さくの家電のーと

オーディオ、音楽、家電全般に関する備忘録ブログ

ワーナーパイオニア

中森明菜 シングルCD(MCAビクター期)

明菜のヒット曲で誰もが知るシングル曲のほとんどはワーナー・パイオニア期のものだろう。

実際、さまざまなランキングに挙がる曲はワーナー期のものが多い。

しかし明菜の現在に至るまでのキャリアを考えればそのワーナー期も一部にすぎない。

本当の明菜を理解するためにはワーナー期以外にもしっかりと目を向けたいところだ。

そこで今回はそのワーナー・パイオニアの次の移籍先であるMCAビクター期のシングルについて見ていく。
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MCAビクターはメジャーレーベルに比べれば聞きなれない名だが、その名の通りビクター系のレコード会社となる。
(日本ビクターが出資しているが本家とはまた別)

ここら辺の経緯は買収や統合を繰り返している業界だけに非常に複雑。
ざっくりでも知っておいたほうがよさそうなのでざっくりまとめてみる。

MCAはミュージック・コーポレーション・オブ・アメリカの略でアメリカのレコード会社。
そのMCAレコードの日本での販売を日本ビクターが担っていた。
その後松下電器産業がMCAを買収したことで、松下とビクターの共同出資会社として誕生したのがMCAビクターというわけだ。
さらにその後、松下がシーグラムへ売却し、その売却先が社名をユニバーサルミュージックに変更したため、かつてのMCAビクターは完全に現代のユニバーサルミュージックの傘下に入ったということになる。
よって明菜のMCAビクター期の復刻盤を出す権利はユニバーサルミュージックにあるのだ。

明菜のレコード会社の変遷は以下の通り。

1.ワーナー・パイオニア
2.MCAビクター
3.ガウスエンターテイメント
4.@ease
5.ユニバーサルミュージック

今回は2の時期にリリースされたシングル分が対象となる。

先述したように2021年現在では2・4・5が統合やらでユニバーサルが権利を持っているため、1・3以外ユニバーサルが新たにリマスター盤等をリリースすることができるということになる。
実際、すでにユニバーサルは2と5の時期にリリースされたCDシングルを合わせて、初レコード化による再発※をやっている。
※全世界999セット限定 アナログセット(2016年)を指す

そんな経緯がある当時のMCAビクター期のCDシングルだが、オレはかなり重要な時期であると考える。
ワーナーから移籍後、MCAビクターから第一弾シングルが出るまでは前作から約2年のブランクがあった。
とはいえ、明菜が不動の人気を誇ったワーナー期の勢いはまだ衰えてはいない。

つまりワーナー期からの明菜人気にあやかり、かつての明菜っぽさもまだ残っていたからだ。
そしてワーナー期とまではいかなくても多くに知られない名曲が数多く存在するのも事実だ。

しかし、ワーナー期をひと区切りとして一定数のファンが明菜から離れていったことも事実。
明菜に限らず、アイドルの世界というのはそういうものだ。
アイドルの性質上、活動空白期間はファン離れが加速する。
(かくいうオレもその一人であった)
今となっては新譜を買わなくともせめて明菜の動向だけは注視すべきだったと後悔している。

リアルタイムで聴くのと後追いで聴くのとでは印象が異なるからだ。
実際惜しいと思うほどMCAビクター期の楽曲も素晴らしいものだった。
その時代時代の音楽は世相を反映する鏡でもあり、曲を本当に理解するにはその時代背景を体感しつつ聴くことは重要なのだ。

今では全期の明菜の楽曲を把握していると自負するオレであるが、その上で俯瞰してみてもやはりMCAビクター期の楽曲が素晴らしかったということが見えてくる。


それでは細かく見ていこう。

明菜のMCAビクター期のシングルは約5年間(1993~1997年)で全8枚、すべて8cmシングルCDで発売された。
(Everlasting Loveのみカセット発売も有り)

時代はすでにレコードが終焉し、CD時代となった頃である。
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当然のことながら全て初期CDシングルの縦長パッケージである。
しかし、すべて縦長ジャケットデザインなのでCDシングル熟成期であることがわかる。

シングルディスコグラフィ(リリース順)
1.Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
2.片思い/愛撫
3.夜のどこかで~night shift~
4.月華
5.原始、女は太陽だった
6.Tokyo Rose
7.MOONLIGHT SHADOW -月に吠えろ
8.APPETITE

ラインナップを見ると明菜の全期を知っていれば名曲だらけだとわかるはずだ。

1と2についてはジャケットの記載通り2曲のタイトルを入れている。
これは両A面という意味である。

両A面とは
そもそもレコード世代でなければA面B面の概念を理解できないと思う。
レコードは表A面、裏B面としてどちらがメイン曲なのかを区別する。
基本的にA面がメイン曲でB面はおまけ曲という解釈でも問題ない。

たとえばB面曲がゆうせん放送等でヒットするなどしてA面として再び発売し直すことはかつてはよくあった。
その結果両A面扱いとなったシングルは実質B面がないのだ。
(物理的にはあるが)
よって両A面という考えはレコードの時代に生まれたものである。

CD時代になるとCDにはそもそもA面B面などないので、通常は1曲目がA面で2曲目がB面扱いという捉え方となる。
CDシングルではレコードB面にあたる曲はジャケットの隅に小さくC/W(カップリング・ウィズ)としてメイン曲より小さく曲名を記載するのでここでも確認できる。
CDシングルはA面曲、B面曲、両A面曲かの区別はジャケットのタイトル記載方法や曲順によりそれを判断するということだ。

従って、
1.Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
2.片思い/愛撫
はC/W(B面)扱いの曲がないので両A面シングルということになる。
つまりどちらもメイン曲。
個人的には作詞・作曲家の力関係とかもあるんだろうと思っている。
作り手の思いや大人の事情も絡む、どちらを立てるというわけでもない「両A面」も現代ではあまり聞くことがなくなった言葉である。

CDシングルはオリジナルのカラオケが入っていることもレコードでできなかった強みと言える。
(それまではカラオケ収録はカセットテープのみの特権であった)
これらのシングルでなければカラオケは聴けないことがほとんどなので、CDならあえてシングル盤も所有する意義は大きい。
サブスク世代はサブスクだけでは聴けない音源もあることを認識しておく必要がある。

それでは各シングルを細かく見ていこう。

Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
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発売日:1993/5/21
品番:MVDD-10001
C/W:両A面

1曲目は「Everlasting Love」。
ミュージシャンの大貫妙子による作詞、坂本龍一の作曲と豪華な顔ぶれ。
バラード調の美しい曲で坂本龍一が作曲だがさすが教授、幅の広さを感じる。
個人的にはバラードを好まないので移籍後第一弾シングルの1曲目がバラードなのは弱いかなと思っている。
反面、明菜の次なるステージの予感も感じさせるものとなった。
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2曲目が「NOT CRAZY TO ME」。
ミディアムテンポのダンスミュージックだ。
作詞はNOKKO(レベッカ)でこちらも作曲は坂本龍一。
この時すでに惜しまれつつもレベッカを解散していたNOKKOだが、その勢いのままソロ活動でも目覚しく活躍していた。
レベッカ時代の楽曲の大半をNOKKOが作詞していたが、彼女の成長と余裕を感じさせる大人の詞といったところだ。
両A面とはいえ、本来のA面があるとすれば断然オレはこっちを推す。
明菜節も多少聴けるしメロディも洗練されていてかっこいい。
ちなみにこの曲は同年発売のオリジナルアルバム「UNBALANCE+BALANCE」の先行シングル扱いだ。
先行シングル扱いと言っているのは、アルバムがこの4か月後に発売されたからだ。
期間が空きすぎているところを見ると、アルバム曲の頭数合わせにこれを収録したのではと勘繰っている。
なぜなら「UNBALANCE+BALANCE」は「NOT CRAZY TO ME」がなければ全8曲しかないからだ。
同アルバムにはアレンジが異なるLP Editが収録されたが、明菜本人も言う通りシングルバージョンとの違いが微妙すぎる。
個人的にはシングルCDでカラオケが聴けるのは嬉しいところ。
BGMとして流していても違和感がない気持ちよさがある。

なお、本作が明菜最後のアナログリリースがあったシングルであり、カセットでも発売されたので一緒に載せておこう。

Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME(カセット)
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発売日:1993/5/21
品番:MVSD-10001
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カセットなのでCDと全く同じ曲構成だ。

明菜最後のシングルレコード発売となったのはLIARだ。
以降、ワーナーからは3作がシングルをカセットで発売。
そしてこのカセットを最後に明菜のアナログ時代は終わったのである。
そういう歴史的に重要な意味を持つのがこのシングルカセットなのだ。
ポップス分野においてカセットというメディアは当時それほど重要視されてはいなかった。
(カセットが必須なのは演歌だった)
聖子は1995年までカセットを発売したが、どこで見切りをつけるかはレコード会社の方針によりけりだったのだ。

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片想い/愛撫
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発売日:1994/3/24
品番:MVDD-10004
C/W:両A面

2作続けての両A面シングル。
それだけシングルカットしたい候補曲が多かったともとれる。
1曲目は「片想い」。
普通に考えれば1曲目がA面扱いなのだろうと思うと、前作同様1曲目にバラードを持ってきているのが興味深い。
しかもこれはオリジナル曲でなくカバーである。
ではなぜカバー曲をシングルにしたのか、理由は簡単だ。
これは今ではお馴染みとなった明菜のカバーアルバムである歌姫シリーズ第一弾からのシングルカットという意味であり、プロモーションの一環だからだ。
(アルバム、シングル共に同日発売)
ちなみにアルバム「歌姫」に収録された「片想い」はアルバムバージョンで多少アレンジが異なる。

思えば明菜のカバーシリーズはここから始まったわけだ。
オリジナルは槇みちるのシングル「鈴の音がきこえる」(1969年)のB面からとのことだが全く知らない歌手だった。
(その後中尾ミエがカバーしたことで有名になったらしい)

さて、カバー曲については当世代・別世代の間でよく論争が巻き起こるものだ。
オリジナルを知るものにしてみればオリジナルがいいという意見が多く、カバーを受け入れない。
別世代がカバーがいいと言えばオリジナルを聴いたのか?と当世代が目くじらを立てる。
こんな世代違いのバトルをYoutubeのコメント欄でたまにみかける。

「片想い」についてはオレは明菜により初めて知った曲であり、別世代ということになる。
カバーと知ってオリジナルを聴くきっかけにもなり、自らの音楽の幅が広がることは単純に楽しい。
そもそもカバーしたアーティストはオリジナルを超えるつもりでカバーしているわけではない。
自分が好きだからカバーするわけであり、そこにはまずトリビュートの精神があるわけだ。
にもかかわらず、それを外野の我々がどっちがいいだの言い争うのは非常に滑稽だ。
我々聴き手はカバーのおかげで過去の名曲を聴くきっかけを得ているのだ。
カバーが好きなら大いに結構。
ただし、オリジナルをトリビュートする気持ちは聴き手であるものも絶対に忘れてはならないと思うのだ。
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裏面は同日発売のカバーアルバム「歌姫」の裏ジャケットと同様、着物を着た明菜が鮮やか。

そして2曲目が「愛撫」。
作詞は明菜ではとても珍しい松本隆。
歌詞を聴かないオレでも歌詞カードを読み返したほどの秀逸な詞。
詞がかっこいいと初めて思った曲だ。
イントロから数秒聴けば小室哲哉の曲だとすぐにわかる。
小室と明菜は合わないという声もあるが、クセのある小室の曲を自分のものにしているのはさすがとしか言えない。
これはオリジナルアルバム「UNBALANCE+BALANCE」からの第二弾シングルでもある。
このアルバムの中では最も人気が高いであろう「愛撫」はもともと移籍後第一弾シングルの候補曲だったというエピソードからもここで陽の目を見たのも納得だ。
打ち込みの音があまり好きでない明菜はレコーディング時、せめて低音を効かせてくれと注文したらしいが、その通り低音が力強いサウンドで、平面的な音場でオーディオ的に退屈になりがちな打ち込み曲には効果的かもしれない。
明菜のマイシングルベスト10に入るほど好きな曲。
カラオケも必聴だ。


夜のどこかで~night shift~
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発売日:1994/9/2
品番:MVDD-10007
C/W:Rose Bud

ジャケットでまず目を引くのがテレビに映った櫻井よしこ。
これは当時の日テレ深夜ニュース番組「きょうの出来事」のエンディングテーマに使用されたためだ。
(櫻井さんが好きでよく見ていた)
明菜も夜のニュース番組のテーマ曲をどう歌えばいいのか悩んだらしい。
その結果がファルセットということになるのか。
言われてみれば終始ファルセットで歌唱しているようでもある。
しかし、明菜はファルセットをそう思わせないほど普通に使うので、もうこれも地声だといってもいいのでは。
「警部補 古畑任三郎」の記念すべき1stシーズン第一話のゲスト主演は明菜だったが、ここでの明菜の役はコミック作家 小石川ちなみ(ちなみは漫画家と言うと怒る)で全てのセリフがファルセットだった。
そういうことができるのが明菜なのだ。
「素顔のままで」では完全地声の明菜が見られるので比較すると面白い。
こんな驚くべきことを普通にやってのける役者もそういない。
(のだめカンタービレの上野樹里の声もすごいが・・・)

「夜のどこかで~night shift~」はニュース番組というよりも、むしろサスペンス系のドラマに合いそうな雰囲気。
シングル「二人静」や「帰省」が好きな人なららこの曲もきっと気に入るだろう。
前から思っていたのが明菜はこの雰囲気の曲が割と多いので、いつか「サスペンスドラマに使われそうな曲ベスト」でも作ってみたい。
共通するのはスロー~ミディアムテンポなのにどこかかっこいい部分があるということだ。
作曲したのは後藤次利。
やはり天才作曲家だが明るい曲を作る人のイメージだったので少々驚いた。
ミディアムテンポであるが、ストリングスとエレキギターで音に深みを持たせた傑作だ。

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裏面はカップリング曲側のイメージで撮影されているようだ。

カップリング「Rose Bud」もフジテレビトーク番組「新伍&伸介のあぶない話」のエンディングテーマでこのシングルは完全タイアップ曲構成ということになる。
(この番組は見た記憶がない)
明菜の多くの曲のなかでも目立たない部類に入るだろうが、アップテンポでメロディも抜群にいい。
明菜ビブラートも聴けるので本領発揮の明菜らしさが感じられる曲だ。
自分でB面ベストを作るなら確実に入れたくなる良曲だ。


月華
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発売日:1994/10/5
品番:MVDD-10009
C/W:BLUE LACE

「月華」は前作から2か月連続の第二弾シングル。
タイトル通り和風テイストなアレンジがアクセントのミディアムテンポなバラード曲。
明菜は全体に地声で歌えるキーなのは久しぶり、とコメントしているがどんだけファルセット使ってたんだということだ。
これも「二人静」「帰省」系だと勝手に分類しているが、明菜のこの系統の曲は本当に好きだ。
明菜の憂いのあるボーカルがおそらくこのような曲を呼び寄せるのだろうし、実際ぴったりだ。
クセになる泣きメロとでもいうのか、やっぱりこの系統のベストは作ってみたい。

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DESIREを思わせる奇抜なファッションの裏ジャケット。

カップリング「BLUE LACE」はアコースティックな響きが美しいバラード調。
オーディオチェック用に使いたくなるような好録音だが、アルバム「UNBALANCE+BALANCE+6」のボーナス曲として収録のリマスター音源のほうがより重厚な音だ。
バラード嫌いなオレだが、なぜか明菜のバラードは好きなものが多い。
(聖子も好きなバラード曲はたくさんあるが、あまりに近年量産しているのでちょっと食傷気味なところがある)


原始、女は太陽だった
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発売日:1995/6/21
品番:MVDD-10014
C/W:綺麗

「原始、女は太陽だった」はラテンの雰囲気を纏うアップテンポ曲。
それにしてもインパクトのあるタイトルだ。
ラテン系と言えば「ミ・アモーレ」を思い出すが、あそこまでラテンではなく、ほどよく洗練されたラテン系といったところ。
実はこの曲、Aメロ・Bメロ部分でボーカルが微妙に多重録音されている。
最初は追っかけエコーかと思ったのだが歌詞とは違う声が入っている部分もある。
(00:49辺りがわかりやすい)
カラオケで確認したがコーラスはサビの部分にしか入っていなかった。
このさりげない小細工が実に気持ちいい。
現代の曲はボーカルにエコーをあまりかけないデッドな音が多いので、この曲のボーカルを聴くと不思議な感覚を覚えることだろう。
このようなエフェクトをかけたボーカルは多くないので貴重だ。
オリジナルアルバム「la alteracion」ではアルバムバージョンを聴くことができる。
アルバムバージョンはシングルから大きくアレンジを変更しているわけではない。
ただし、シングルのようなボーカルのエフェクトが変更されていることはわかる。
よって断然オリジナルのシングルバージョンが圧勝で好きだ。
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この頃からだろうか、明菜のジャケット写真にアイドル然とした雰囲気がなくなってくる。
ピントをぼかすとか、顔を一部しか写さないとか、よりアーティスティックになったと言えば聞こえはいいが、手抜き感を感じるのはオレだけだろうか。

カップリング曲「綺麗」は明菜としてはそう多くないサビ始まり曲でインパクト大。
オールドJ-POPなメロディだが洗練されたアレンジで古臭さを感じさせない良曲となった。
とはいえ、シングルB面を脱するほどではないとも思う。


Tokyo Rose
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発売日:1995/11/1
品番:MVDD-10017
C/W:優しい関係

このシングルはジャケットからもわかるように「中森明菜」ではなく「Akina」名義でのシングルだ。
言われなきゃスルーしてしまいそうでそれで何が違うのかと思うが、それも含めてのキャラクタープロデュースといったところだろう。
(聖子の「SEIKO」名義とはまた意味が違う)

「ノンフィクション エクスタシー」も同様で架空のキャラクターを作り出したのを思い出す。
「Tokyo Rose」は明菜には珍しいロカビリー曲で「TATTOO」的な雰囲気もある。
ここではロカビリー歌手の「AKINA」という演出なのだろう。
そもそもロカビリーを狙ってロカビリーを手掛けるメンバーを迎えているほどなので本格的だ。
ノリノリなバック演奏も聴きどころのひとつ。

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カップリング「優しい関係」も同じくロカビリー。
このシングル自体がそういうコンセプトというわけだ。
この曲では珍しく曲中に明菜のセリフが入るのが聴きどころ。


MOONLIGHT SHADOW -月に吠えろ
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発売日:1996/8/7
品番:MVDD-10024
C/W:なし

これも小室哲哉の作曲。
期間はかなりあいているがオリジナルアルバム「SHAKER」の先行シングル曲。
オレはこれを初めて聴いた時、小室っぽいなとは思っても当初はそれほどいい曲とは思わなかった。
しかし、数回聴いてすぐにドはまりした経緯がある。
聴けば聴くほどクセになるのだ。
同じく小室の「愛撫」よりも打ち込み独特の閉塞感がいくらか軽減している。
ボーカルのエコーとドラムのキレがあるため、そう聴かせるのかもしれない。
作詞はさすがのTHE ALFEE 高見沢俊彦だ。
ちなみにオレは高見沢さんと誕生日が同じ(年は違うが)で昔から勝手に親近感を持っている。
とにかく、この二人が組めばいい曲ができて当然。
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なお、本作はカップリング曲はなく、同曲のクラブミックスとカラオケの3曲で構成される単曲シングルだ。
(そもそもシングルは2曲でなければいけないというルールはないと思うが、価格は1000円で他と同じシングル価格である)
好きな曲なのでクラブミックスには大いに期待したが、正直このミックスは残念としか言いようがない。
曲の持ち味のグルーブ感が失われ、ただ間延びしただけでオリジナルより大人しいとさえ思う。
この翌年のオリジナルアルバム「SHAKER」ではこれのアルバムミックスが収録されたが3曲を比べるとアルバムバージョンが断トツでよい。
前奏が30秒ほど追加されたのとボーカルとコーラスのエコーが深くなり、より打ち込み感が緩和されて聴きやすくなっているからだ。
デッドな音のシングルに対し、ライブな音のアルバムバージョン、間延びしたクラブミックスといったところか。
シングルマイベスト10に入れたい良曲が期間の短いMCAビクター期から2曲も入ってくるとは、小室好きにもほどがある。
そもそも小室のことはTMネットワーク時代から大好きで、小室ファミリーの曲と共に青春を過ごしたオレとしては小室愛が半端ではないのだ。


APPETITE
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発売日:1997/2/21
品番:MVDD-10027
C/W:SWEET SUSPICION

「APPETITE」はMCAビクターで最後にリリースされたシングル。
やはりオリジナルアルバム「SHAKER」の先行シングルとなる。
終始ジャズ風アレンジのウッドベースの重厚な音が印象的だ。
しかしこの曲の特筆すべき点はエコーエフェクトの切替につきる。
1コーラス目はイントロ演奏こそリバーブがかかるがAメロのボーカルはデッド、サビはボーカルにエコーをかけるという変則的な効果をつけている。
さらに2コーラス目のAメロはボーカルはこもらせた上でのデッドなボーカル、サビで再びエコーをかけ、後半はずっとエコー。
一体どうなってる?
こんな構成はかなり珍しい。
歌番組では再現不可能だろう。
明菜のシングルでも5本の指に入る異色な曲となった。

アルバムには「APPETITE ~HORROR PLANTS BENJAMIN」とサブタイトル付きでアルバムバージョンとして収録された。
もともとはサブタイトルの方が最初のタイトルだったらしい。
イントロが多少違うことを除けば大きな違いはないが、ボーカルのエフェクトにシングルのような変化はつけず一定なのが特徴だ。

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シングル「TATTOO」のジャケット歌詞面の写真を思わせるアングル。
明菜のスタイルの良さを押し出した写真はあまり多くはないので貴重。

カップリング「SWEET SUSPICION」も多少変則さをにおわせる曲だ。
こっちはAメロBメロと爽やかなフレンチポップなメロディとアレンジを見せるがサビに入ると竹内まりや的なニューミュージックな雰囲気になる。

このシングルは全体でかなりクセのある曲作りをしているのが面白い。


さて、MCAビクター期のシングルを振り返ってみて思うのは「明菜らしさ」と「新しい明菜」が混在した過渡期のようなものだったと感じる。
ワーナー期においても明菜は自己プロデュースしていたが、より明菜の強い意思のようなものを感じる。
自分の歌いたい歌・表現など大手レーベルでは意見出来なかったこともここではやりやすかったのかもしれない。
これまで以上に実験的な音作りをしており、その振り幅の広さにも驚かされる。
シングル・アルバム含め、MCAビクター期の楽曲は明菜のキャリア中でもかなりの高水準だと思っている。

しかしそれは必ずしもファンが求める明菜とは違っていたのかもしれない。

だからこそワーナー期の明菜だけでいいという意見もうなずける。

人間はいくつになっても成長しつづけるものだ。

思い通りに成長してくれなかったからとファンをやめるのも自由。

でもやっぱり明菜が好きなんだとなれば、成長の過程を全て見返してみるとまた何か別の発見があるかもしれない。

それは今からでも決して遅くはないと思うのだ。

中森明菜 シングルレコード(ワーナー・パイオニア期)

明菜のシングルレコード復刻(2021年6月)という報を受け、その前にオリジナルシングルレコードの記事をあげておくことにした。

デビューシングル「スローモーション」リリース当時、オレは明菜のことを知っていたのか記憶が定かでないが、まず確実なのはセカンドシングル「少女A」からだ。

では明菜のシングルをどこから買い始めたかと記憶を辿るが「サザン・ウインド(1984年)」が強烈に印象に残っており、この辺からではないだろうかと思う。
(先発が聖子だったのでどこから明菜に参入したのかがおぼろげ)

さて、ワーナー・パイオニア(現ワーナーミュージック・ジャパン)所属時代にリリースされたシングルは1982年「スローモーション」~1989年「LIAR」までの全27枚だ。
12インチシングル「赤い鳥逃げた(1985年)」をカウントしない場合

その内訳はレコード発売分23枚、カセット1巻、CD3枚とやや複雑となる。
これはレコードからCDへの移行期と重なるためであり、この頃は明菜に限らずどのアーティストもこのような状況だった。
明菜の場合、ワーナー期でレコードの終焉をむかえた。

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最後のレコード発売となった「LIAR」以降は「Dear Friend」「水に挿した花」「二人静-(天河伝説殺人事件)より」の3枚がCDとカセットでリリースされ、その後ワーナー・パイオニアを去ることになる。

そしてオレの明菜シングル購入は1990年「Dear Friend」のCDを買ったのを最後に一旦途切れた。

これから各シングルをリリース順に見ていくが、レコードのみではワーナー時代の全シングルを網羅できないため、ここではレコードでリリースされなかった分はアナログというくくりでカセットでカバーしたいと思う。

なお、曲解説・エピソード等は基本的にウィキペディアの情報を参考にし、補完として自らが知り得た情報・経験を織り込みまとめあげたものだ。
ネット情報で事実と異なる情報の部分は修正を加えている。


スローモーション
作詞:来生えつこ 作曲:来生たかお 編曲:船山基紀

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見本盤(プロモ盤)の別ジャケット
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B面:条件反射(作詞:中里綴 作曲:三室のぼる 編曲:船山基記)

発売日:1982/5/1
品番:L-1600

記念すべき明菜のデビューシングル。
ジャケットは見本盤(いわゆるプロモ盤)の別ジャケット(写真下)が存在するが、通常プロモ盤でジャケット写真をきちんと撮ることはまず少ない。
おそらくデビューシングルということで気合をいれたのだろう。
(プロモ盤ジャケットは当初のジャケットという噂もある)
プロモ盤は公式ジャケットより素の明菜を映しているようでもあり、そういう意味でもこのプロモ盤の人気は非常に高い。
レコーディングはこれまた気合のアメリカ・ロサンゼルスで行われている。

さて明菜の初期キャラクターといえば当時の言葉を使えばいわゆる「ツッパリ」だ。
しかしデビュー時は清純派アイドルを目指していたことがこの曲やジャケット写真を見ればわかる。
のちに明らかになったのは明菜はそもそも清純派アイドル希望だったということ。
初期イメージであるツッパリ路線はやらされていただけで本心ではなかったようだ。

スローモーションの曲調はアイドル然としたものであるがデビューシングルとしてはややインパクトに欠けるのも確かだ。
何しろ聖子という強力なアイドルがすでにいたわけで、真っ向勝負ではまず敵わない。
(実際売り上げも振るわなかった)

しかし、このデビューシングルには複数の候補曲があったようなのだ。
それはファーストアルバム「プロローグ<序幕>」に収録された「あなたのポートレート」「Tシャツ・サンセット」「銀河伝説」の3曲。

「あなたのポートレート」はアルバム1曲目にくるほどの良曲で「スローモーション」と若干似た雰囲気だ。
しかし「スローモーション」と比べれば明るさ爽やかさが一歩及ばない。
「Tシャツ・サンセット」はこれはいわゆる70年代歌謡の雰囲気を持った古臭く感じる曲だ。
明菜の母校での発売前アンケートでは断トツ人気だったようであるが、タイトルのインパクトも弱いしまだ「あなたのポートレート」のほうがいい。
「銀河伝説」はイントロやサビのインパクトも十分で次のシングル「少女A」にもうまくつながりそうだ。
明菜も推した曲でオレもこの中では一番よさそうだと思うが、清純派アイドルを打ち立ててとなるとややイメージがずれているともいえる。
結果的には来生姉弟の顔を立てたのもあるのか「スローモーション」を選んだのは正解だろう。
のちにこの来生コンビによる楽曲は明菜へ多く提供されることになる。

B面「条件反射」はややハードな曲調。
雰囲気は「少女A」と似た感じもあり、すでに明菜の潜在的キャラクターに目をつけていたのかと勘ぐってしまう。
この曲はファーストアルバムにも収録されたが、この曲含めファーストアルバムの雰囲気は同じアイドルの聖子のファーストアルバムとは対極という印象だ。
同じ清純派アイドル路線でも聖子のように底抜けに明るいという印象ではないのだ。
すでにトップアイドルであった聖子を意識し、差別化しようと画策していたのだろうかとさえ思えてくるほど。
しかし、そもそも聖子と同じ路線では二流に終わっていたのかもしれない。

ファーストアルバム「プロローグ<序幕>」はこの3か月後に発売されることになる。


少女A
作詞:売野雅勇 作曲:芹澤廣明 編曲:萩田光雄
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B面:夢判断(作詞:中里綴 作曲:三室のぼる 編曲:萩田光雄)
発売日:1982/7/28
品番:L-1616

ファーストシングルからわずか3か月後に発売されたセカンドシングル。
当時としてはどのアイドルも似たようなもので珍しくないペースだが現代では考えられない驚異的なハイペースだ。
いかに一人のアイドルに多くのスタッフが関わっていたのかがうかがえる。

そしてこの曲こそが明菜のキャラクター(路線)を決定的にした(修正した)ともいえる曲であり、関係者含め運命的な転換曲となった。

しかし、この曲をリリースするまでには紆余曲折があったようなのだ。

世は校内暴力をはじめ少年犯罪が社会問題となっていた時代。
当時大ヒットした大映ドラマ「スクールウォーズ」や「不良少女と呼ばれて」などの題材にもなったように、背景にあったのはそんな未成年による犯罪だった。
タイトルの「少女A」は犯罪を犯した未成年者の氏名を報道時に実名を伏せるために使われるものだ。
これをまだデビューしたてのアイドルのシングル曲タイトルに使うのはどう考えても無謀だろう。
世間の印象は当然よくないだろうし、NHKにはひっかかりそうだ。

そもそもの仕掛人は当時イケイケだった作詞の売野雅勇氏だ。
のちにアイドルをバカにしていたところもあったと述べた売野氏だが、いざ詞を書くことになったら難しかったと語っている。
デビュー曲の流れから見ても明菜は当然正統派アイドルを目指しているとわかろうものだが、売野氏は自分がカッコいいと思うアイドル像というか、自分の信念を曲げてまでそこに寄せる気はなかったようなのだ。

このタイトルや詞の元になったのは売野氏の中学時代の経験からだという。

すごくカッコいい年上の女の子がいたが、その子は自分のことが好きだったという。
彼女は当時の風潮としては珍しい積極的な女の子でいわゆる不良の分類の人だった。
全く臆することなく男の子を誘うのならそれは当時不良少女と映っても仕方ないかもしれない。

売野氏はその人のイメージで詞を書けないかと模索した。

そしてある日新聞で目にしたのが「少女A」という文字だったのだ。

アイドルの歌のタイトルにするにはあまりに大胆ではあるが意義があると思った。
売野氏は詩の内容はともかく、唯一攻められるのがタイトルだ、とも語っている。
不安定な思春期、一歩間違えば誰もが犯罪者になる。
そんな危険な香りをタイトルに込めたかったのだ。
さすが元コピーライターだけあって、タイトルの重要性については売野氏は常に様々なメディアで語っている。

しかし、タイトルが少女A(匿名を指す言葉)だけにスタッフは仮のタイトルだと思っていたらしい。

その時の会話はこんな感じだったようだ。

スタッフ「売野さん、そろそろ本当のタイトル出していただけますか?」

売野氏「えっ? それがタイトルなんです」

スタッフ「これがタイトルですか!?」

芹澤氏(作曲担当)「こんなのでいいの?これは世の中に通らないよ!」

肝心の明菜は、

明菜「不良なのはイヤだ! Aって何よ? 明菜のAってこと?」

と、本人はこのタイトルを露骨に拒絶した。

そういうわけで「少女A」の「A」は決して明菜のことを指しているわけではないし、むしろ本人の名誉のためにも明菜であってはならないのだ。

となればレコーディングも一大事。
ふてくされている明菜に周りが1回でいいから歌って、となんとかなだめて1回だけ歌ったらこれがなかなかいける。
なんとそれは結局一発録りで終わったというのだから驚きである。

なにもかも気に入らないという明菜の気持ちがそのまま歌に込められたのが結果的にマッチして大当たりしたのだ。

大きく運命を変える曲となった。

ちなみにジャケット写真はこの曲に不満を持った明菜のふてくされた姿をそのまま撮ったものだという噂があるが、そうであればなんともドラマチックな展開である。


セカンド・ラブ
作詞:来生えつこ 作曲:来生たかお 編曲:萩田光雄
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B面:鏡の中のJ(作詞:三浦徳子 作曲:佐藤健 編曲:萩田光雄)

発売日:1982/11/10
品番:L-1620

サードシングルは再び来生姉弟による楽曲。
前シングルで世間に強烈なインパクトを与え、明菜に注目が集まる中でのニューシングル。
しかしまるでイメージを再度修正するかのような正統派アイドル路線に戻った。
当然のことながら、水面下では騒動が起きていたのは言うまでもない。

前作「少女A」で打ち立てたツッパリ路線が大当たりしたので周囲はその流れに乗りたいと思うのが当然だ。
そこで候補にあがったのは売野氏作詞による「キャンセル!(アルバム バリエーション収録)」である。
少女Aの流れを汲むといえば個人的には「少しだけスキャンダル」「ヨコハマA・KU・MA」あたりもそうだと思っている。
いずれも売野氏作品ではないが、明らかに少女Aに寄せた攻めたタイトルで明菜が嫌いそうな雰囲気が漂う。
イメージ戦略においてシングルだけでは定着するに足りないと感じたのか少女A路線曲が多いことからもスタッフの思惑が見て取れる。
少女Aも当初は反対意見も多かったところ、ごり押しで発売にこぎつけたら当たってしまったので反対する理由はもうないはずだ。
逆にセカンド・ラブに反対の声が上がるほどになっていた。

しかし明菜の長期戦略を睨んだ場合、「幅のあるアーティストを目指すべき」という意見が今回は通り、「セカンド・ラブ」に決定したという経緯なのだ。

明菜が喜んだのは言うまでもない。

ジャケットも前2作と比べてずいぶん大人びた雰囲気があり、確実に成長が見て取れる。


1/2の神話
作詞:売野雅勇 作曲:大沢誉志幸 編曲:萩田光雄
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撮影場所と衣装は同じだが別アングルのジャケットが存在した。
タイトル色も違う。
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B面:温り(作詞:井上あづさ 作曲:井上あづさ 編曲:萩田光雄)

発売日:1983/2/23
品番:L-1660

明菜のイメージ戦略の攻防はまだ続く。
前作で正統派アイドル路線を選択したのだから次はツッパリ路線の番でしょ、ということである。
売野氏はどうしても明菜に不良のイメージをつけたいのか、もともとのタイトルは「不良1/2」。
「少女A」よりダイレクトだ。
このままでは明菜の怒り狂う姿も目に浮かぶ。
結局発売直前にNHKからダメ出しを食らい、協議のうえ「不良」というワードは今回ばかりは却下となったようである。
(NHKに言われなければやっていたのか・・・)

売野氏はこういう。

「『1/2の神話』は売野さんの曲ですよね?と言われることはまずありません」

「それはインパクトがないから、つまりタイトルが悪かったんです」

「もし『不良1/2』だったなら、「あんな曲あったよね、あれいいよね」となったはずなんです」

どこまでも懲りないが憎めない男である。

作曲の大澤誉志幸はまだソロデビュー前であったが、後に大ヒットとなった「その気×××(mistake)」や「そして僕は途方に暮れる(日清カップヌードルCM曲)」は大好きな曲で今もレコードを持っている。
(当時はFMからエアチェックして聴いていた)

ジャケットは2種類。
当時はその存在を知らなかった。
オレが持っていたのは写真1枚目のほうだったような気がする。
同時発売だったのかどうかは調べが及んでいない。
ちなみに中古市場ではどちらも入手は難しくなく、特にプレミアもついていないことから単純にバリエーションだったのではと推測している。


トワイライト ー夕暮れ便りー
作詞:来生えつこ 作曲:来生たかお 編曲:萩田光雄
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B面:ドライブ(作詞:堀江淳 作曲:堀江淳 編曲:萩田光雄)

発売日:1983/6/1
品番:L-1661

イメージ戦略の攻防はまだ続いており、売野氏がやらかしたあとの来生姉弟パターン。
オレは初期シングルについては完全に売野派だ。
これもさすが来生コンビなので名曲とはいえ、売野氏の言うようなシングルとしてのインパクトに欠ける地味曲であり、個人的にマイベスト10にも入るほどではない。

しかしイメージがどうであれ、すでにこの時点でトップアイドルとなっていた明菜は何を出しても売れる状態だった。
(とはいえもともとの楽曲のクオリティが高いのはいうまでもない)
すでに明菜は振り幅のあるアイドルを確立しており、普通のアイドルとは一線を画す存在となっていた。
普通のアイドルではないと世間に思われていたのなら、制作側の目論見は現実となったと言える。

B面「ドライブ」の作詞作曲はあのヒット曲「メモリーグラス」の堀江淳だ。


禁区
作詞:売野雅勇 作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣・萩田光雄
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B面:雨のレクイエム(作詞:芹沢類 作曲:玉置浩二 編曲:萩田光雄)

発売日:1983/9/7
品番:L-1662

さて、来生姉弟の次は売野氏の出番である。
ポップなジャケットが印象深い。

タイトル「禁区」について、当時は全く意識していなかったが「禁区」という言葉は本来日本語にはないようだ。
「キンク」という音を聞いてまず誰もが思うのは「禁句」のほうだろう。
「禁句」と「禁区」ではまったく意味が違うだろうが歌詞を追うと確かに「禁句」ではないようだ。
つまりこれは作詞家 売野氏による造語である。
文字を見れば、踏み入ってはならない立ち入り域のようなものを指しそうだというのは日本人であれば誰もが想像できるだろう。

この着想を得た経緯は売野氏のこんなエピソードからだ。

売野氏がまだコピーライターをやっていた頃の話、フォークソンググループ「アリス」の写真集撮影のため中国まで同行していたという。
その際、売野氏には現地の通訳兼付き人がいた。
しかしその通訳がいろいろと口うるさくてうっとうしく思っていた。
アリスがコンサートを行っていた中国「工人体育館」で売野氏はこの通訳をまいてやろうと、勝手に会場の裏口方向へ向かったのだ。
そこでウロウロしていると、突然目の前にドア2枚にでかでかと書かれた「禁区」という扉が現れたのだ。
その時の威圧感と絶対的な権力のようなもののインパクトが非常に強く心に残ったのだという。
そして、いつか誰かの曲で書いてやろうと温めていたらしいのだ。

そういうわけでタイトルは「禁区」としたのだが、どうもタイトルから不穏な空気を感じざるを得ない。
例によって売野氏の詩とくれば、もうすでに明菜が過敏になることは間違いない。
ディレクターは明菜が拒絶反応を起こすことにビビッていたのでこんな会話を売野氏と交わしたらしい。

ディレクター
「売野さん、最終的にはこのタイトルでいいんです。でも今は仮のタイトルをつけてくれませんか?」

売野氏
「仮のタイトルって、たとえばどんなの?」

ディレクター
「めばえ~・・・とか」
「とまどい~・・・とか」

売野氏
「・・・」

売野氏はレコーディング時にタイトルの上に別タイトルの紙を貼り、FAXで送ったらしい。

その後、本当のタイトルを知った時の明菜の反応はどうだったのか、考えるだけで恐ろしい。

B面「雨のレクイエム」はブレイク前の安全地帯 玉置浩二による作曲。


北ウイング
作詞:康珍化 作曲:林哲司 編曲:林哲司
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初回盤は三つ折りジャケットだった。
撮影時の別アングルはとても貴重だ。
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発売が1月1日ということもあり、お年玉プレゼントが企画されていた。
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スタジャン、福袋ともに内容が気になる。

下は約11か月後に発売された別ジャケットバージョン。(両A面特別盤)
B面曲が差し替えられたもので公式にはこれも1枚のシングルとしてカウントしているようだ。
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別ジャケットとは言っても見開きでオリジナルのジャケットもついている。
両A面とは呼ばれているがレコード盤ではA面が「北ウイング」B面が「リ・フ・レ・イ・ン」である。
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裏の歌詞面はスペースに余裕があるためか斜めに配置された。
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北ウイング側ジャケットでの見分け方はB面タイトルを確認すればよい。
品番の位置も左右で入れ替わった。
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B面:涙の形のイヤリング(作詞:康珍化 作曲:林哲司 編曲:林哲司)
特別盤は「リ・フ・レ・イ・ン」(作詞:松井五郎 作曲:松田良 編曲:萩田光雄)
(TBS TV系 水曜スペシャル・ドラマ「恋はミステリー劇場」エンディング・テーマ)

発売日:1984/1/1
※特別盤は1984/12/15

品番:L-1663
※特別盤はL-1667

明菜を不動のトップアイドルとしたのはこの曲と言えるだろう。
のちに明菜の特徴的な歌唱法と言われるようになる「明菜ビブラート」の片鱗を聴くことができる。

「北ウイング」のタイトルは明菜提案によるものであるが、もともとは「ミッドナイトフライト」「夜間飛行」であったというように歌詞を追うと夜間のフライト便であることがわかる。
空港の搭乗口である「北ウイング」をあえてタイトルとしたことでより世界が広がり、想像力が掻き立てらるように思うので、この明菜のセンスには脱帽だ。

なお、本作の大ヒットを受けて同年発売のオリジナルアルバム「POSSIBILITY」には早くも続編曲である「ドラマティック・エアポート -北ウイング PartⅡ-」が収録された。
「北ウイング」では霧の街ロンドンへ夜行便で彼女が彼に逢いに行く際の場面を描いていたが、パートⅡではその彼が戻ってくるので空港まで車で迎えに行くという場面が描かれた。

別ジャケット盤はプロモ盤ではなく、同年12/15に正式に発売された特別盤。
少しの期間をおいての再発は非常に珍しいが、理由はおおかたB面の「リ・フ・レ・イ・ン」がドラマのエンディング曲に採用されたこと、また次期シングルまでにこれまでより間隔があることから繋ぎの意味もあったのではと推測している。
当時は別ジャケット盤の存在を知らなかったが、ある程度売り切った後なので売り上げも少ないせいか希少盤となっている。


サザン・ウインド
作詞:来生えつこ 作曲:玉置浩二 編曲:瀬尾一三
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B面:夢遥か(作詞:庄野真代 作曲:小泉まさみ 編曲:萩田光雄)

発売日:1984/4/11
品番:L-1664

「禁区」のB面で作曲を担当していた玉置浩二がついにA面に昇格。
この前年に「ワインレッドの心」で大ヒットを飛ばした安全地帯の玉置浩二だから勢いがある。
ちょうどこの頃になるとオレは作詞作曲編曲のクレジットを強く意識するようになる。
職業作家でなくミュージシャンによる作品となるとそっちも聴いてみたくなるからだ。

この曲は自分のオーディオ環境に不満をもつきっかけとなったということもあるし、たぶんオレが買った初めての明菜のシングルだろうということでお気に入りの曲。
当時はまだラジカセに外付けしたレコードプレーヤーで聴いていたこともあり、リアルタイムではいい音で聴けずに悔しい思いをした1枚でもある。
明菜をアイドルとして強く意識したのもこの頃であり、ここから憧れの存在となった思い出の曲だ。
曲の種類で言えば聖子の「夏の扉」のような位置づけになるのではないだろうか。


十戒(1984)
作詞:売野雅勇 作曲:高中正義 編曲:高中正義・萩田光雄
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B面:これからNaturally(作詞:SEYMOUR 作曲:三室のぼる 編曲:若草恵)

発売日:1984/7/25
品番:L-1665

もう聞きなれない怪しいタイトルは売野さんだろうという話だ。
「十戒」は聖書の中にある10の戒律から取ったものだろうが「十の約束」とするよりもさすがインパクト重視の売野氏の考えそうな強烈なタイトルだ。
売野氏は作詞の際に明菜との打ち合わせはなかったというが、すでに売野氏の思い描く以上に明菜は歌の世界観を表現できるようになっており、売野氏もさぞご満悦だったのではないだろうか。

この曲は売野氏のツッパリ路線集大成と言われるとおり、これを最後に売野氏から卒業証書をいただいた明菜は、以後よりアーティスティックな路線となっていく。
少し寂しくも感じるが、それも多くのスタッフに育てられた当時のアイドルの成長過程には必要なことなのだろう。

鏡に映った後ろ姿(おしり)が印象的なジャケットだが、オレにはその表情がツッパリを演じることも受け入れたようにも見え、明菜最後のツッパリ顔だと思っている。
ここからジャケットおもて面に発売日が記載されるようになった。
(写真右上部分)


飾りじゃないのよ涙は
作詞:井上陽水 作曲:井上陽水 編曲:萩田光雄
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ジャケットは「北ウイング」以来の三つ折り仕様。
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B面:ムーンライト・レター(作詞:松井五郎 作曲:井上陽水 編曲:萩田光雄)

発売日:1984/11/14
品番:L-1666

ジャケットはオールカラーの三つ折りで紙質も厚めで通常と異なる。
カラーといっても元は白黒の写真に蛍光ペンで色をつけたようでポップな印象を受ける。

それにしても井上陽水っぽさが全開な曲だ。
早々に本人によるセルフカバーがされたため、井上陽水提供曲であるという認知度も高く、当時はよく本人バージョンもFMで流れていた。
この曲は脱アイドルの転換曲ともいわれており、明菜の歌手としての器の大きさを世に知らしめたのはこの曲だろう。

また、これを機に井上陽水を知らない世代にも井上陽水が広く認知され、明菜繋がりで陽水も聴き始めたという人は多かっただろう。
(オレもその口)

オレが初めて買った明菜のアルバムは「BITTER AND SWEET」であるが、このアルバムにはアルバムバージョン(アレンジが少し違う)の「飾りじゃないのよ涙」がA面1曲目に収録された。
この曲も明菜の代表曲のひとつとして挙げるには申し分ないほどの名曲だろう。


ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕
作詞:康珍化 作曲:松岡直也 編曲:松岡直也
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B面:ロンリー・ジャーニー(作詞:EPO 作曲:EPO 編曲:清水信之)

発売日:1985/3/8
品番:L-1668

日本レコード大賞を受賞した明菜一番の代表曲である。
前作「飾りじゃないのよ涙は」でアイドルから脱皮を果たしたともいえる明菜の勢いは止まらない。
ある意味この曲でピークを迎えたととることもできるが、この先も明菜が売れることは約束されているようなものなので、長いピークの中でのピークと表現したほうが正しいだろう。

この曲を作曲したジャズピアニスト松岡直也も同時に脚光を浴びることとなったが、オレはこれをきっかけに松岡直也にもハマり、同時にフュージョンというカテゴリへとのめり込むこむきっかけとなった思い出の曲だ。
(スクエア、カシオペア、マルタなども聴くようになった)
松岡氏の得意とするラテンフュージョンのテイストが色濃く、明るく軽快なリズムは未だに色褪せることがない。

また、タイトルと詞が異なる「赤い鳥逃げた」がこの2か月後に12インチシングルとして発売されたが、その詞こそ当初採用されるはずだった詞だったのである。
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参考:12インチシングル「赤い鳥逃げた/BABYLON」
※ジャケットは2パターンあった

当時はなぜ同じ曲で詞だけ異なるものが売り出されたのかオレにはかなり謎だった。
この理由は、当初「赤い鳥逃げた」の詞が暗く後ろ向きだったのでもっと明るい感じにしてくれないかということで急遽作詞の康氏が書き直したからなのだ。

明菜ファンの間では「ミ・アモーレ」より「赤い鳥逃げた」の方が好きだという声も多い。
有名になりすぎた「ミ・アモーレ」は広く老若男女に認知されたいたが、さすがにファンでない限り異詞同曲の「赤い鳥逃げた」まではそうそう聴かない。
どちらかと言えば「赤い鳥逃げた」の方が好きだと言った方が明菜通っぽくて優越感に浸れるのだ。
オレもこの12インチのロングミックスのほうがお気に入りで、音質もよかったことで今でもオーディオチェック用の曲としてよく聴いている。

同時期発売のオリジナルアルバム「D404ME」には「ミ・アモーレ」のラテンロングミックス版が収録されたが、これは「赤い鳥逃げた」にも匹敵するいいミックスだ。

タイトルには「Meu amor é・・・」と副題に読みの原型となった言語とセットになっている。
これは歌詞の舞台となるブラジルの公用語のポルトガル語らしいが、これは「ミ・アモーレ」とは読めない。
直訳すると「私の愛は」とか「私の愛するものは」となり、言葉としても不完全らしい。
日本語タイトル通りでは、スペイン語「・アモール」とイタリア語「ミオ・アモーレ」をくっつけなければならず、一種の造語と捉えなければならない。
これについては多く議論されており、作詞の康氏が叩かれた経緯もあるようだが、オレは造語でもいいではないかと思う。
幸いのところ歌詞には「アモーレ」しか使用しておらず、「ミ・アモーレ」は最後のコーラスでわずかに聴けるのみである。
ちなみにジャケットには「MI・AMORE」とだけクレジットされているかなりタイトルに混迷をきわめる曲となった。
また、他ベスト盤でもたびたび目にするジャケット写真は篠山紀信の撮影によるもの。


SAND BEIGE-砂漠へ-
作詞:許瑛子 作曲:都志見隆 編曲:井上鑑
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B面:椿姫ジュリアーナ(作詞:松本一起 作曲:佐藤隆 編曲:井上鑑)

発売日:1985/6/19
品番:L-1669

ジャケットの紙質は上質な厚い和紙のようなもの。
こんなちょっとした変化が当時は嬉しかったものだ。
このジャケット写真の風合いはややエンボス加工されたようなこの紙質でより雰囲気がでているのだと今更気づいた。
また、このジャケットは数十年の月日を重ねても折れにくく汚れにくいものだったことも加えておこう。

発売時期はずいぶん異なるが、なぜか聖子の「マラケッシュ」と重ねてしまう。
どちらもオリエンタルな雰囲気をもつ幻想的な曲だからだろう。
これも「北ウイング」「ミ・アモーレ」に続く異国シリーズであるが、明菜のその世界観の表現力はすでに世の知るところとなっていた。

このタイトルも「SAND」が英語、「BEIGE」がフランス語というハイブリッドタイトルのようだ。
また、歌詞中で印象的な「アナ アーウィズ アローホ NILE」という部分はアラビア語のエジプト方言とのことで、「私はナイルへ行きたい」という意味、「焼けつく砂丘に 窓からマァッサラーマ」は「焼けつく砂丘に 窓からさようなら」という訳になるようだ。
広大なサハラ砂漠の描写が見事であるが、作詞の許瑛子はこれを写真集やガイドブックを参考に書き上げたというのだから大したものだ。
そういえば松本隆も異国をテーマにした詩をいくつか書いているが「行ったことがないけど」というものもわりとあったようだ。


SOLITUDE
作詞:湯川れい子 作曲:タケカワユキヒデ 編曲:中村哲
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B面:AGAIN(作詞:あらい舞 作曲:あらい舞 編曲:中村哲)

発売日:1985/10/9
品番:L-1670

おとなし目の曲が好きでないオレではあるが、この曲はとても好きだ。
とはいってもバラードというわけでもないミディアムテンポのポップス。
ゴダイゴのタケカワユキヒデの作曲であるが、なるほどそれっぽいと思ったものだ。
都会的なメロディに合わせるかのような抑えた明菜のボーカルは秀逸だ。


B面「AGAIN」も同系統であるがこれもまたいい。
明菜の場合B面曲はクローズアップされることはあまりないが、聖子と比べるとやや物足りなさを感じるのも事実だ。
とはいえ、元はA面候補の曲だったがB面に回された曲も多く、クオリティが高いのは間違いない。


DESIRE-情熱-
作詞:阿木燿子 作曲:鈴木キサブロー 編曲:椎名和夫
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B面:LA BOHÈME(作詞:湯川れい子 作曲:都志見隆 編曲:椎名和夫)

発売日:1986/2/3
品番:L-1750

タイトルは当初「DESIRE」、その後副題が追加されて「DESIRE-情熱-」になったようだ。
当時は全く気付いてなかったが、確かに再プレス盤では「-情熱-」が追加されている。
公式では「DESIRE-情熱-」が定着していることからプレスの途中でひっそりと副題が追加された可能性が高い。
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左上:初回プレスの歌詞カード、右下:再プレスの歌詞カード

中古市場では後発の副題付きのほうが流通が少ないように思われる。
また、当時のパイオニアミニコンポ「プライベートCD」のタイアップクレジットも追加されており、いかにCMの影響力が大きかったことも計り知ることができる。
確かにプライベートのCMは強烈に印象に残っている。

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この、「可能な限り大音量でお聴き下さい。」という注意書きの意味を当時はとことん考えたものだ。
要はミキシング時のモニター音量に起因するもので、ある程度の音量で聴かないと全体のバランスが取れないということ。
ミキシングエンジニアが聴いた音と同等以上の音量でないと
迫力が伝わらないということだろう。
聖子のSACDにもあった注意事項と同様の意味だ。

レコードから奏でられるそのサウンドは強烈なバックの演奏と明菜節が効いたもので、自身のオーディオシステムのチェックにはもってこいの音だ。

ジャケットは普通に和服かつそれに合わせた髪型であるが、歌番組では着物をモチーフにした奇抜な衣装とボブのウィッグをつけて大きな話題となった。

当初はB面の「LA BOHÈME」がA面となる予定だったが明菜の要望で入れ替え。
A面候補というだけのことはあり、オレの大好きな明菜ロックとしてもっとも聴いたシングルB面曲となった。


ジプシー・クイーン
作詞:松本一起 作曲:国安わたる 編曲:小林信吾
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B面:最後のカルメン(作詞:麻生圭子 作曲:都志見隆 編曲:椎名和夫)

発売日:1986/5/26
品番:L-1751

このシングルからバーコードが印刷されるようになる。
ジャケット下端には折り返しがあり、この部分にバーコードが印刷された。
この部分を伸ばすか裏返すことでバーコードがないすっきりとしたジャケットになる仕組み。

これは明菜が中学時代に透明の下敷きに好きなタレントの切り抜き等を挟んで使っていた経験から、余計な文字はジャケットデザインを台無しにするとしてバーコードを嫌った明菜の発案であり、以降のシングルも同様の仕様となる。
これはオレも小学生の頃に同じことをやっていたのですごくわかる。
オレは姉が買った明星や平凡等のアイドル雑誌からの切り抜きをびっしり入れていたことを思い出した。
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明菜はデビューまもなくから自らの意見をしっかり言い、後には衣装や振り付けなど自らアイデアをだして自己プロデュースしていたことは当時から知っていたが、まさかこんな部分まで注文をつけていたとはファン思いだったのだなと感動した。
明菜に惹きつけられるのは周りにやらされるだけのただのアイドルではなく、自ら動いて模索する力を早くからもっていたからということもあるだろう。


B面「最後のカルメン」はタイトル通りカルメンチックな曲であるが、そういった異国音楽のテイストを取り入れた楽曲をやらせたら明菜ほど様になるアーティストはいないだろう。


Fin
作詞:松本一起 作曲:佐藤健 編曲:佐藤準
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B面:危ないMON AMOUR(作詞:許瑛子 作曲:鈴木キサブロー 編曲:椎名和夫)

発売日:1986/9/25
品番:L-1752

タイトルから連想される通りの洗練されたサウンドが心地いい曲。
フランス映画の最後にでる「Fin」はフランス語では「ファン」と発音するらしいが、ここでは英語発音である「フィン」と発音するのが一般的となっている。
ジャケットは明菜初のオールモノクロ写真を採用した。
※「飾りじゃないのよ涙は」では明菜のみモノクロで衣装と背景はカラーだった
この頃はすでにアイドルらしからぬ雰囲気を醸し出していたが、振り幅が広いのが明菜の持ち味でもある。

このシングルはA/B面共に同年発売のオリジナルアルバム「不思議」の収録候補だったらしい。
異常なエフェクトがかかった「不思議」に収録されなくて幸いだと思いつつも、不思議バージョンではどうなったのかというのも興味深い。


ノンフィクション エクスタシー
作詞:さかたかずこ 作曲:さかたかずこ 編曲:椎名和夫
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もともと公式発売はカセットのみだったがプロモ盤ではレコード化されていた。
一般発売ではないためジャケットの折り返し(バーコード部分)がない。
「SINGLE CASSETTE」の記載もそのままだ。
しかもこのジャケットの裏面は何も印刷されておらず真っ白なのだ。
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A面:カセットはノンフィクションエクスタシーのカラオケも収録
B面:カセットは前作シングル「Fin」からA/B面のカラオケ
※プロモ盤B面はノンフィクション エクスタシーのカラオケ
発売日:1986/11/10
品番:LKC-2008
※プロモ盤はLS-1056


アルバム「不思議」がアルバムの問題作なら、個人的にはこれが明菜シングルの問題作と捉えている。
明菜自体を架空のアーティストという設定で販売形態までもがカセットのみの発売。
アイドルがカセットのみのシングル発売なんてことは当時は異常事態である。
(まぁKYON2もやっていたが)
当時は「カセットかよっ!演歌かっ!」とがっかりした記憶がある。
(当時のオーディオ小僧にはカセット=演歌というイメージが強かった、実際は演歌でもレコードを出していた)
とはいえ、カセットにはカセットならではの利点もある。
それは記録時間にレコードほどの制限がないことだ。
結果このシングルカセットは全4曲が収録された少しお得な仕様となった。

ただし、プロモ盤としては同一ジャケットを使用したシングルレコードも存在した。
ここだけカセットだと気持ち悪いということでこのプロモ盤を求めるコアなファンは多い。

このカセットのみの発売の意味については、当時の事情を知れば自ずと見えてくる。
まず、この前後のシングルを見れば、曲調・ジャケット写真の雰囲気が明らかに違うことがわかる。
つまり中森明菜自体を企画化したものなのだ。
本来の明菜はクールなアイドルであるが、ここでの明菜は60~70年代のシャンソン歌手のような設定。
ジャケットではレトロチックなマイクに派手な衣装、明菜の表情もおどけている。
曲調は懐かしさも感じるがビッグバンドを彷彿とさせるゴージャスな演奏でとても洗練されている。
カセットのみの発売としたのは、おそらくは演歌チックな売り方でその古臭い雰囲気を出したかったのだと思っている。
当時は仕方なしにカセットを購入したが、オレはこの曲は好きではなかった。
今ではコレクターアイテムとしての価値を見出してはいるが、やはり普通の明菜のほうが好きなのだ。
2021年に復刻されるシングルボックスでは、なんとこのカセットがそのまま復刻される。
さらには正式に7インチレコード化もされるのでこれはすごいことだ。


TANGO NOIR
作詞:冬杜花代子 作曲:都志見隆 編曲:中村哲
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B面:MILONGUITA(作詞:大津あきら 作曲:林哲司 編曲:中村哲)

発売日:1987/2/4
品番:L-1753

再びいつもの明菜が戻ってきた。
2度目となるモノクロジャケットがかっこいい。
今回は歌謡曲にタンゴのエッセンスを散りばめた、異国シリーズのひとつと言える。
タンゴ調とはいえ、スピード感溢れるロックアレンジでサビの明菜ビブラートも心地いい。
レコーディングはわずか28分で終了したというが、この時間なら歌ってもせいぜい2,3回ではないだろうか?
(だとすると少女Aはもっとレコーディングが短かったのか!?)
いかに明菜が曲を自分のものにする能力に長けていたのかという裏話だ。
これと同じことができたアイドルは聖子くらいだろう。

B面「MILONGUITA」も同様の曲調としてとても印象深いシングルだった。


BLONDE
作詞:Biddu-Winston Sela(日本語詞:麻生圭子)作曲:Biddu-Winston Sela 編曲:中村哲

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B面:清教徒(アーミッシュ)(作詞:秋元康 作曲:久保田利伸 編曲:武部聡志)

発売日:1987/6/3
品番:L-1754

セクシーなジャケットが印象的な明菜シングルでも人気の高い曲。
これは全英語詞アルバム「Cross My Palm」に収録の「The Look That Kills」の日本語バージョンだ。
アルバム「Cross My Palm」は全てが外国人作家による作詞作曲であったことから、当初は洋楽のカバー集だと勘違いしていたが実は明菜のオリジナルだ。
このアルバムは海外盤としても正式に発売されており、実質明菜の海外進出とみることもできる。
「BLONDE」は原曲「The Look That Kills」に対し、だいたんなアレンジが施されており、初めて「The Look That Kills」を聴いた時は気づかなかったほど。
(実際はBLONDEが先に発売された)
つまり自分の英語曲をセルフカバーした日本語曲が先に発売されていたということなのだ。

まぁオレが勘違いしたのも無理はない、洋楽カバーといえばは80年代は本当に多かった。
有名なところでは「ホワット ア フィーリング」「ヒーロー」「今夜はANGEL」など、大映テレビによるドラマの力が大きい。
そこから洋楽へ関心をもったり、カバーしたアーティストを聴き始めるというパターンも多かったのだ。
これらはカバーとは思えない大胆なアレンジを施したものから、原曲の世界観を壊すことなくうまくアレンジしたものと多彩だった。
「BLONDE」もそうであるが、この頃初めて日本人によるアレンジのクオリティの高さに気づかされたのだ。

B面の清教徒(アーミッシュ)は久保田利伸が作曲。
なるほど久保田らしいスピード感あふれるサウンドだ。


難破船
作詞:加藤登紀子 作曲:加藤登紀子 編曲:若草恵
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B面:恋路(作詞:来生えつこ 作曲:林哲司 編曲:萩田光雄)

発売日:1987/9/30
品番:L-1755

もともとは加藤登紀子が歌っていたものを明菜がカバーしたもので、実質的に明菜初のカバーシングルとなった。
(オレはあくまで加藤登紀子からの楽曲提供であって明菜が最初に歌ったものだと最初は思っていた)

しかしカバーしたいきさつは加藤登紀子からの要望であったようで、一流アーティストから声がかかるとは改めて明菜のすごさを思い知ることとなったエピソードである。
加藤登紀子の歌唱を聴いたのは明菜版の後だったので、オレの中ではいまだに明菜版がオリジナルに見えてしまう。
(つまり明菜版のほうが好きということだ)
「難破船」は明菜の名曲のひとつとしてよく挙がるが、とはいえオレはこういうスローテンポな曲は苦手なので当時はそれほど聴かなかった。
今となっては好き嫌いだけで済まされないほどのクオリティであることを認識している。
オレのように現代の曲に魅力を感じることが少ないと思う者にとっては、昔聴いていなかった曲を引っ張り出して聴いたほうがよほど有意義なのだ。

そういえば、オリジナルとカバーどちらがいいかという関連で先日こんなことがあった。

CDは持っているが井上陽水の「Make-up Shadow」が聴きたくなって、手っ取り早くYouTubeで検索したところ、ヨルシカがカバーしたものもあったのだ。
コメント欄を見ていると、おそらくは10代の投稿者が父親の車でヨルシカ版を聴いていたところ、父親に「これはオリジナル版の方がもっといい」と言われ、頭にきて陽水版を聴いたら感動してしまったというものだった。
確かに若い世代からすれば原曲を知らずに初めて聴いたのがカバーだったということは多いだろう。
洋楽のカバーにしてもしかりだ。
オリジナルを知る者にとっては、オリジナルを知らない者がカバー曲をほめちぎるのはやや複雑な心境だろう。
カバーなのに聴き手がこれがオリジナルと勘違いしていればなおさらたちが悪い。
もちろんカバーしている当人たちはオリジナルを十分尊重した上でのカバーなので、あくまで外野で言い争っているだけなのだが、それもそれぞれのアーティストを愛するがゆえだろう。
70~80年代のJ-POPが見直され始めている現代ではこのようなことはすでに頻繁に起こっているのだろう。
この記事を書きながら、オレが明菜の「難破船」のほうが加藤登紀子より好きだといっているのと同じことなのだなとふと思ったのだ。
どちらが好きなのかはそれは個人の自由であるが、カバーであることを知ったならばオリジナルを一度は聴いたほうがよい。
そうすることで音楽の世界の幅が広がり、柔軟な考えを身に着けることができるからだ。


AL-MAUJ
作詞:大津あきら 作曲:佐藤隆 編曲:武部聡志
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明菜唯一のハードジャケットを採用。
裏もデザインされ、歌詞カードは別に添付された。
裏ジャケットがあることでバーコード等の情報は裏側に回した。
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B面:薔薇一夜(作詞:大津あきら 作曲:鈴木キサブロー 編曲:大谷和夫)

発売日:1988/1/27
品番:L-1756

この曲をはじめて聴いたときは「SAND BEIGE」に似た印象をもった。
曲がミディアムテンポで異国シリーズのひとつだからだろう。
ある意味前作「難破船」で明菜は次のステージへと移行したと感じるも、この曲でやはり明菜はいいと思ったものだ。

また、あまり知られていないのは、実はこの曲はカバーであること。

この曲はもともと明菜のシングルのコンペで落選した曲であり、作曲した佐藤隆は自身のアルバム「水の中の太陽(1987年)」で「デラシネ」というタイトルでリリースした。
(当選したのは時期的には「TANGO NOIR」か「BLONDE」になるだろうか)
その後、採用が決定したため、実質佐藤隆の曲を明菜がカバーしたということになるのだ。
こういう経緯があるため、佐藤隆が歌唱した「デラシネ」は男性目線での歌詞に変更されており、「AL-MAUJ」は女性目線のため、歌詞の内容はほぼ同じであるが比べるととても面白い。
佐藤隆の「デラシネ」はアレンジがよりロックテイストで歌唱もややラウド系でワイルド。
こちらも一聴の価値ある名曲だ。

ジャケットは明菜初のハードジャケット(LPジャケットのような形状)を採用。
このタイプはキョンキョンのシングルではよく見たやつだ。
ハードジャケットの利点としてはジャケット自体が丈夫でレコードがより保護できること。
また、LPのように裏ジャケットもあるのが嬉しい。


TATOO
作詞:森由里子 作曲:関根安里 編曲:EUROX
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裏面がまたいい。
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B面:小悪魔(ル・プアゾン)(作詞:麻生圭子 作曲:西村麻聡 編曲:三宅純)

発売日:1988/5/18
品番:L-1757

個人的には「ノンフィクションエクスタシー」と共通しているような印象をもった曲。
インパクトがあり、明菜を代表する曲のひとつとして挙がることも多いがオレはあまり好きではない。
とはいえ、シングル毎にキャラクターを作り上げる明菜の演出力には毎度脱帽させられる。

このシングルから8cmCDシングルも同時発売されるようになった。
そもそも8cmCDが発売されたのは1988年くらいからで、これ以前のシングルについてはCDは後発ということになる。
(オレも1988年あたりからシングルはレコードからCDに切り替えた)
12cmCDについては1983年頃からほぼレコードと同時発売はされており、CDシングルの規格制定はそのずいぶん後だったことがわかる。
つまりアルバムはCD買えてもシングルはレコードしか買えないという時期がかなりあったということなのだ。

曲は「ノンフィクション エクスタシー」の時のような実験的かつ企画性が高い雰囲気を持ち、こういう時の曲はだいたいいつもの明菜の雰囲気でないのでオレはあまり好きな曲ではなかった。


I MISSED ”THE SHOCK”
作詞:QUMICO FUCCI 作曲:QUMICO FUCCI 編曲:EUROX
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B面:BILITIS(作詞:許瑛子 作曲:吉実明宏 編曲:武部聡志)

発売日:1988/11/1
品番:07L7-4030

イントロがかっこいい明菜ロック。
やはり明菜にはロックが似合うと思わせる1曲。
個人的にはやっと明菜が帰ってきたという感じだ。
とはいえ、以降のシングルではこれほどのロック曲はなくなり、ある意味、明菜ロックの集大成と思う。

タイトル「I MISSED ”THE SHOCK”」は日本語翻訳不可能としており、無理に翻訳しても「私はショックを逃した」となり、確かに意味がよくわからない。

なぜかこのシングルだけジャケットの折り返しがなくなり、確かにごちゃごちゃしているようにみえる。
折り返しのアイデアはすごく気に入っていたので残念。
また、品番の表記方法(写真左上)がこのシングルから変わった。

B面「BILITIS」は当初A面だったのが変更されB面となった。


LIAR
作詞:白峰美津子 作曲:和泉一弥 編曲:西平彰
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B面:Blue On Pink(作詞:三浦徳子 作曲:国安わたる 編曲:若草恵)

発売日:1989/4/25
品番:06L7-4070

明菜としては最後となった貴重なアナログ盤シングル。
(入手が難しいという意味ではない)
とはいっても明菜に限らず、80年代末は軒並みレコードでのリリースが終わりを迎えている。
もちろんこの頃になるとCDも普及が進んでいるのでCDが同時発売されている。

ジャケットの折り返しは復活したが、価格が税込税抜の漢字表記となったため、ジャケットのデザインをやや邪魔してしまっている。
これ以前は「¥700」としており、品番同様ジャケットに溶け込んでいたのでちょっと残念。
しかし、これまでのシングル価格が700円だったのが税込みで659円と安くなった。


Dear Friend
作詞:伊東真由美 作曲:和泉一弥 編曲:和泉一弥 ストリングス・アレンジ:若草恵
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B面:CARIBBEAN(作詞:大西美帆 作曲:和泉一弥 編曲:和泉一弥

発売日:1990/7/17
品番:WPSL-4173

前作から1年と3か月後。
音楽メディアの事情は変わり、90年代に入るとレコードでリリースされる新譜はぐっと少なくなる。
オレの明菜連続シングル購入記録の最後となってしまったシングルでもある。
このシングルよりレコードの発売がなくなり、当時オレはCDシングルを購入した。
その後もカセットの発売だけはしばらく継続されたが、それもCDへの移行が終わっていない人向けという意味合いが強い。
カセットは演歌勢には根強く支持されていることもあり、生産自体は厳しいわけではなかった。
とはいえ、ポップス分野においてはその需要は激減していくわけで、明菜は移籍後の第一弾シングル「Everlasting Love(1993年)」を最後にカセットでのリリースさえもなくなる。

さて、最後に買った明菜シングルとしては十分なクオリティの曲で、なぜこのあと明菜を聴かなくなったのか具体的に覚えていない。
明るく希望がもてるような曲調であるがどこかそれまでの明菜らしくないとも感じた一枚。
しかし、オレにとっては多くの要素が明菜から離れていく要因となったのは間違いない。
それはまずは音楽性の変化だ。
LIARまではとても明菜らしい曲だった。
ワーナー時代末期の活動の鈍りもあるだろう。
新譜のリリースペースが落ちていたのだ。
そしてその後の騒動とブランク。
いつしか明菜を追いかけることをやめてしまったのだ。

B面(カップリング)「CARIBBEAN」は当初シングルA面の候補だけのことはあり、とても爽やかで好きな曲だ。
BESTⅢに収録されたことでも割とよく聴くようになった。


水に挿した花
作詞:只野菜摘 作曲:広谷順子 編曲:西平彰
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B面:Angel Eyes(作詞:松井五郎 作曲:植田知華 編曲:武部聡志 コーラス・アレンジ:中村哲)

発売日:1990/11/6
品番:WPSL-4190

ここからは明菜のシングルは買っていない。
あくまで個人の好みであるが、この曲のようなバラード曲はシングルカットするには弱いと思う。
明菜のワーナー期シングルではもっとも目立たない曲と思っているが、しかしこれが今聴くと悪くない。
オレも歳をとったということか。
いや、逆に当時あまり聴かなかった曲を現代になって聴くことでの新鮮味があるのかもしれない。
明菜に限らないが、昔ファンだったが途中で聴かなくなった後にでた曲は今となってはとても新鮮に感じることはよくある。
現代の明菜のように、活動休止状態であればなおのこと、この機会に空白を埋めて素晴らしさを再認識する時間に使うのもまた一興だ。


二人静 -「天河伝説殺人事件」より-
作詞:松本隆 作曲:関口誠人 編曲:井上鑑
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B面:忘れて・・・(作詞:中森明菜 作曲:羽佐間健二 編曲:小野沢篤)

発売日:1991/3/25
品番:WPSL-4190

ワーナーで最後となったシングル。
当時このシングルは買っていないが、ベスト盤等で収録されたためよく聴いたお気に入りだ。
個人的に明菜の全シングルの中でもベスト10には確実に入る好きな曲だ。
ワーナー最後を飾るにも相応しい最強の曲と思っているが、これはあのC-C-Bのギタリスト関口誠人による作曲だ。
ちなみに関口氏も自身で歌唱している(これがまた渋い)がタイトルは同名映画の「天河伝説殺人事件」で、明菜版はそこに「二人静」がメインタイトル「天河伝説殺人事件」は副題となった。
タイトルにあるとおり映画「天河伝説殺人事件」の主題歌であるが、本編に流れるのは関口バージョン。
明菜バージョンは映画スポットにて使用された。
しかし映画自体は微妙な出来。
(2時間ドラマ枠で放送してもよかったのでは)
作詞は松本隆であるがこの詞はオレ的にはシングル「愛撫」に通じるものがあるような気がした。
単純に小難しく古風であり表現がかっこよすぎるという点が共通していると感じているだけだが明菜向けとしては最適だと思った次第。

B面「忘れて・・・」は明菜による作詞である。


以上がワーナー・パイオニア期(デビュー~移籍まで)の全シングルだ。

改めてこれらのシングルを眺めているとまず物質的な重みを感じる。
たった2曲を聴くためにこつこつと集めたレコード。
今では配信でダウンロードでも十分だろうとも思うが、やはり手に持ち、ジャケットを眺め、歌詞を目で追いながらレコードをかけて聴くという作法も捨てがたい。
何より曲に対する思い入れ、理解度も変わってくることが実感できる。
物理メディアを持つか持たないかだけで聴く音楽は同じではあるけれど、効率性やスペースを犠牲にしてでもあえてレコードで音楽を聴くことに今では喜びすら感じるようになった。
オレは新しいものも好きなので現状は受け入れるが、だからといって古いものは捨てたくない。
なぜならオレにとってレコードの1枚1枚が写真アルバムと同じだからだ。
捨ててもきっといつかまた恋しくなる。

さて、次の新天地MCAビクターからの移籍第一弾シングルは約2年後の「Everlasting Love(1993年)」まで待つことになる。
1993年はすでにCD時代であり、当然レコードでの発売はなかったがアナログ残党としてカセットだけはかろうじてその後しばらく発売されていたが、明菜はこの次のシングルからCDのみの発売となった。
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参考:明菜としては最後のアナログメディアシングルとなった「Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME」のシングルカセット

現代までの明菜の復刻盤の多くはワーナー時代のものが占めており、明菜を語る上で最も重要な時期のものだ。

今年(2021年)はこれらワーナー分のシングルがデビュー40周年記念として全てアナログ盤で復刻される。
その仕様はワーナーミュージックジャパンの公式サイトで紹介されている。
気になる仕様の要点をここでまとめておこう。

・組数30のボックス仕様完全生産限定
内訳は28枚のEP1枚の12インチシングル1巻のカセット30組の完全アナログ構成だ。

明菜の実際の公式シングルは全27枚と先に述べたが組数30では数字が合わないので整理しよう。
まずオリジナルはEPで23枚、カセットで1巻、CDシングルで3枚計27枚と前置きしておく。

28枚のEP
オリジナルのEP23枚はそのままEPとして復刻、カセット発売のみの1巻が初のEP化、
特筆すべきはCDシングルの3枚が今回初のEP化でオリジナル同様の計27枚となる。
残り1枚この記事でも載せた特別盤の「北ウイング/リ・フ・レ・イ・ン」で28枚目となる。
北ウイングのリフレインバージョンをなぜEP化するのか?
最初は2014年のCDのシングルボックスのようにジャケットを追加するだけでいいのではないかと思ったが、理由は単純でEPでは2曲しか収録できないので北ウイングの正規バージョンだけでは「リ・フ・レ・イ・ン」が収録できないからなのだ。
もっとも気になるといえば「ノンフィクション エクスタシー」だ。
これは当時カセット発売のみでプロモ盤でレコードが存在したことは先に述べたが、これが正式にEP化される。
しかもレッドビニールなのでジャケットイメージに合わせた赤色というからたまらない。
全ての音源をカバーするというワーナーの隙のなさには脱帽だ。
となれば、あとは「スローモーション」と「1/2の神話」の別ジャケット、「AL-MAUJ」のハードジャケット等の細かい部分を再現できればいうことはない。
もっとも2014年のボックスではほぼ再現できていたので心配はしていない。
CD発売分の3枚も2014年ボックスでEPサイズで復刻したが、いかんせんもともと横長のジャケットの一部を切り取りEPサイズに拡大したものであり、写真のボケ感が残念だった。
すでに実績がある以上今回も同じ手法をとるものと思われるがさてどうなるか。

1枚の12インチシングル
12インチシングルはこの記事では取り上げていないがミ・アモーレの別歌詞バージョンである「赤い鳥逃げた」である。
当時から12インチシングルとして発売しており、ジャケットは2バージョンあるが2014年のボックスではジャケットのみ別添付という形で再現できていた。
問題は12インチシングルという形であり、これを本当に復刻するのかということ。
なぜならEPサイズの中に12インチサイズがあるとボックスのサイズがどうなるかが一番気になる。
たった1枚のためにボックスを12インチサイズにするのか、これだけ別添付という形をとるのか。
いずれにしても今回の復刻が気になって仕方がない。

1巻のカセット
カセットは「ノンフィクション エクスタシー」のこと。
当時にならってそのままカセットで復刻するということは驚きだ。
正直そこまでやるとは思っていなかった。
しかし、カセットは当時のプラスチックケースやカセット本体形状など、単純に印刷だけで済むレコードとはわけが違う。
どれだけ当時のワーナー・パイオニア製カセットを再現できるのか楽しみだ。


そういうわけで、今回の復刻はオリジナル同様のアナログメディアでも完全にシングルが揃うパーフェクト仕様ということが読み取れる。

おそらく今回のアナログ復刻は「Singles Box 1982-1991」を大いに参考として限りなく近い仕様となるのではと予想している。
DSC01003
参考:シングルス・ボックス 1982-1991(CD)
(これはこれでデジタル音源としてはパーフェクトなセットだった)

オレのように細かい部分を気にかけていなくても今回のボックスはほぼ間違いないだろう。
音がオリジナルと同じではないことを気にしなければ、中古でちまちま集めるよりこのボックスを手に入れた方が手っ取り早い。

・2014年リマスター音源使用
つまり同年に発売された「Singles Box 1982-1991」音源をそのまま使用するということだ。
確かにシングルA/B面全曲となると2014年のものが最新かつ全曲カバーできているので最適だ。
(2012年のSACD復刻時の音源ではB面がカバーできない)
また、これは2016年の全LPボックスセットと同様の注意点となるが、まず音は同じレコードであってもオリジナルとは別物になるということだ。
しかも2014年「Singles Box 1982-1991」でデジタル音源として存在する以上はその劣化盤と捉えることもできる。
あとはオリジナルを知る世代にとっては当時のオリジナルマスターテープを使用しない復刻は非常に微妙であるということ。
(もっともオリジナルマスターはそのまま使用できないだろうが)
現代において復刻盤のリマスター音源使用は避けて通れないが、同じリマスター音源でもCDだけで出す場合と、CDもレコードも出すとでは意味が全く異なる。
しかも「Singles Box 1982-1991」とほぼ同内容であるのだからなおさらだ。
できればCDでの復刻だけで終われば波風も立たなくてよかったとは思うが、今回のアナログ盤での復刻は現代ではかなり意義あることなのもわかる。
これもまた後世に語り継ぐために必要な復刻だと捉えたほうがいいだろう。

なお、この復刻はシングルレコード(A/B面各1曲)であるため、「Singles Box 1982-1991」で収録されたボーナス音源(A/B面カラオケ、ライブ音源)の類は除外される。

さらに一般ファンでは厳しいと思われるのが、全てをちゃんと聴くならばレコードプレーヤーカセットデッキ(またはラジカセ)が必要であるということだ。
本来、明菜の過去音源を全て聴くのならレコード、カセット、DCC、CD、DVDオーディオ、SACDの再生環境が必要である。
全ては無理でもこの機会にレコードプレーヤーとラジカセくらいは揃えるのもいいだろう。
(現状、ハード面でやる気がない日本では機器選定には選ぶほどないという苦労を強いられるが)
とにかく価格、枚数を考えれば聴かずにただ記念として持っているのはもったいない。

発売後はオリジナル、2014年CD復刻、2021オリジナル復刻で聴き比べをするのが楽しみである。
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中森明菜 レコード(オリジナルアルバム)

明菜のLPレコードの歴史を振り返る時、ワーナー・パイオニア所属期間だけを見ればよい。

なぜならワーナー所属時代にリリースしたオリジナルアルバムで明菜のLPレコードが完結するからだ。

のちにレコード会社を移籍するがその頃になるとレコード時代も終わり、CDのみの発売となったのだ。

ワーナー所属時代の最後の方ですでにCD時代に突入していたので後期のLPほど数が少なく希少だ。

さて、明菜のディスコグラフィを見ていて気付くのは、当時松田聖子との2強と呼ばれた割にはベスト盤や企画盤が少ないということだ。

まぁ明菜は当時いろいろあって開店休業のような状態だった時期もあり、またそれが現代においても同じ状況にあるのはファンとしては寂しい限りである。

とにかく明菜のレコードを聴くのならばワーナー時代だけ見ておけばよいというわけだ。

明菜の場合、レコードの終焉(CDの台頭)・活動休止・レコード会社移籍と様々な要因が重なり、そういう意味で多くのファンが離れており、区切りよくワーナー在籍時代こそが明菜である、と認識している人も少なくない。

かくいうオレもワーナー在籍時代、正確にいうと1988年の「Femme Fatale」で明菜を追うのを一旦やめている。

しかしファンをやめたわけではない。

むしろ当時よりも今のほうが好きなくらいだ。

明菜熱が再燃したのは2012年に発売されたSACDのボックス発売がきっかけである。
これはワーナー時代の明菜のオリジナルアルバム15枚と公認ベスト3枚が網羅されたコレクターズアイテムであった。
(初回生産限定のためすでにプレミア付き、レビューはまたの機会で)

SACDの高音質で久々に明菜を聴きたいというだけで購入し、当初はそこで終わるはずだった。
しかし聴き進めていくに従ってワーナー時代のアルバムのすばらしさを再認識したオレは再度LPも集めることにしたわけだ。

一度手放したレコードを買い直すのは悔しいが、中古でしか手に入らないこともあり、安価ですぐにコンプリートすることができた。

聖子と並ぶ最強アイドルである明菜のLPはさすがに中古市場でも数が多い。
少しでも程度のいいものを、と同じアルバムを数枚買い直したものもあったが、オリジナルアルバムは容易に集められた。

さて、今回は明菜のオリジナルLPに着眼しているのでワーナー在籍分だけを見ていくことになる。

しかしアイドル中森明菜を語るうえでこれが骨格部分であるのは間違いない。
(ただしその後のアルバムにも名盤が多いことも忘れてはならない)

以下が明菜のオリジナルアルバムのディスコグラフィだ。

1.プロローグ〈序幕〉 (1982年7月1日)
2.バリエーション〈変奏曲〉 (1982年10月27日)
3.ファンタジー〈幻想曲〉 (1983年3月23日)
4.NEW AKINA エトランゼ (1983年8月10日)
5.BEST AKINA メモワール (1983年12月21日)
6.ANNIVERSARY (1984年5月1日)
7.POSSIBILITY (1984年10月10日)
8.BITTER AND SWEET (1985年4月3日)
9.D404ME (1985年8月10日)
10.不思議 (1986年8月11日)
11.CRIMSON (1986年12月24日)
12.Cross My Palm (1987年8月25日)
13.Stock (1988年3月3日)
14.Femme Fatale (1988年8月3日)
15.CRUISE (1989年7月25日)

DSC_7075

初期3作には帯に明菜のイメージキャラが印刷されている。
デビュー時のキャッチフレーズは、
ちょっとエッチな美新人娘(ミルキーっこ)
だったのでまさにこれを具現化しているということか。
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とはいっても、明菜はすぐに大化けすることになり、このイメージはすぐに覆されることとなる。

「BEST AKINA メモワール」は明菜初のベスト盤だが、デビュー2年目ということもあり正直ベストというには早すぎる。
よってシングルオンリーの構成ではなく、アルバムからの選曲もあり、オリジナルアルバム感覚が強いのであえてここに加えた。

また、これについては初回盤と通常盤が存在した。
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オレが発売と同時にレコードを買ったのは、BITTER AND SWEET~不思議までのわずか3枚。
これ以前のアルバムは当時後追いで購入し、以降はCDに切り替えた。
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なので、この3枚のうち特にビターアンドスウィートにはとても強い思い入れがある。

CRIMSONはレンタルCDでカセットにダビング、クロスマイパームはCDで購入、Stock以降はレンタルだった。
とにかく明菜以外も聴きたいアルバムが多すぎて、金がなかったのでこのようにちぐはぐになっていた。

とにかく不思議以前の10枚は間違いなくレコードの音を聴いていたということだ。

最後のオリジナルアルバムとなったクルーズはとにかく希少である。
DSC_7078

ざっと明菜のオリジナルLPを見てきたが、この15枚は本当に素晴らしい名盤揃いだ。

作家陣を見てもとても現在のアイドルに真似ができるレベルではない。

明菜へ敬意を表して今後もさらに掘り下げていこうと思う。

(あとがき)
聖子に続いて明菜のレコードについて記事にした。
今後はカセット、CDなどメディアを広げ、さらにアルバム毎のレビューをやるつもりだ。
決して埋もれさせてはならない日本が誇るアイドルの軌跡をしっかりと記録していきたい。
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