今回の一連のダビング再現は音質的には少々残念な結果となった。

久々で感が鈍ったというより、遊びのダビングで油断したといっておこう。
考えてみれば大切な録音を真剣にやったのかというとそうでもない。
(マスターのレコードを持っているのだから)
当時の流儀を思い起こすことに集中するあまり、各工程での油断がそのまま形となってしまった。

特に近年は再生するだけが目的だったレコードプレーヤーの調整は見直さねばならない。

いずれにしてもオーディオマニア的には遊びであっても納得はいかない。

まぁそれも含めてひとつの思い出になるわけだが、いずれ何かしらのリベンジをしなければ気が済まないというのが正直なところ。

そういうわけで今回はAKAI GX-7でダビングしたがダビング後となってはもうどうすることもできない。

しかし、せめて他のカセットデッキでも再生して聴き比べてみることにした。

聴き比べはAKAI GX-7に加えてパイオニア T-D7とナカミチ CR-70だ。
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かつて、このT-D7とCR-70の再生能力については記事にしたことがあった。
昔録ったカセットテープをいい音で聴きたい

これがあれば失敗ダビングでも多少はましになるのではと考えたのだ。

今回試聴するのはもちろん「ダビングの流儀」で作成したカセットテープ。

松田聖子「Canary」
ソース:LPレコード
録音年月日:2021年3月5日
カセットテープ:TDK AD(Normal)
録音カセットデッキ:AKAI GX-7
ノイズリダクション:OFF
デジタル化PCMレコーダー:SONY PCM-A10(リニアPCM 44.1kHz 16bit)

それでは機種別に聴き比べてみよう。

AKAI GX-7
まずは試聴機の中では最も古い機種となるGX-7だが、自己録再最強説ということで当然試聴してみる。
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率直な感想はGX-7の音はよくも悪くも録音した音をそのままダイレクトに伝えるデッキだ。
エネルギー感があるが古いせいかデッキ由来のノイズ成分も多いようにも感じた。
録音品質が良くなければそれがそのまま強調されているようにさえ聴こえる。
レコードのパチパチやトレースノイズ、テープのヒスノイズも盛大だ。
終始ノイズっぽい音なのでぜんぜん音楽に集中できないというのはオーディオマニアの悲しい性か。
もちろん録音がよくないのが一番の原因であるが、あまりにダイレクトすぎる再生音はまだ熟成前のカセットデッキの音という印象だ。

サンプル
Private School
LET'S BOYHUNT

【気になった部分】
・カセットテープのドロップアウト個所が散見される
→これが一番気になる。音がかすれる部分が多く、このカセットテープは大切な録音に使えるレベルではなかった。

・ボーカルのサ行がサチっている
→強い「サシスセソ」の部分で「ザッ」とノイズっぽくなってしまうのがかなり気になる。

・テープヒスが目立つ
→これにレコードのトレースノイズとカセットデッキ由来のものも合成されて常にザワザワしている。

・ボーカルがややうるさい
→この年代のAD特有の音であろうが高低音とのバランスが若干悪く感じる。


以下、この気になる部分がカセットデッキを変えるとどうなるか試してみる。


PIONEER T-D7
T-D7は光入力も備えるデジタルプロセシングカセットデッキだ。
※このデッキの詳細は前述の記事リンク参照
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GX-7で気になっていた部分は多少軽減される。
まずい録音ほどこのデッキの補正の効果は大きい。
特に気になっていたテープのヒスノイズ、レコードのパチパチ、トレースノイズはデジタルNRの効果により大幅に軽減し、3機種中最も音楽に集中できる音だ。
デジタルNR特有の効果を最も実感できるのはレコードの「パチッ」が「プシュッ」と角が取れて聴こえること。
ノイズのみに着目すればスピーカーからだとほとんど認識できないレベルだ。
ただし、ピアニッシモ部分や曲終わりのフェードアウト部分では音がこもりがちでレベル変動もあるのは強力なデジタルNRの弊害だ。
そこを除けば、もう少し欲しかった高域はFLEXシステムの効果で元録音より鮮やかになり、ボーカルばかり前に出ていた音のバランスがよくなった感じだ。
ノイズが軽減された(静寂性が増した)ことで逆にテープのドロップアウトは目立つようになった。
録音さえよければ、カセットテープであることを忘れさせるほどの静寂性となるのはすでに実証済みだ。
ただし厳密に言うと、これら補正システムを使うことで音場に奥行きがややなくなり、不自然さが伴うのも確か。
言い換えれば本来のカセットに録音された音をずいぶんといじった作り物感がある。
カセットはADのはずなのだが、ウォームなはずの音は良くも悪くもキレッキレの音になる。
気軽に聴く分にはこのカセットデッキほどぴったりなものはないだろう。
とにかく持っていてよかったと思えるカセットデッキだ。
しかも使用頻度が少ないにも関わらず、未だ故障知らずなのも驚きだ。
(当時秋葉原で店員が勧めたSONY TC-KA3ESを振り切って買っておいてよかった)
中古でも入手しやすく、年式も比較的高いのでカセットデッキの初心者に1台勧めるならこれになるだろう。

サンプル
Private School
LET'S BOYHUNT


Nakamichi CR-70
CR-70はナカミチの数あるカセットデッキの中でも人気・実力ともに高い高級機だ。
※このデッキの詳細は前述の記事リンク参照
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今回最も驚いたのはCR-70。
やはりこれは次元が違う。
といっても音が激変するわけではない。
テープヒスが多いと思っていたのになぜかナカミチだとそれがあまり気にならない。
失敗した「サシスセソ」でサチっていた部分もほんの少しだけ軽減。
ノイズが減ったと感じたのはやはりGX-7は回路からくるノイズも少なからずあったということだ。
何より3機種中もっとも音楽的に聴かせるのが素晴らしい。
GX-7で聴く音が本来の音のはずが、それよりもいい方向で再生できるとなると自己録再至上主義も揺らいでしまうというものだ。
T-D7のように補正機能は一切なく、やったのはアジマス調整のみ。
(これもさほどいじっていないが)
T-D7の再生音でも満足できていたがこれはやはり次元が違う。
(CR-70は若干回転に不安定さが出てきたようだ、そろそろメンテの時期かもしれない)

サンプル
Private School
LET'S BOYHUNT

さて、比較試聴してみて音の変化の大きさには改めて驚いた。
サンプルの音ではその違いがわかりにくいが実際は誰もが気づくであろうほどの違いだった。
ただし、録音の悪さを完全にカバーできるわけもなく、多少はましになる感じ。
T-D7とCR-70は、録音さえもっとよければかなりの音を聴かせるだけに少し酷な注文だった。

改めてアナログ録音の難しさと面白さが確認できただけでもやった価値はある。

それにしても、こんなことはもうやらないと言っておきながらどうにもリベンジしたくてしょうがない。
何よりお気に入りのAKAI GX-7の面目躍如を果たさねばならないだろう。


そして最後の最後で気になってしまったのは、

では当時のオーディオ小僧のダビングの音は実際どうだったのか

ということだ。

そこで当時オーディオ小僧が実際に録音したカセットも聴いてみることにした。

選択したのは3本のカセットテープ。
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全部が少しだけ昭和63年が存在した平成元年(1988)の録音だ。
今年(2021年)から見て33年前も前にオーディオ小僧がダビングしたものだが、カセットテープの劣化が一番の懸念点だ。
この時、レコードから決別するために手持ちのレコードを一気にダビングし、その後レコードを全部売ったのだ。

試聴対象の選定条件は、
・レコードから録音したもの
・ノイズリダクションはOFF
でピックアップ。

せっかくなのでノーマル、ハイポジ、メタルをそれぞれ選んでみた。

参考までに当時録音したシステムを。
レコードプレーヤー:YAMAHA YP-700C
カートリッジ:ピカリングのVM型(確かDJ用だった気がするが型名は忘れた)
フォノイコライザー:SANSUI AU-D707X Decadeの内臓でMM
カセットデッキ:AKAI HX-R44

そして今回再生に使ったのはナカミチ CR-70。
サンプルはソニー PCM-A10のリニアPCM(16bit/44.1kHz)でデジタル化。

1.中森明菜「VARIATION」
カセットはTDKのAD-Sでノーマル。
つまり今回録音に使ったADと同等のテープでハーフ違いのものだ。
音質傾向は同じはずである。
クリアなハーフは当時衝撃を受けたものだ。
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Sample

まず第一印象はノーマルでも十分だと思ってしまった。
なんとも元気な音でイントロからやられてしまった。
ただし、音が大きい部分で常に飽和しており、歪が確認できるが、サ行がサチっているわけではない。
このことから当時のレコードプレーヤーのセッティングは決まっていたが単純に録音レベルがこのカセットには高すぎたようだ。
(とても惜しい)
無音部のテープヒスノイズは相変わらず大きいとはいえ、曲が始まれば気にならないし同じADテープなのにノイズが少なく録音できている。
レコードのコンディションもよかったようだ。
ドロップアウトはほとんど確認できない。
音質傾向はやはりAD同様ボーカルがよく出ているがそれほどクドく感じない。
初期の明菜ならAD-Sでも十分だったようだ。

2.麗美「“R"」
カセットはmaxellのXLⅡ-Sの3代目でハイポジ。
2代目の前モデルと音質傾向は似ているがよりクリアな音になった。
このモデルチェンジでハイポジ、メタルはこの真っ黒ハーフになったがオレはこのデザインが好きでない。
(手触りは最高なのだが)
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Sample

XLⅡ-Sは癖のないやや控えめな音で全体に落ち着いた印象を受ける。
イントロこそおとなしいな、と思ったのだがサビの麗美の強烈なハイトーン部分ではダイナミックな音を聴かせてくれる。
(それでもレコードのほうがもっとダイナミックなのだが一歩及ばず)
さすがハイポジだけあって、ノイズの少なさはADの上をいっている。
高域も出ているとはいえ、同年代のTDKやSONYのハイポジに一歩譲るというところ。
そもそもマクセルの音は原音を大きく変えるような味付けはされていないように思う。
良く言えばモニター的であるが面白みという意味では物足りないかもしれない。
低域もしっかり出ているのでバランス自体とてもいい。


3.松任谷由実「VOYAGER」
カセットはTDKのMA-Xの2代目でメタル。
同年代のMA-XGと同等のテープだ。
メタルの風格を感じさせるブラックハーフに金文字、ラージハブ、広窓デザインもいい音を予感させるものだ。
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Sample

さすがにメタル。
オレはマクセル派ではあるが音はTDKが一番好きだ。
どんなジャンルでもソツなくこなす優等生といったところ。
このアルバムはさんざん聴いてきたが、確かにレコードのもつニュアンスは十分再現できている。
間奏のエレキギターのエネルギー感は強烈かつ破綻しないところが素晴らしい。


ざっと聴き比べてみて思ったのはオーディオ小僧の録音は今回のダビングよりノイズが少なめだ。
テープヒス、トレースノイズはもちろんあるが曲が始まればそれを邪魔するほどのものではない。
ノーマルではやや歪も多少あったがサ行がサチる部分はほぼなかった。
何よりカセットの音が未だ衰えを感じさせなかったのは凄い。
懸念していたドロップアウトはほとんど確認できなかった。
ただし、やはりというか録音レベルの高さと経年劣化により、曲間の無音部分で転写が発生している部分があった。

元オーディオ小僧としては余裕で当時と同じレベルでダビングくらいできると思っていたのだが、現役のオーディオ小僧には敵わなかったのが悔しいところ。
(自分と張り合うなという話だが)
レコードからのダビングは劣化要素が多く、難しいものがあるが、オーディオ小僧が当時CDから録音したものに限っては全て合格だ。


さて、この「ダビングの流儀」を記録として残したかったのは、かつてのダビングのお作法を忘れないためであったが、よくよく考えるとダビングしたのはカセットテープだけではない。
オーディオ小僧はカセットの次は「DAT」、その次は「MD」へとダビング先のメディアを変えている。
それらメディアも当然のことながら現在も全て手元に残っている。

となれば、それらの流儀も記録しておく必要がありそうだ。

今後はDAT編、MD編、DCC編(ついで)もやってみよう。