースが生き残ったとしてもCDシングル用途としてがせいぜいだっただろう。


6.耐久性
このケースは薄いこともあり、特にヒンジ部の耐久性が低い。
通常CDケースでさえもよくあるのだから当然だろう。
しかもこのケースはもともと市販のブランクケースが販売されていないため、破損したら交換する術がない。
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ヒンジがこわれたケースが一枚ある。
もともとアルバム「Windy Shadow」のプレス違いを複数枚集めていたので替えがあったのが幸いした。


あとがき
このケースはCDがようやく認知されはじめた頃のものだ。
(普及はまだ少し先の頃)
よって当時のCDの意気込みを感じられる貴重な歴史資料だ。

最初に発売された1枚目「Seiko Avenue」の帯にある通り、CD発売2周年を記念して考えられたケースと思われ、以降5作が採用に至ったが結局それ以降続かなかったのだ。

当時オーディオ小僧は、このCD発売時点ではまだCDプレーヤーをもっていなかったので、後から購入している。
やがてCDプレーヤーを手に入れた時には、すでに通常のジュエルケースに戻っていたので、なぜこの時期だけこんな変なケースなんだ、といろいろ考えたものだ。

しかし驚いたのはこのギミックだけでなく薄さ。
のちにCD選書シリーズで久々に薄いケースに出会うことになるがそれは1990年代に入ってからだ。
また、縦長のCDシングルがなくなると12cmスリムケースへ、CD-Rなどはスーパースリムケースへと、新しいスリムケースが出てくることになる。

そのスリムケースという概念が1984年時点で形は違えどすでに作らていたと思うと驚きだ。

結果的にこの形状は受け入れられなかったが、将来のCDケースの姿を予感させるものだった。

今となっては長いCDの歴史の小話のような感じのものだが、オレは当時を強烈に回顧できるこのケースが大好きなのだ。