(2021/3現在はデモ音源しかないが)
360 Reality Audioはいってみれば音楽用サラウンドフォーマットのようなものと考えればわかりやすいだろう。
音源はストリーミング配信により提供されるので現代のスタイルから大きく変わるものではない。
(今後はデータダウンロードで購入できるようにもなるのか?)
ただし、音源があればそれでいいかというとそういうわけではない。
当然環境を整えなければ聴くことはできない。
とはいっても、その環境はすでにスマホやアンドロイドウォークマン等で音楽を聴いている人であればもうゴール手前。
つまり既存の環境で誰もが聴ける新フォーマットということなのだ。
オレはとりあえず手持ちのスマホとヘッドホンだけで30分ほどの設定の後、試聴までこぎつけた。
今回は試聴までの手順とその他所感をまとめておくことにした。
必要な環境
・スマホとヘッドホン(イヤホン)
初期投資なく、一番手軽な方法なのですぐに始められる。
スマホはアンドロイド端末を使用。
(アップルがアプリに対応しているかは不明)
ヘッドホンは基本的に制限はなく、使用するアプリ次第。
ソニー提供のアプリだとソニー製のいくつかの指定ヘッドホンを選択することでさらに最適化された音を聴くことができるようだ。
より臨場感を出したいならカナル型イヤホンのようなインイヤータイプでなくオーバーヘッドタイプのほうがよりよさそうだ。
・スマホと専用スピーカー
スマホまでは同じだが音出しの手段として専用スピーカーも用意されている。
スマホからスピーカーは当然ワイヤレスである。
現時点ではAmazonのスマートスピーカーかSONYの対応スピーカーでなければ再生不可。
今後は技術提携した他メーカーの製品も期待できるだろう。
試聴していないのでなんとも言えないが、そもそもヘッドホンと同等のサウンドステージが再現できるか疑問だ。
360 Reality Audio仕様
音声フォーマット:MPEG-H 3D Audio
サンプリング:24bit/48kHz
ストリーミングビットレート:1.5Mbps
仕様を見る限りストリーミングでもハイレゾ相当の音質で提供されるようだ。
さらなるハイレゾ化はストリーミングでは頭打ちしそうだが、ダウンロードであればより高音質化することも可能だろう。
聴くまでの手順
360 Reality Audioを聴くまでの手順。
(かなり簡略化)
手順はかなりシンプルであるが設定は少しだけ面倒だ。
1.アプリのダウンロード
グーグルストアでSony Headphones Connectアプリをダウンロード。
2.諸設定
ソニーアプリでは自分の耳の写真を撮影してサーバーに送る。
これでより個人に最適な設定ができるらしい。
この間、メールにリンクがきたり、ログインしたりと面倒な手続きがある。
ログインが完了するとすぐに設定に移れる。
ソニー製ヘッドホン(イヤホン)を持っているならメニューで自分のヘッドホンを登録すれば、さらに最適な設定がなされるらしい。
オレはメニューの中にいくつか該当があったが今回はMDR-1Aを選択した。
このアプリ自体は設定のためのアプリ。
3.再生アプリのダウンロード
360 Reality Audioの音源は特定のストリーミング会社のどれかのアプリをダウロードする。
オレはとりあえずArtist Connectionをダウンロードした。
これでもう聴く準備は完了
360 Reality Audio以前に
例えばこれを単なるサラウンドと捉えるとなるとオレは1990年代からヤマハのサラウンドプロセッサーで5.1ch以上を聴いていたわけで、臨場感という観点だけでは目新しいものでもない。
(最高で7.1まで頑張ったがケーブルの引き回しは大変だった)
一般家庭でサラウンド環境を構築している人は少ないだろうが、映画館では誰もが気軽に体験できるのでそう考えれば腰を抜かすほど驚くことではない。
ただ、360 Reality Audioのすごいところはそれをひとつのヘッドホンだけで再現できるところだ。
つまり2chということ。
ドルビーサラウンドのシステムを構築するのにどれだけのお金と手間がかかるかということを考えれば初期投資ゼロで同等のサラウンドを実現できるのは画期的技術だ。
ヘッドホンひとつという話なら、すでにソニーはデジタルサラウンドヘッドホンシステム「MDR-MDR-HW700DS」というものがある。
オレはこれにテレビやプレステをつないで普段から映画・ドラマ・アニメ・ライブ等を見ている。
これは9.1ch相当のサラウンドの再現性があり、ドルビーサラウンドの各種フォーマットに対応している。
その効果はサラウンドバー1本よりははるかにましであるが、本格的なものには敵わない。
再生音について
音は360という名の通り、音場は実際のホールにいるかのような臨場感がある。
これは仮想球体空間に24のオプジェクトを配置し臨場感を再現しているそうだ。
どう解釈すればいいのかわからないが、例えば自分の部屋に24個のスピーカーを配置してそれぞれが独立した音をだしているようなイメージだろうか。
さて、試聴してみて思ったのは確かに臨場感はすごいと思う。
デジタルサラウンドヘッドホンシステム「MDR-MDR-HW700DS」と比べても段違いの臨場感。
これが普通のヘッドホンの音と思うと、これまで音場が広いといわれていたヘッドホンの立場もなくなるだろう。
音源はデモであったため、360 Reality Audioの凄さを見せつけるような演出がされている。
映像とリンクして、試聴ポイントが移動していく。
最初はボーカル。
これだけでもライブのような臨場感、続いて離れた各楽器やコーラスへ視点が移動していくとそれらの音が徐々に近づきボーカルは遠ざかる。
アトラクション的な感じで面白い。
とにかく360 Reality Audioの実力はわかった。
では、実際のリリース版はどうなるのかという話だ。
いくら臨場感を出すためとはいえ、ボーカルが横や後ろにいって遠くに聴こえるようでは落ち着いて聴けたもんじゃない。
では、リスニングポイントは固定でボーカル・楽器の配置をより明確にするのか?
それでもステレオより格段に臨場感があるがメリットを最大限に生かしているとはいえない。
そうなるとコンテンツ作りがどうなるのか気になる。
どちらかというとライブ向けにはちょうどいい。
そもそも最近の音楽はそもそもステレオ感なく音場が狭くつまらない。
(ほぼモノラル)
打ち込みばかりで本来音源は一点なのをステレオにミックスしているわけだ。
(生楽器の演奏でない場合)
これをリミックスするのかという話だ。
1990年代以前の音源であれば面白くなりそうだ。
そういう意味では360 Reality Audioはこれまでの音源と同等に扱うのは多少無理があるのかもしれない。
ちょっとライブっぽい音で聴いてみたいと思った時に時々聴いてみる、そんな感じか。
到底360 Reality Audio 1本で新譜をリリースするアーティスト等いないと思うので、通常版と360 Reality Audio版のような売り方をするのではと推測。
そう考えると確かにストリーミングオンリーのほうが理に適うような気がしてきた。
コンテンツの提供形式について
思ったのは360 Reality Audioを音楽専用フォーマットとするのは若干もったいない。
なにしろ普通のヘッドホンでサラウンド環境が実現できるとなれば、どうしても映画やドラマ・ゲーム等の映像も、と欲がでてしまう。
手始めは音楽ライブ映像と組み合わせてということになるだろう。
あとは例えばプレイステーションVRのコンテンツとして音楽ライブ会場を自由に移動してリスニングポイントを選べるなんてのも面白い。
プレイステーション5は3Dオーディオに対応とあるが、これが360 Reality Audioを指しているかはわからない。
今後の展望
個人的には360 Reality Audioをどのようなスタイルで聴くべきか、どう扱っていくかが課題だ。
つまり、スマホ・PCから出力してヘッドホンまたは専用スピーカーにとどめたスタイルだけでいくか。
オーディオメーカーがアンプやDAコンバーターにデコーダーを内蔵してオーディオ的にも展開していくのなら、より高音質で聴けるオーディオマニアも夢中になれる余地はある。
現実的にはヘッドホンのみが一般的となりそうだが、オーディオマニア的に考えると360 Reality Audioも自身のハイレゾ再生オーディオシステムの中に組み込みたくもなる。
ただし、ネックとなるのは専用スピーカーが必要となる部分だ。
仮に既存のシステムに組み込んだところで専用スピーカーとなると結局このために別のシステム構築が必要となるわけなので既存のシステムとの親和性を計ることは厳しい。
試聴はしていないがこの専用スピーカーによる音場再現がヘッドホンで聴いたような臨場感が出せるとは到底思えない。
複数のスピーカーを360度上下に配置したとしても、音の出どころは1か所の点音源。
これはサラウンドバーで体験済みだが本格的な多チャンネルスピーカーによる臨場感には到底かなわない。
となれば、AVアンプにデコーダーを内蔵させ、5chに最適化して再生したほうが現実的。
または、逆にもともと2chなのだからスピーカー2本を正面でなく横(耳の水平方向)へ配置し、360 Reality Audio専用スピーカーとはならないだろうか?
ヘッドホンでできるならそれがスピーカーに代わるだけ。
ヤマハのホームシアタースピーカー配置でいうならSRとSLを360 Reality Audio専用とするのだ。
懸念点
360 Reality Audioはソニー主導の技術だ。
つまりソニー独占とあればコンテンツは限られてくる。
もちろんソニーに賛同してソニーミュージック以外の企業が参入するのなら全く問題ない。
それより心配しているのは他社でさらに別のフォーマットが出てくる場合だ。
こうなるともう混沌としてくるのは過去の数々のフォーマット戦争で経験済み。
フォーマットの乱立はユーザーがとまどい、普及の足止めにもなりかねない。
今後の展開が楽しみなものが出てきた。