明菜のヒット曲で誰もが知るシングル曲のほとんどはワーナー・パイオニア期のものだろう。
実際、さまざまなランキングに挙がる曲はワーナー期のものが多い。
しかし明菜の現在に至るまでのキャリアを考えればそのワーナー期も一部にすぎない。
本当の明菜を理解するためにはワーナー期以外にもしっかりと目を向けたいところだ。
そこで今回はそのワーナー・パイオニアの次の移籍先であるMCAビクター期のシングルについて見ていく。
MCAビクターはメジャーレーベルに比べれば聞きなれない名だが、その名の通りビクター系のレコード会社となる。
(日本ビクターが出資しているが本家とはまた別)
ここら辺の経緯は買収や統合を繰り返している業界だけに非常に複雑。
ざっくりでも知っておいたほうがよさそうなのでざっくりまとめてみる。
MCAはミュージック・コーポレーション・オブ・アメリカの略でアメリカのレコード会社。
そのMCAレコードの日本での販売を日本ビクターが担っていた。
その後松下電器産業がMCAを買収したことで、松下とビクターの共同出資会社として誕生したのがMCAビクターというわけだ。
さらにその後、松下がシーグラムへ売却し、その売却先が社名をユニバーサルミュージックに変更したため、かつてのMCAビクターは完全に現代のユニバーサルミュージックの傘下に入ったということになる。
よって明菜のMCAビクター期の復刻盤を出す権利はユニバーサルミュージックにあるのだ。
明菜のレコード会社の変遷は以下の通り。
1.ワーナー・パイオニア
2.MCAビクター
3.ガウスエンターテイメント
4.@ease
5.ユニバーサルミュージック
今回は2の時期にリリースされたシングル分が対象となる。
先述したように2021年現在では2・4・5が統合やらでユニバーサルが権利を持っているため、1・3以外ユニバーサルが新たにリマスター盤等をリリースすることができるということになる。
実際、すでにユニバーサルは2と5の時期にリリースされたCDシングルを合わせて、初レコード化による再発※をやっている。
※全世界999セット限定 アナログセット(2016年)を指す
そんな経緯がある当時のMCAビクター期のCDシングルだが、オレはかなり重要な時期であると考える。
ワーナーから移籍後、MCAビクターから第一弾シングルが出るまでは前作から約2年のブランクがあった。
とはいえ、明菜が不動の人気を誇ったワーナー期の勢いはまだ衰えてはいない。
つまりワーナー期からの明菜人気にあやかり、かつての明菜っぽさもまだ残っていたからだ。
そしてワーナー期とまではいかなくても多くに知られない名曲が数多く存在するのも事実だ。
しかし、ワーナー期をひと区切りとして一定数のファンが明菜から離れていったことも事実。
明菜に限らず、アイドルの世界というのはそういうものだ。
アイドルの性質上、活動空白期間はファン離れが加速する。
(かくいうオレもその一人であった)
今となっては新譜を買わなくともせめて明菜の動向だけは注視すべきだったと後悔している。
リアルタイムで聴くのと後追いで聴くのとでは印象が異なるからだ。
実際惜しいと思うほどMCAビクター期の楽曲も素晴らしいものだった。
その時代時代の音楽は世相を反映する鏡でもあり、曲を本当に理解するにはその時代背景を体感しつつ聴くことは重要なのだ。
今では全期の明菜の楽曲を把握していると自負するオレであるが、その上で俯瞰してみてもやはりMCAビクター期の楽曲が素晴らしかったということが見えてくる。
それでは細かく見ていこう。
明菜のMCAビクター期のシングルは約5年間(1993~1997年)で全8枚、すべて8cmシングルCDで発売された。
(Everlasting Loveのみカセット発売も有り)
時代はすでにレコードが終焉し、CD時代となった頃である。
当然のことながら全て初期CDシングルの縦長パッケージである。
しかし、すべて縦長ジャケットデザインなのでCDシングル熟成期であることがわかる。
シングルディスコグラフィ(リリース順)
1.Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
2.片思い/愛撫
3.夜のどこかで~night shift~
4.月華
5.原始、女は太陽だった
6.Tokyo Rose
7.MOONLIGHT SHADOW -月に吠えろ
8.APPETITE
ラインナップを見ると明菜の全期を知っていれば名曲だらけだとわかるはずだ。
1と2についてはジャケットの記載通り2曲のタイトルを入れている。
これは両A面という意味である。
両A面とは
そもそもレコード世代でなければA面B面の概念を理解できないと思う。
レコードは表A面、裏B面としてどちらがメイン曲なのかを区別する。
基本的にA面がメイン曲でB面はおまけ曲という解釈でも問題ない。
たとえばB面曲がゆうせん放送等でヒットするなどしてA面として再び発売し直すことはかつてはよくあった。
その結果両A面扱いとなったシングルは実質B面がないのだ。
(物理的にはあるが)
よって両A面という考えはレコードの時代に生まれたものである。
CD時代になるとCDにはそもそもA面B面などないので、通常は1曲目がA面で2曲目がB面扱いという捉え方となる。
CDシングルではレコードB面にあたる曲はジャケットの隅に小さくC/W(カップリング・ウィズ)としてメイン曲より小さく曲名を記載するのでここでも確認できる。
CDシングルはA面曲、B面曲、両A面曲かの区別はジャケットのタイトル記載方法や曲順によりそれを判断するということだ。
従って、
1.Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
2.片思い/愛撫
はC/W(B面)扱いの曲がないので両A面シングルということになる。
つまりどちらもメイン曲。
個人的には作詞・作曲家の力関係とかもあるんだろうと思っている。
作り手の思いや大人の事情も絡む、どちらを立てるというわけでもない「両A面」も現代ではあまり聞くことがなくなった言葉である。
CDシングルはオリジナルのカラオケが入っていることもレコードでできなかった強みと言える。
(それまではカラオケ収録はカセットテープのみの特権であった)
これらのシングルでなければカラオケは聴けないことがほとんどなので、CDならあえてシングル盤も所有する意義は大きい。
サブスク世代はサブスクだけでは聴けない音源もあることを認識しておく必要がある。
それでは各シングルを細かく見ていこう。
Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
発売日:1993/5/21
品番:MVDD-10001
C/W:両A面
1曲目は「Everlasting Love」。
ミュージシャンの大貫妙子による作詞、坂本龍一の作曲と豪華な顔ぶれ。
バラード調の美しい曲で坂本龍一が作曲だがさすが教授、幅の広さを感じる。
個人的にはバラードを好まないので移籍後第一弾シングルの1曲目がバラードなのは弱いかなと思っている。
反面、明菜の次なるステージの予感も感じさせるものとなった。
2曲目が「NOT CRAZY TO ME」。
ミディアムテンポのダンスミュージックだ。
作詞はNOKKO(レベッカ)でこちらも作曲は坂本龍一。
この時すでに惜しまれつつもレベッカを解散していたNOKKOだが、その勢いのままソロ活動でも目覚しく活躍していた。
レベッカ時代の楽曲の大半をNOKKOが作詞していたが、彼女の成長と余裕を感じさせる大人の詞といったところだ。
両A面とはいえ、本来のA面があるとすれば断然オレはこっちを推す。
明菜節も多少聴けるしメロディも洗練されていてかっこいい。
ちなみにこの曲は同年発売のオリジナルアルバム「UNBALANCE+BALANCE」の先行シングル扱いだ。
先行シングル扱いと言っているのは、アルバムがこの4か月後に発売されたからだ。
期間が空きすぎているところを見ると、アルバム曲の頭数合わせにこれを収録したのではと勘繰っている。
なぜなら「UNBALANCE+BALANCE」は「NOT CRAZY TO ME」がなければ全8曲しかないからだ。
同アルバムにはアレンジが異なるLP Editが収録されたが、明菜本人も言う通りシングルバージョンとの違いが微妙すぎる。
個人的にはシングルCDでカラオケが聴けるのは嬉しいところ。
BGMとして流していても違和感がない気持ちよさがある。
なお、本作が明菜最後のアナログリリースがあったシングルであり、カセットでも発売されたので一緒に載せておこう。
Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME(カセット)
発売日:1993/5/21
品番:MVSD-10001
カセットなのでCDと全く同じ曲構成だ。
明菜最後のシングルレコード発売となったのはLIARだ。
以降、ワーナーからは3作がシングルをカセットで発売。
そしてこのカセットを最後に明菜のアナログ時代は終わったのである。
そういう歴史的に重要な意味を持つのがこのシングルカセットなのだ。
ポップス分野においてカセットというメディアは当時それほど重要視されてはいなかった。
(カセットが必須なのは演歌だった)
聖子は1995年までカセットを発売したが、どこで見切りをつけるかはレコード会社の方針によりけりだったのだ。
片想い/愛撫
発売日:1994/3/24
品番:MVDD-10004
C/W:両A面
2作続けての両A面シングル。
それだけシングルカットしたい候補曲が多かったともとれる。
1曲目は「片想い」。
普通に考えれば1曲目がA面扱いなのだろうと思うと、前作同様1曲目にバラードを持ってきているのが興味深い。
しかもこれはオリジナル曲でなくカバーである。
ではなぜカバー曲をシングルにしたのか、理由は簡単だ。
これは今ではお馴染みとなった明菜のカバーアルバムである歌姫シリーズ第一弾からのシングルカットという意味であり、プロモーションの一環だからだ。
(アルバム、シングル共に同日発売)
ちなみにアルバム「歌姫」に収録された「片想い」はアルバムバージョンで多少アレンジが異なる。
思えば明菜のカバーシリーズはここから始まったわけだ。
オリジナルは槇みちるのシングル「鈴の音がきこえる」(1969年)のB面からとのことだが全く知らない歌手だった。
(その後中尾ミエがカバーしたことで有名になったらしい)
さて、カバー曲については当世代・別世代の間でよく論争が巻き起こるものだ。
オリジナルを知るものにしてみればオリジナルがいいという意見が多く、カバーを受け入れない。
別世代がカバーがいいと言えばオリジナルを聴いたのか?と当世代が目くじらを立てる。
こんな世代違いのバトルをYoutubeのコメント欄でたまにみかける。
「片想い」についてはオレは明菜により初めて知った曲であり、別世代ということになる。
カバーと知ってオリジナルを聴くきっかけにもなり、自らの音楽の幅が広がることは単純に楽しい。
そもそもカバーしたアーティストはオリジナルを超えるつもりでカバーしているわけではない。
自分が好きだからカバーするわけであり、そこにはまずトリビュートの精神があるわけだ。
にもかかわらず、それを外野の我々がどっちがいいだの言い争うのは非常に滑稽だ。
我々聴き手はカバーのおかげで過去の名曲を聴くきっかけを得ているのだ。
カバーが好きなら大いに結構。
ただし、オリジナルをトリビュートする気持ちは聴き手であるものも絶対に忘れてはならないと思うのだ。
裏面は同日発売のカバーアルバム「歌姫」の裏ジャケットと同様、着物を着た明菜が鮮やか。
そして2曲目が「愛撫」。
作詞は明菜ではとても珍しい松本隆。
歌詞を聴かないオレでも歌詞カードを読み返したほどの秀逸な詞。
詞がかっこいいと初めて思った曲だ。
イントロから数秒聴けば小室哲哉の曲だとすぐにわかる。
小室と明菜は合わないという声もあるが、クセのある小室の曲を自分のものにしているのはさすがとしか言えない。
これはオリジナルアルバム「UNBALANCE+BALANCE」からの第二弾シングルでもある。
このアルバムの中では最も人気が高いであろう「愛撫」はもともと移籍後第一弾シングルの候補曲だったというエピソードからもここで陽の目を見たのも納得だ。
打ち込みの音があまり好きでない明菜はレコーディング時、せめて低音を効かせてくれと注文したらしいが、その通り低音が力強いサウンドで、平面的な音場でオーディオ的に退屈になりがちな打ち込み曲には効果的かもしれない。
明菜のマイシングルベスト10に入るほど好きな曲。
カラオケも必聴だ。
夜のどこかで~night shift~
発売日:1994/9/2
品番:MVDD-10007
C/W:Rose Bud
ジャケットでまず目を引くのがテレビに映った櫻井よしこ。
これは当時の日テレ深夜ニュース番組「きょうの出来事」のエンディングテーマに使用されたためだ。
(櫻井さんが好きでよく見ていた)
明菜も夜のニュース番組のテーマ曲をどう歌えばいいのか悩んだらしい。
その結果がファルセットということになるのか。
言われてみれば終始ファルセットで歌唱しているようでもある。
しかし、明菜はファルセットをそう思わせないほど普通に使うので、もうこれも地声だといってもいいのでは。
「警部補 古畑任三郎」の記念すべき1stシーズン第一話のゲスト主演は明菜だったが、ここでの明菜の役はコミック作家 小石川ちなみ(ちなみは漫画家と言うと怒る)で全てのセリフがファルセットだった。
そういうことができるのが明菜なのだ。
「素顔のままで」では完全地声の明菜が見られるので比較すると面白い。
こんな驚くべきことを普通にやってのける役者もそういない。
(のだめカンタービレの上野樹里の声もすごいが・・・)
「夜のどこかで~night shift~」はニュース番組というよりも、むしろサスペンス系のドラマに合いそうな雰囲気。
シングル「二人静」や「帰省」が好きな人なららこの曲もきっと気に入るだろう。
前から思っていたのが明菜はこの雰囲気の曲が割と多いので、いつか「サスペンスドラマに使われそうな曲ベスト」でも作ってみたい。
共通するのはスロー~ミディアムテンポなのにどこかかっこいい部分があるということだ。
作曲したのは後藤次利。
やはり天才作曲家だが明るい曲を作る人のイメージだったので少々驚いた。
ミディアムテンポであるが、ストリングスとエレキギターで音に深みを持たせた傑作だ。
裏面はカップリング曲側のイメージで撮影されているようだ。
カップリング「Rose Bud」もフジテレビトーク番組「新伍&伸介のあぶない話」のエンディングテーマでこのシングルは完全タイアップ曲構成ということになる。
(この番組は見た記憶がない)
明菜の多くの曲のなかでも目立たない部類に入るだろうが、アップテンポでメロディも抜群にいい。
明菜ビブラートも聴けるので本領発揮の明菜らしさが感じられる曲だ。
自分でB面ベストを作るなら確実に入れたくなる良曲だ。
月華
発売日:1994/10/5
品番:MVDD-10009
C/W:BLUE LACE
「月華」は前作から2か月連続の第二弾シングル。
タイトル通り和風テイストなアレンジがアクセントのミディアムテンポなバラード曲。
明菜は全体に地声で歌えるキーなのは久しぶり、とコメントしているがどんだけファルセット使ってたんだということだ。
これも「二人静」「帰省」系だと勝手に分類しているが、明菜のこの系統の曲は本当に好きだ。
明菜の憂いのあるボーカルがおそらくこのような曲を呼び寄せるのだろうし、実際ぴったりだ。
クセになる泣きメロとでもいうのか、やっぱりこの系統のベストは作ってみたい。
DESIREを思わせる奇抜なファッションの裏ジャケット。
カップリング「BLUE LACE」はアコースティックな響きが美しいバラード調。
オーディオチェック用に使いたくなるような好録音だが、アルバム「UNBALANCE+BALANCE+6」のボーナス曲として収録のリマスター音源のほうがより重厚な音だ。
バラード嫌いなオレだが、なぜか明菜のバラードは好きなものが多い。
(聖子も好きなバラード曲はたくさんあるが、あまりに近年量産しているのでちょっと食傷気味なところがある)
原始、女は太陽だった
発売日:1995/6/21
品番:MVDD-10014
C/W:綺麗
「原始、女は太陽だった」はラテンの雰囲気を纏うアップテンポ曲。
それにしてもインパクトのあるタイトルだ。
ラテン系と言えば「ミ・アモーレ」を思い出すが、あそこまでラテンではなく、ほどよく洗練されたラテン系といったところ。
実はこの曲、Aメロ・Bメロ部分でボーカルが微妙に多重録音されている。
最初は追っかけエコーかと思ったのだが歌詞とは違う声が入っている部分もある。
(00:49辺りがわかりやすい)
カラオケで確認したがコーラスはサビの部分にしか入っていなかった。
このさりげない小細工が実に気持ちいい。
現代の曲はボーカルにエコーをあまりかけないデッドな音が多いので、この曲のボーカルを聴くと不思議な感覚を覚えることだろう。
このようなエフェクトをかけたボーカルは多くないので貴重だ。
オリジナルアルバム「la alteracion」ではアルバムバージョンを聴くことができる。
アルバムバージョンはシングルから大きくアレンジを変更しているわけではない。
ただし、シングルのようなボーカルのエフェクトが変更されていることはわかる。
よって断然オリジナルのシングルバージョンが圧勝で好きだ。
この頃からだろうか、明菜のジャケット写真にアイドル然とした雰囲気がなくなってくる。
ピントをぼかすとか、顔を一部しか写さないとか、よりアーティスティックになったと言えば聞こえはいいが、手抜き感を感じるのはオレだけだろうか。
カップリング曲「綺麗」は明菜としてはそう多くないサビ始まり曲でインパクト大。
オールドJ-POPなメロディだが洗練されたアレンジで古臭さを感じさせない良曲となった。
とはいえ、シングルB面を脱するほどではないとも思う。
Tokyo Rose
発売日:1995/11/1
品番:MVDD-10017
C/W:優しい関係
このシングルはジャケットからもわかるように「中森明菜」ではなく「Akina」名義でのシングルだ。
言われなきゃスルーしてしまいそうでそれで何が違うのかと思うが、それも含めてのキャラクタープロデュースといったところだろう。
(聖子の「SEIKO」名義とはまた意味が違う)
「ノンフィクション エクスタシー」も同様で架空のキャラクターを作り出したのを思い出す。
「Tokyo Rose」は明菜には珍しいロカビリー曲で「TATTOO」的な雰囲気もある。
ここではロカビリー歌手の「AKINA」という演出なのだろう。
そもそもロカビリーを狙ってロカビリーを手掛けるメンバーを迎えているほどなので本格的だ。
ノリノリなバック演奏も聴きどころのひとつ。
カップリング「優しい関係」も同じくロカビリー。
このシングル自体がそういうコンセプトというわけだ。
この曲では珍しく曲中に明菜のセリフが入るのが聴きどころ。
MOONLIGHT SHADOW -月に吠えろ
発売日:1996/8/7
品番:MVDD-10024
C/W:なし
これも小室哲哉の作曲。
期間はかなりあいているがオリジナルアルバム「SHAKER」の先行シングル曲。
オレはこれを初めて聴いた時、小室っぽいなとは思っても当初はそれほどいい曲とは思わなかった。
しかし、数回聴いてすぐにドはまりした経緯がある。
聴けば聴くほどクセになるのだ。
同じく小室の「愛撫」よりも打ち込み独特の閉塞感がいくらか軽減している。
ボーカルのエコーとドラムのキレがあるため、そう聴かせるのかもしれない。
作詞はさすがのTHE ALFEE 高見沢俊彦だ。
ちなみにオレは高見沢さんと誕生日が同じ(年は違うが)で昔から勝手に親近感を持っている。
とにかく、この二人が組めばいい曲ができて当然。
なお、本作はカップリング曲はなく、同曲のクラブミックスとカラオケの3曲で構成される単曲シングルだ。
(そもそもシングルは2曲でなければいけないというルールはないと思うが、価格は1000円で他と同じシングル価格である)
好きな曲なのでクラブミックスには大いに期待したが、正直このミックスは残念としか言いようがない。
曲の持ち味のグルーブ感が失われ、ただ間延びしただけでオリジナルより大人しいとさえ思う。
この翌年のオリジナルアルバム「SHAKER」ではこれのアルバムミックスが収録されたが3曲を比べるとアルバムバージョンが断トツでよい。
前奏が30秒ほど追加されたのとボーカルとコーラスのエコーが深くなり、より打ち込み感が緩和されて聴きやすくなっているからだ。
デッドな音のシングルに対し、ライブな音のアルバムバージョン、間延びしたクラブミックスといったところか。
シングルマイベスト10に入れたい良曲が期間の短いMCAビクター期から2曲も入ってくるとは、小室好きにもほどがある。
そもそも小室のことはTMネットワーク時代から大好きで、小室ファミリーの曲と共に青春を過ごしたオレとしては小室愛が半端ではないのだ。
APPETITE
発売日:1997/2/21
品番:MVDD-10027
C/W:SWEET SUSPICION
「APPETITE」はMCAビクターで最後にリリースされたシングル。
やはりオリジナルアルバム「SHAKER」の先行シングルとなる。
終始ジャズ風アレンジのウッドベースの重厚な音が印象的だ。
しかしこの曲の特筆すべき点はエコーエフェクトの切替につきる。
1コーラス目はイントロ演奏こそリバーブがかかるがAメロのボーカルはデッド、サビはボーカルにエコーをかけるという変則的な効果をつけている。
さらに2コーラス目のAメロはボーカルはこもらせた上でのデッドなボーカル、サビで再びエコーをかけ、後半はずっとエコー。
一体どうなってる?
こんな構成はかなり珍しい。
歌番組では再現不可能だろう。
明菜のシングルでも5本の指に入る異色な曲となった。
アルバムには「APPETITE ~HORROR PLANTS BENJAMIN」とサブタイトル付きでアルバムバージョンとして収録された。
もともとはサブタイトルの方が最初のタイトルだったらしい。
イントロが多少違うことを除けば大きな違いはないが、ボーカルのエフェクトにシングルのような変化はつけず一定なのが特徴だ。
シングル「TATTOO」のジャケット歌詞面の写真を思わせるアングル。
明菜のスタイルの良さを押し出した写真はあまり多くはないので貴重。
カップリング「SWEET SUSPICION」も多少変則さをにおわせる曲だ。
こっちはAメロBメロと爽やかなフレンチポップなメロディとアレンジを見せるがサビに入ると竹内まりや的なニューミュージックな雰囲気になる。
このシングルは全体でかなりクセのある曲作りをしているのが面白い。
さて、MCAビクター期のシングルを振り返ってみて思うのは「明菜らしさ」と「新しい明菜」が混在した過渡期のようなものだったと感じる。
ワーナー期においても明菜は自己プロデュースしていたが、より明菜の強い意思のようなものを感じる。
自分の歌いたい歌・表現など大手レーベルでは意見出来なかったこともここではやりやすかったのかもしれない。
これまで以上に実験的な音作りをしており、その振り幅の広さにも驚かされる。
シングル・アルバム含め、MCAビクター期の楽曲は明菜のキャリア中でもかなりの高水準だと思っている。
しかしそれは必ずしもファンが求める明菜とは違っていたのかもしれない。
だからこそワーナー期の明菜だけでいいという意見もうなずける。
人間はいくつになっても成長しつづけるものだ。
思い通りに成長してくれなかったからとファンをやめるのも自由。
でもやっぱり明菜が好きなんだとなれば、成長の過程を全て見返してみるとまた何か別の発見があるかもしれない。
それは今からでも決して遅くはないと思うのだ。
実際、さまざまなランキングに挙がる曲はワーナー期のものが多い。
しかし明菜の現在に至るまでのキャリアを考えればそのワーナー期も一部にすぎない。
本当の明菜を理解するためにはワーナー期以外にもしっかりと目を向けたいところだ。
そこで今回はそのワーナー・パイオニアの次の移籍先であるMCAビクター期のシングルについて見ていく。
MCAビクターはメジャーレーベルに比べれば聞きなれない名だが、その名の通りビクター系のレコード会社となる。
(日本ビクターが出資しているが本家とはまた別)
ここら辺の経緯は買収や統合を繰り返している業界だけに非常に複雑。
ざっくりでも知っておいたほうがよさそうなのでざっくりまとめてみる。
MCAはミュージック・コーポレーション・オブ・アメリカの略でアメリカのレコード会社。
そのMCAレコードの日本での販売を日本ビクターが担っていた。
その後松下電器産業がMCAを買収したことで、松下とビクターの共同出資会社として誕生したのがMCAビクターというわけだ。
さらにその後、松下がシーグラムへ売却し、その売却先が社名をユニバーサルミュージックに変更したため、かつてのMCAビクターは完全に現代のユニバーサルミュージックの傘下に入ったということになる。
よって明菜のMCAビクター期の復刻盤を出す権利はユニバーサルミュージックにあるのだ。
明菜のレコード会社の変遷は以下の通り。
1.ワーナー・パイオニア
2.MCAビクター
3.ガウスエンターテイメント
4.@ease
5.ユニバーサルミュージック
今回は2の時期にリリースされたシングル分が対象となる。
先述したように2021年現在では2・4・5が統合やらでユニバーサルが権利を持っているため、1・3以外ユニバーサルが新たにリマスター盤等をリリースすることができるということになる。
実際、すでにユニバーサルは2と5の時期にリリースされたCDシングルを合わせて、初レコード化による再発※をやっている。
※全世界999セット限定 アナログセット(2016年)を指す
そんな経緯がある当時のMCAビクター期のCDシングルだが、オレはかなり重要な時期であると考える。
ワーナーから移籍後、MCAビクターから第一弾シングルが出るまでは前作から約2年のブランクがあった。
とはいえ、明菜が不動の人気を誇ったワーナー期の勢いはまだ衰えてはいない。
つまりワーナー期からの明菜人気にあやかり、かつての明菜っぽさもまだ残っていたからだ。
そしてワーナー期とまではいかなくても多くに知られない名曲が数多く存在するのも事実だ。
しかし、ワーナー期をひと区切りとして一定数のファンが明菜から離れていったことも事実。
明菜に限らず、アイドルの世界というのはそういうものだ。
アイドルの性質上、活動空白期間はファン離れが加速する。
(かくいうオレもその一人であった)
今となっては新譜を買わなくともせめて明菜の動向だけは注視すべきだったと後悔している。
リアルタイムで聴くのと後追いで聴くのとでは印象が異なるからだ。
実際惜しいと思うほどMCAビクター期の楽曲も素晴らしいものだった。
その時代時代の音楽は世相を反映する鏡でもあり、曲を本当に理解するにはその時代背景を体感しつつ聴くことは重要なのだ。
今では全期の明菜の楽曲を把握していると自負するオレであるが、その上で俯瞰してみてもやはりMCAビクター期の楽曲が素晴らしかったということが見えてくる。
それでは細かく見ていこう。
明菜のMCAビクター期のシングルは約5年間(1993~1997年)で全8枚、すべて8cmシングルCDで発売された。
(Everlasting Loveのみカセット発売も有り)
時代はすでにレコードが終焉し、CD時代となった頃である。
当然のことながら全て初期CDシングルの縦長パッケージである。
しかし、すべて縦長ジャケットデザインなのでCDシングル熟成期であることがわかる。
シングルディスコグラフィ(リリース順)
1.Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
2.片思い/愛撫
3.夜のどこかで~night shift~
4.月華
5.原始、女は太陽だった
6.Tokyo Rose
7.MOONLIGHT SHADOW -月に吠えろ
8.APPETITE
ラインナップを見ると明菜の全期を知っていれば名曲だらけだとわかるはずだ。
1と2についてはジャケットの記載通り2曲のタイトルを入れている。
これは両A面という意味である。
両A面とは
そもそもレコード世代でなければA面B面の概念を理解できないと思う。
レコードは表A面、裏B面としてどちらがメイン曲なのかを区別する。
基本的にA面がメイン曲でB面はおまけ曲という解釈でも問題ない。
たとえばB面曲がゆうせん放送等でヒットするなどしてA面として再び発売し直すことはかつてはよくあった。
その結果両A面扱いとなったシングルは実質B面がないのだ。
(物理的にはあるが)
よって両A面という考えはレコードの時代に生まれたものである。
CD時代になるとCDにはそもそもA面B面などないので、通常は1曲目がA面で2曲目がB面扱いという捉え方となる。
CDシングルではレコードB面にあたる曲はジャケットの隅に小さくC/W(カップリング・ウィズ)としてメイン曲より小さく曲名を記載するのでここでも確認できる。
CDシングルはA面曲、B面曲、両A面曲かの区別はジャケットのタイトル記載方法や曲順によりそれを判断するということだ。
従って、
1.Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
2.片思い/愛撫
はC/W(B面)扱いの曲がないので両A面シングルということになる。
つまりどちらもメイン曲。
個人的には作詞・作曲家の力関係とかもあるんだろうと思っている。
作り手の思いや大人の事情も絡む、どちらを立てるというわけでもない「両A面」も現代ではあまり聞くことがなくなった言葉である。
CDシングルはオリジナルのカラオケが入っていることもレコードでできなかった強みと言える。
(それまではカラオケ収録はカセットテープのみの特権であった)
これらのシングルでなければカラオケは聴けないことがほとんどなので、CDならあえてシングル盤も所有する意義は大きい。
サブスク世代はサブスクだけでは聴けない音源もあることを認識しておく必要がある。
それでは各シングルを細かく見ていこう。
Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME
発売日:1993/5/21
品番:MVDD-10001
C/W:両A面
1曲目は「Everlasting Love」。
ミュージシャンの大貫妙子による作詞、坂本龍一の作曲と豪華な顔ぶれ。
バラード調の美しい曲で坂本龍一が作曲だがさすが教授、幅の広さを感じる。
個人的にはバラードを好まないので移籍後第一弾シングルの1曲目がバラードなのは弱いかなと思っている。
反面、明菜の次なるステージの予感も感じさせるものとなった。
2曲目が「NOT CRAZY TO ME」。
ミディアムテンポのダンスミュージックだ。
作詞はNOKKO(レベッカ)でこちらも作曲は坂本龍一。
この時すでに惜しまれつつもレベッカを解散していたNOKKOだが、その勢いのままソロ活動でも目覚しく活躍していた。
レベッカ時代の楽曲の大半をNOKKOが作詞していたが、彼女の成長と余裕を感じさせる大人の詞といったところだ。
両A面とはいえ、本来のA面があるとすれば断然オレはこっちを推す。
明菜節も多少聴けるしメロディも洗練されていてかっこいい。
ちなみにこの曲は同年発売のオリジナルアルバム「UNBALANCE+BALANCE」の先行シングル扱いだ。
先行シングル扱いと言っているのは、アルバムがこの4か月後に発売されたからだ。
期間が空きすぎているところを見ると、アルバム曲の頭数合わせにこれを収録したのではと勘繰っている。
なぜなら「UNBALANCE+BALANCE」は「NOT CRAZY TO ME」がなければ全8曲しかないからだ。
同アルバムにはアレンジが異なるLP Editが収録されたが、明菜本人も言う通りシングルバージョンとの違いが微妙すぎる。
個人的にはシングルCDでカラオケが聴けるのは嬉しいところ。
BGMとして流していても違和感がない気持ちよさがある。
なお、本作が明菜最後のアナログリリースがあったシングルであり、カセットでも発売されたので一緒に載せておこう。
Everlasting Love/NOT CRAZY TO ME(カセット)
発売日:1993/5/21
品番:MVSD-10001
カセットなのでCDと全く同じ曲構成だ。
明菜最後のシングルレコード発売となったのはLIARだ。
以降、ワーナーからは3作がシングルをカセットで発売。
そしてこのカセットを最後に明菜のアナログ時代は終わったのである。
そういう歴史的に重要な意味を持つのがこのシングルカセットなのだ。
ポップス分野においてカセットというメディアは当時それほど重要視されてはいなかった。
(カセットが必須なのは演歌だった)
聖子は1995年までカセットを発売したが、どこで見切りをつけるかはレコード会社の方針によりけりだったのだ。
片想い/愛撫
発売日:1994/3/24
品番:MVDD-10004
C/W:両A面
2作続けての両A面シングル。
それだけシングルカットしたい候補曲が多かったともとれる。
1曲目は「片想い」。
普通に考えれば1曲目がA面扱いなのだろうと思うと、前作同様1曲目にバラードを持ってきているのが興味深い。
しかもこれはオリジナル曲でなくカバーである。
ではなぜカバー曲をシングルにしたのか、理由は簡単だ。
これは今ではお馴染みとなった明菜のカバーアルバムである歌姫シリーズ第一弾からのシングルカットという意味であり、プロモーションの一環だからだ。
(アルバム、シングル共に同日発売)
ちなみにアルバム「歌姫」に収録された「片想い」はアルバムバージョンで多少アレンジが異なる。
思えば明菜のカバーシリーズはここから始まったわけだ。
オリジナルは槇みちるのシングル「鈴の音がきこえる」(1969年)のB面からとのことだが全く知らない歌手だった。
(その後中尾ミエがカバーしたことで有名になったらしい)
さて、カバー曲については当世代・別世代の間でよく論争が巻き起こるものだ。
オリジナルを知るものにしてみればオリジナルがいいという意見が多く、カバーを受け入れない。
別世代がカバーがいいと言えばオリジナルを聴いたのか?と当世代が目くじらを立てる。
こんな世代違いのバトルをYoutubeのコメント欄でたまにみかける。
「片想い」についてはオレは明菜により初めて知った曲であり、別世代ということになる。
カバーと知ってオリジナルを聴くきっかけにもなり、自らの音楽の幅が広がることは単純に楽しい。
そもそもカバーしたアーティストはオリジナルを超えるつもりでカバーしているわけではない。
自分が好きだからカバーするわけであり、そこにはまずトリビュートの精神があるわけだ。
にもかかわらず、それを外野の我々がどっちがいいだの言い争うのは非常に滑稽だ。
我々聴き手はカバーのおかげで過去の名曲を聴くきっかけを得ているのだ。
カバーが好きなら大いに結構。
ただし、オリジナルをトリビュートする気持ちは聴き手であるものも絶対に忘れてはならないと思うのだ。
裏面は同日発売のカバーアルバム「歌姫」の裏ジャケットと同様、着物を着た明菜が鮮やか。
そして2曲目が「愛撫」。
作詞は明菜ではとても珍しい松本隆。
歌詞を聴かないオレでも歌詞カードを読み返したほどの秀逸な詞。
詞がかっこいいと初めて思った曲だ。
イントロから数秒聴けば小室哲哉の曲だとすぐにわかる。
小室と明菜は合わないという声もあるが、クセのある小室の曲を自分のものにしているのはさすがとしか言えない。
これはオリジナルアルバム「UNBALANCE+BALANCE」からの第二弾シングルでもある。
このアルバムの中では最も人気が高いであろう「愛撫」はもともと移籍後第一弾シングルの候補曲だったというエピソードからもここで陽の目を見たのも納得だ。
打ち込みの音があまり好きでない明菜はレコーディング時、せめて低音を効かせてくれと注文したらしいが、その通り低音が力強いサウンドで、平面的な音場でオーディオ的に退屈になりがちな打ち込み曲には効果的かもしれない。
明菜のマイシングルベスト10に入るほど好きな曲。
カラオケも必聴だ。
夜のどこかで~night shift~
発売日:1994/9/2
品番:MVDD-10007
C/W:Rose Bud
ジャケットでまず目を引くのがテレビに映った櫻井よしこ。
これは当時の日テレ深夜ニュース番組「きょうの出来事」のエンディングテーマに使用されたためだ。
(櫻井さんが好きでよく見ていた)
明菜も夜のニュース番組のテーマ曲をどう歌えばいいのか悩んだらしい。
その結果がファルセットということになるのか。
言われてみれば終始ファルセットで歌唱しているようでもある。
しかし、明菜はファルセットをそう思わせないほど普通に使うので、もうこれも地声だといってもいいのでは。
「警部補 古畑任三郎」の記念すべき1stシーズン第一話のゲスト主演は明菜だったが、ここでの明菜の役はコミック作家 小石川ちなみ(ちなみは漫画家と言うと怒る)で全てのセリフがファルセットだった。
そういうことができるのが明菜なのだ。
「素顔のままで」では完全地声の明菜が見られるので比較すると面白い。
こんな驚くべきことを普通にやってのける役者もそういない。
(のだめカンタービレの上野樹里の声もすごいが・・・)
「夜のどこかで~night shift~」はニュース番組というよりも、むしろサスペンス系のドラマに合いそうな雰囲気。
シングル「二人静」や「帰省」が好きな人なららこの曲もきっと気に入るだろう。
前から思っていたのが明菜はこの雰囲気の曲が割と多いので、いつか「サスペンスドラマに使われそうな曲ベスト」でも作ってみたい。
共通するのはスロー~ミディアムテンポなのにどこかかっこいい部分があるということだ。
作曲したのは後藤次利。
やはり天才作曲家だが明るい曲を作る人のイメージだったので少々驚いた。
ミディアムテンポであるが、ストリングスとエレキギターで音に深みを持たせた傑作だ。
裏面はカップリング曲側のイメージで撮影されているようだ。
カップリング「Rose Bud」もフジテレビトーク番組「新伍&伸介のあぶない話」のエンディングテーマでこのシングルは完全タイアップ曲構成ということになる。
(この番組は見た記憶がない)
明菜の多くの曲のなかでも目立たない部類に入るだろうが、アップテンポでメロディも抜群にいい。
明菜ビブラートも聴けるので本領発揮の明菜らしさが感じられる曲だ。
自分でB面ベストを作るなら確実に入れたくなる良曲だ。
月華
発売日:1994/10/5
品番:MVDD-10009
C/W:BLUE LACE
「月華」は前作から2か月連続の第二弾シングル。
タイトル通り和風テイストなアレンジがアクセントのミディアムテンポなバラード曲。
明菜は全体に地声で歌えるキーなのは久しぶり、とコメントしているがどんだけファルセット使ってたんだということだ。
これも「二人静」「帰省」系だと勝手に分類しているが、明菜のこの系統の曲は本当に好きだ。
明菜の憂いのあるボーカルがおそらくこのような曲を呼び寄せるのだろうし、実際ぴったりだ。
クセになる泣きメロとでもいうのか、やっぱりこの系統のベストは作ってみたい。
DESIREを思わせる奇抜なファッションの裏ジャケット。
カップリング「BLUE LACE」はアコースティックな響きが美しいバラード調。
オーディオチェック用に使いたくなるような好録音だが、アルバム「UNBALANCE+BALANCE+6」のボーナス曲として収録のリマスター音源のほうがより重厚な音だ。
バラード嫌いなオレだが、なぜか明菜のバラードは好きなものが多い。
(聖子も好きなバラード曲はたくさんあるが、あまりに近年量産しているのでちょっと食傷気味なところがある)
原始、女は太陽だった
発売日:1995/6/21
品番:MVDD-10014
C/W:綺麗
「原始、女は太陽だった」はラテンの雰囲気を纏うアップテンポ曲。
それにしてもインパクトのあるタイトルだ。
ラテン系と言えば「ミ・アモーレ」を思い出すが、あそこまでラテンではなく、ほどよく洗練されたラテン系といったところ。
実はこの曲、Aメロ・Bメロ部分でボーカルが微妙に多重録音されている。
最初は追っかけエコーかと思ったのだが歌詞とは違う声が入っている部分もある。
(00:49辺りがわかりやすい)
カラオケで確認したがコーラスはサビの部分にしか入っていなかった。
このさりげない小細工が実に気持ちいい。
現代の曲はボーカルにエコーをあまりかけないデッドな音が多いので、この曲のボーカルを聴くと不思議な感覚を覚えることだろう。
このようなエフェクトをかけたボーカルは多くないので貴重だ。
オリジナルアルバム「la alteracion」ではアルバムバージョンを聴くことができる。
アルバムバージョンはシングルから大きくアレンジを変更しているわけではない。
ただし、シングルのようなボーカルのエフェクトが変更されていることはわかる。
よって断然オリジナルのシングルバージョンが圧勝で好きだ。
この頃からだろうか、明菜のジャケット写真にアイドル然とした雰囲気がなくなってくる。
ピントをぼかすとか、顔を一部しか写さないとか、よりアーティスティックになったと言えば聞こえはいいが、手抜き感を感じるのはオレだけだろうか。
カップリング曲「綺麗」は明菜としてはそう多くないサビ始まり曲でインパクト大。
オールドJ-POPなメロディだが洗練されたアレンジで古臭さを感じさせない良曲となった。
とはいえ、シングルB面を脱するほどではないとも思う。
Tokyo Rose
発売日:1995/11/1
品番:MVDD-10017
C/W:優しい関係
このシングルはジャケットからもわかるように「中森明菜」ではなく「Akina」名義でのシングルだ。
言われなきゃスルーしてしまいそうでそれで何が違うのかと思うが、それも含めてのキャラクタープロデュースといったところだろう。
(聖子の「SEIKO」名義とはまた意味が違う)
「ノンフィクション エクスタシー」も同様で架空のキャラクターを作り出したのを思い出す。
「Tokyo Rose」は明菜には珍しいロカビリー曲で「TATTOO」的な雰囲気もある。
ここではロカビリー歌手の「AKINA」という演出なのだろう。
そもそもロカビリーを狙ってロカビリーを手掛けるメンバーを迎えているほどなので本格的だ。
ノリノリなバック演奏も聴きどころのひとつ。
カップリング「優しい関係」も同じくロカビリー。
このシングル自体がそういうコンセプトというわけだ。
この曲では珍しく曲中に明菜のセリフが入るのが聴きどころ。
MOONLIGHT SHADOW -月に吠えろ
発売日:1996/8/7
品番:MVDD-10024
C/W:なし
これも小室哲哉の作曲。
期間はかなりあいているがオリジナルアルバム「SHAKER」の先行シングル曲。
オレはこれを初めて聴いた時、小室っぽいなとは思っても当初はそれほどいい曲とは思わなかった。
しかし、数回聴いてすぐにドはまりした経緯がある。
聴けば聴くほどクセになるのだ。
同じく小室の「愛撫」よりも打ち込み独特の閉塞感がいくらか軽減している。
ボーカルのエコーとドラムのキレがあるため、そう聴かせるのかもしれない。
作詞はさすがのTHE ALFEE 高見沢俊彦だ。
ちなみにオレは高見沢さんと誕生日が同じ(年は違うが)で昔から勝手に親近感を持っている。
とにかく、この二人が組めばいい曲ができて当然。
なお、本作はカップリング曲はなく、同曲のクラブミックスとカラオケの3曲で構成される単曲シングルだ。
(そもそもシングルは2曲でなければいけないというルールはないと思うが、価格は1000円で他と同じシングル価格である)
好きな曲なのでクラブミックスには大いに期待したが、正直このミックスは残念としか言いようがない。
曲の持ち味のグルーブ感が失われ、ただ間延びしただけでオリジナルより大人しいとさえ思う。
この翌年のオリジナルアルバム「SHAKER」ではこれのアルバムミックスが収録されたが3曲を比べるとアルバムバージョンが断トツでよい。
前奏が30秒ほど追加されたのとボーカルとコーラスのエコーが深くなり、より打ち込み感が緩和されて聴きやすくなっているからだ。
デッドな音のシングルに対し、ライブな音のアルバムバージョン、間延びしたクラブミックスといったところか。
シングルマイベスト10に入れたい良曲が期間の短いMCAビクター期から2曲も入ってくるとは、小室好きにもほどがある。
そもそも小室のことはTMネットワーク時代から大好きで、小室ファミリーの曲と共に青春を過ごしたオレとしては小室愛が半端ではないのだ。
APPETITE
発売日:1997/2/21
品番:MVDD-10027
C/W:SWEET SUSPICION
「APPETITE」はMCAビクターで最後にリリースされたシングル。
やはりオリジナルアルバム「SHAKER」の先行シングルとなる。
終始ジャズ風アレンジのウッドベースの重厚な音が印象的だ。
しかしこの曲の特筆すべき点はエコーエフェクトの切替につきる。
1コーラス目はイントロ演奏こそリバーブがかかるがAメロのボーカルはデッド、サビはボーカルにエコーをかけるという変則的な効果をつけている。
さらに2コーラス目のAメロはボーカルはこもらせた上でのデッドなボーカル、サビで再びエコーをかけ、後半はずっとエコー。
一体どうなってる?
こんな構成はかなり珍しい。
歌番組では再現不可能だろう。
明菜のシングルでも5本の指に入る異色な曲となった。
アルバムには「APPETITE ~HORROR PLANTS BENJAMIN」とサブタイトル付きでアルバムバージョンとして収録された。
もともとはサブタイトルの方が最初のタイトルだったらしい。
イントロが多少違うことを除けば大きな違いはないが、ボーカルのエフェクトにシングルのような変化はつけず一定なのが特徴だ。
シングル「TATTOO」のジャケット歌詞面の写真を思わせるアングル。
明菜のスタイルの良さを押し出した写真はあまり多くはないので貴重。
カップリング「SWEET SUSPICION」も多少変則さをにおわせる曲だ。
こっちはAメロBメロと爽やかなフレンチポップなメロディとアレンジを見せるがサビに入ると竹内まりや的なニューミュージックな雰囲気になる。
このシングルは全体でかなりクセのある曲作りをしているのが面白い。
さて、MCAビクター期のシングルを振り返ってみて思うのは「明菜らしさ」と「新しい明菜」が混在した過渡期のようなものだったと感じる。
ワーナー期においても明菜は自己プロデュースしていたが、より明菜の強い意思のようなものを感じる。
自分の歌いたい歌・表現など大手レーベルでは意見出来なかったこともここではやりやすかったのかもしれない。
これまで以上に実験的な音作りをしており、その振り幅の広さにも驚かされる。
シングル・アルバム含め、MCAビクター期の楽曲は明菜のキャリア中でもかなりの高水準だと思っている。
しかしそれは必ずしもファンが求める明菜とは違っていたのかもしれない。
だからこそワーナー期の明菜だけでいいという意見もうなずける。
人間はいくつになっても成長しつづけるものだ。
思い通りに成長してくれなかったからとファンをやめるのも自由。
でもやっぱり明菜が好きなんだとなれば、成長の過程を全て見返してみるとまた何か別の発見があるかもしれない。
それは今からでも決して遅くはないと思うのだ。