松原みき。

1970年代後半から1980年代後半にかけて活躍した日本の歌手である。

ここのところ、なぜか彼女のかつての楽曲が世界で注目されている。
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事情を知らない日本人にしてみれば、なぜなのか疑問しかない。

事の発端は海外のYoutuber(Rainych)が彼女の曲をカバーしたことから始まるようだ。

その後、音楽ストリーミング大手のSpotifyのバイラルチャートで松原のオリジナル曲が世界1位を取り、多くの人々に知られることとなったのだ。

松原のデビュー曲である「真夜中のドア~Stay With Me」は1979年リリースなのでオレはまだ小さい子供だった。
当然そんな大人の曲を聴くわけもなく、存在すら知らなかったのは言うまでもない。
(その頃はアニメ音楽を聴いていたくらいだ)

そして2004年にがん闘病の末、彼女が亡くなったことも今になって知ったほど。

そんな松原みきを知ったのはネットニュースからだ。
興味本位でYoutubeで聴いてみると、なるほど確かにいい曲。

ただ、この系統の曲は1980年代にかけて多く存在しており、この曲だけが群を抜いて優れているというわけでもなさそうだ。

だからこそ日本人にとっては「世界の気まぐれ」でヒットしたのだなという捉え方になる。

しかし、これを機に過去の日本の音楽が発掘されるようにもなったのだ。

それが「シティ ポップ」と呼ばれる音楽分野になる。

シティポップという言葉は正直聞きなれないが、それが何を意味するのかはすぐに理解できる。
少なくとも当時はそんな言い方は一般的ではなかったはずだ。
例えば、ニューミュージックとかポップスとか大まかなくくりで呼んでいたような気がする。
具体的には山下達郎、竹内まりや、角松敏生など、まさに都会的に洗練されたおしゃれな音楽。
オレも80年代から好んで聴いていたアーティストがこれにあたる。

松原みき、シティポップ、これだけが独り歩きしていたから違和感を感じていたのだろう。

そもそもの話、日本人としては今更日本の音楽になぜ世界が注目するのかというのが疑問だ。

オレが思うに、それは当時の日本の音楽業界のプロモーションの仕方が世界に向けられていなかったことが原因の一つと考える。
とはいえ、日本の音楽はアジア圏には当時から認知されており、オレもいくつかアジア向けのカセットは持っている。
だから日本の音楽はアジア圏の人々にはわかってもらえても、欧米圏では認めてもらえないのだろうと思っていた。
ずっと昔の話だが、松任谷由実の曲を聴いた欧米人が「なんてヘンテコな音楽なんだ」的なニュアンスで揶揄していたのを覚えている。

日本が誇るユーミンの音楽をこき下ろすとは「もうお前らに理解してもらわなくて結構だ!」と怒りを覚えたのだ。
また、聖子が世界デビューした時も、それが全く売れなかったわけではないにせよ、そこに留まり、日本でリリースされた過去のアルバムが聴かれるということはなかったのがあまりに残念だった。

こんなことがあったから、オレは今の世界のシティポップブームに不信感が拭えないわけなのだ。

だが、そもそも欧米圏の人々は日本の音楽に触れる機会がなかったことも事実。
もっと多くの人々の耳に入っていればきっと状況も変わっていたのではと思う。

その状況が変わったのが近年のことなのだ。
インターネットにより、Youtubeで全世界にコンテンツが労無くして共有できるようになった。
しかし、それだけではまだ足りない。
バックグラウンドにあったのは、やはり近年の日本ブームだ。
おそらくはアニメから始まり、日本料理、日本旅行と日本の文化に対する世界の関心は集まっており、それが日本の音楽にまで波及する準備は整っていたといえる。

しかしながら、まだ根本的な問題は解決していない。

それは日本語だ。

我々日本人は洋楽に対し、言葉の意味はわからなくても曲がよければ無条件に受け入れる民族だと思っている。
また、それを理解しようと努める人々も多くいるということだ。

外国人によれば、日本語は多くの言語の中でもかなり難しい部類に入ると聞く。
これは英語ほどのグローバル感がない日本語は個人で翻訳することが非常に難しい言語であるということでもあるだろう。
今なら翻訳サイトを使えば一瞬で翻訳もできるが、ニュアンスが違うなと思うものも多い。

この問題に変化の兆しを感じたのは「アナと雪の女王」だと個人的に分析している。
「アナと雪の女王」は2013年に公開され、世界、老若男女問わず大ヒットしたディズニーアニメ映画だ。

「アナと雪の女王」の主題歌である「レット・イット・ゴー」は上映する国ごとに、その国の言語で公式に歌詞が作られたのだ。
その日本語版を歌唱したのは「松たかこ」である。

当時、各国の言語で歌われた「レット・イット・ゴー」をYoutubeで公開していたが、その中に25か国言語ミックスバージョンがあった。
そのコメント欄に寄せられたものに、日本語がいいというコメントも多く寄せられていたのだ。
ここまで多言語で構成された音楽などなかったので、当然聴く側はもう雰囲気(音)として聴くしかない。
そんな中でも日本語がいいという人は「語感が心地いい」「かわいらしい」という感想を述べていた。

オレはこれを見た時、世界が日本語を(意味を理解しなくても)日本語のまま受け入れたのだなと思ったのだ。

つまり、日本人が洋楽の言葉の意味がわからなくても受け入れる感覚が、外国人もそう割り切った瞬間ではなかっただろうか。

「音楽に国境はない」とはよくいうが、それは確かにそうだと思うが、そうではない部分も大いにあったはずなのである。


と、話が長くなったが見ていこう。

松原みき「真夜中のドア~Stay With Me」
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発売日:2021/3/10(オリジナル:1979/11/5)
価格:2,177円(オリジナル:600円)
品番:SCKA00002
B面:そうして私が

発売日からわかる通り、これはオリジナルでなく復刻盤だ。

値段はさすがに高いが、オリジナルはすでにこの値段では買えないだろう。

松原みきが話題になり始めたころ、権利を持つポニーキャニオンは動いた。

これはポニーキャニオンによるクラウドファンディングである、「パッケージ・オーダー・プロジェクト」により復刻が実現した。
つまり規定数量を満たさなければ商品化が叶わないものだったのだ。

ちなみにファーストアルバムも同様の手法で商品化されたが、セカンドシングル「愛はエネルギー」、セカンドアルバム「Who are you?」は予約するも中止の連絡を受け取っている。

知らなかったとはいえ、外国人に「これいいぞ」と言われて購入したようなもので悔しいが、自分にとって知らない音楽を聴くことは何よりも嬉しいことなのでよしとしよう。
(もちろん事前に曲を何度も聴いていてお気に入りだったこともあるが)

基本的にオリジナルが欲しいのだが、これについてはリアルタイムで知らないので、思い入れはなく、今の若い世代が80's90'sの音楽を初めて聴く感覚に近い。
オリジナルに未練はないのでとりあえず復刻盤でよしとしたのだ。
(とはいえ本国の人間ならオリジナルを所持すべきか?)

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ジャケット裏の歌詞面は斜めに書かれた歌詞。
シンプルでなかなかオシャレな感じ。

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ケースは白、ラベルも白ととても美しい。
ただ、オリジナルのラベルはピクチャー仕様のようで完全復刻ではない。
この当時はポニーキャニオンでなく、キャニオンレコードだ。

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ひとつ思ったのが、このスリーブケースは非常に厚くしっかりしている。
オレが所有するシングルレコードの中でも一番かもしれない。
ほとんど厚紙な感じでレコードの保存に不安がない。

ただし、やはりこれもオリジナルとは違うようだ。

楽曲自体はネットを検索すれば簡単に聴けるのでオレが言及するまでもない。

これがいわゆる「シティポップ」と呼ばれる典型的な音楽なのだ。

きっかけがどうであれ、松原みきのおかげで日本の音楽が世界に知れ渡っていくことは単純に嬉しい。

ただこのことで日本の中古レコード市場が高騰するのは憂うべきことだが。
海外への流出も歯止めが効かないだろう。

いずれにしても日本のレコード業界が活況に沸くことはいいことであるが、当のアーティストは中古が売れたことで儲けにはならない。

せめて、この機会に現役で頑張るアーティストのCDやレコードも売れてくれることを願うばかりだ。

日本人としては「世界のきまぐれ」に踊らされることなく、自分の好きな音楽をただ聴いていればいい。

だが、過去の膨大かつ良質な音楽資産を当の日本人が知らないことは本当にもったいないなと思った次第だ。