マクセル URは、2世代続いた前モデル UL (Ultra LowNoise)の後継モデルだ。
当時はマクセルカセットのエントリーモデルとしての位置づけだった。

派生モデルとしてはURテープを使用したUR-Fというファッション系カセットが存在した。
しかし特筆すべきは、URは現在も販売が続いているということに尽きる。

maxell UR (Ultra Reference)
 発売:1982年頃
 ポジション:ノーマル
 ラインナップ:46、60、90、120

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これはオレが一番好きな頃のマクセルデザインだ。
マクセル好きのほとんどがこの頃のデザインが一番印象に残っていると思う。

しかも驚くべきは、URは2019年現在も市販されているときた。
これまで次々とカセットテープが消えゆく様を見てきたわけだが、なぜかこのURだけは今も残っている。

ただし、現在のURは当時のURとは存在意義が異なりそうだ。

当時のURは数あるマクセルカセットテープの中のエントリーモデルの位置づけだった。
素材ほか、上位モデルと差別化が図られていたため、当然音質、価格にも明らかな差があった。

しかしながら、現在はURのみのため、あくまでマクセルのカセットテープはURです、以外のなにものでもない。
選択の余地がないのでこれが現在のカセットテープの音といっても過言ではない。

往年のURはもちろん、カセットの栄枯盛衰を知る者としては複雑な思いで見守ってきたモデルとも言える。

当時のURとの音質比較はまだやっていないが気が向いたらやってみたい。
本来なら新しいものがいいはずではあるが、カセット技術の衰退やコストダウンを考えると、
パッケージング含め、当時のURのほうがいい音で録れそうな気がする。

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写真にはないが120分モデル(シンボルカラーは黄緑)もある。30分もあったかは記憶が定かでない。
URのようなエントリーモデルは記録時間のラインナップが一番多いというのも特徴だった。

そういえば、120分テープは当時買うことがほとんどなかった。
カセット世代なら説明するまでもないが、いろいろ事情があったからだ。

その理由は120分テープは46分テープ等に比べ、テープの厚みが薄い。
テープが薄いと同じスペースでもテープがたくさん巻けるため、その分長時間記録ができる。

しかしそれと引き換えに耐久性が乏しく、テープが切れたり、デッキに巻き込みやすかったりと、
大切な音楽の録音には向かないとされていた。

基準としては、音楽用なら90分テープまでは許容範囲で、それ以上は避けたほうがよい。
デッキの取説にも120分テープはなるべく使用しないように、みたいな注意書きもあった。

そういえば、TDKのMA-EXというメタルテープには110分テープが存在した。
それまでの定説なら、メタルテープなら90分以上はありえない。
いわゆる「90分ルール」はどこいったんだと思ったものだ。

実際テープが薄いと走行が安定しなかったり、キャリブレーションが決まらない場合がある。
まあ、細かいこと気にしない人はじゃんじゃん使えばいいのだが、マニアは敬遠するだろう。

ところで46分というテープ長について、カセット世代ではない人は疑問に思ったことがあるだろうか?
46分という一見中途半端な時間、片面録音で23分。
これ理由あっての23分でそこには意味がしっかり込められている。

カセットテープが発売された当初は60分が多かったと思う。
その後ラインナップに90分などが加わっていくことになる。

46分テープの登場の背景にはレコードからの録音という事情が絡んでいる。
レコードの片面記録時間はLPならせいぜい30分位だから両面でも60分。
なのでレコードに合わせて両面60分あれば足りるということだ。

しかし、そうそう片面30分も入ってるレコードもなかったわけで。
当時のポップス系レコードを例に挙げるなら、1曲4分として、片面5曲収録なら、合計20分程度。
60分テープ(片面30分)で録音すると10分余り、残りは早送りしなければならず、時間もテープも無駄になるというわけだ。

60分テープは「帯に短し、襷に長し」と揶揄されるほど使い勝手が限定されるわけで、46分テープの登場は
必然だったといえる。
おそらく片面20分では心もとないので3分プラスして23分??
両面で46分ということだ。
(実際にはさらに片面30秒~1分を超える余裕をもっているテープがほとんどだった)

実際当時録音してみて、ほとんどが46分で収まったのも事実だし、余ることのほうが多かった。
また、60分より、50分、54分の方をオレはよく使っていた。

ちなみに時間的にキリがいいのは45分だが、片面で考えると22分30秒。
秒まで入ると逆に正確に入れないとおかしいという話にもなる。
というわけで46分なら綺麗に分単位で半分こできるので46分ということにもなったのだろう。

まぁテープ速度もデッキによってバラつきが多少でることも考慮すれば、多めにいれて当たり前。

テープ長のラインナップはその後さらに細分化されるも、46分が実質のスタンダードだった。
メーカーとしても46分テープを基準に音作りやデザインをしていたと思う。
MA-Rのようなラージハブ使用のカセットは90分になるとハブの径も小さくなり、デザインに大きく影響した。
見てるだけでも美しいカセットはコレクション的にも音質的にもやはり46分がベストだ。

本題からそれてしまった。

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パッケージ裏面。

書かれてる内容は、
・前モデルのULと比べて性能アップした
・マクセルテープの特長
・マニアにとっては最も重要だった周波数特性表

他記事にも書いたがこのデータはマニアにとっては道しるべとなる。
多くのオーディオ小僧どもはこのMOL値を頼りに録音していた。

URはマクセルで一番安いテープだったが、金のないオーディオ小僧にとっては避けたくても避けられないテープでもあった。
オレはというと、無理をしてでもUDシリーズかXLシリーズを使いたかったのだが、言うまでもなくURも選択肢
の中にあった。

ただ、TDKなら「D」、ソニーなら「HF」あたりが競合だったが、URはそれらに比べ、ちょっとだけかっこ悪い気がした。
実際のところこのテープはたくさん使っていたわけではない。

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テープ本体。

ラベル右下に「JAPAN・JAPON」の印刷。
モデル名変更なしでの欧州圏への輸出を意識したものだろうか?
同世代XLⅠ、XLⅡでのみ、同様の印刷を確認した(謎)

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テープには全マクセルテープに共通の面表示(A)、走行方向表示(→)、色による記録時間識別表示(オレンジ)

アナログオーディオというものは再生環境に気を配る(金を使う)ほどいい音で聴けるものだ。
録音媒体であるカセットも、デッキが非力ならカセットだけでも良いものを使えば音がグレードアップできたわけだ。
つまり、一番金をかけずに音をグレードアップできたというところも面白い。
逆に言うなら、同じ音源でも誰もが同じ音を聴いているわけではなかったということ。
カスタマイズの余地があるのはアナログのいいところである。
なのでノーマルかつエントリーモデルの用途は必然的にどうでもいい録音をする時のみとなった。

現在ではメタル、ハイポジのテープはもう売られておらず、ノーマルポジションのみである。
(まぁ、ヤフオクとか使えば安価でハイポジはいくらでも手に入るけど)
しかもURクラスのテープしかないとなれば、いいテープを使っていい音で聴くこともできない。
つまりURが現在のカセットの音のスタンダードということでもある。

であれば、少しでもいい機材で録音再生できれば、例えURと言えどそこそこの音質で聴くこともできる。
しかしながらカセットデッキでそれほど優秀なものは現在では売られていない。
行きつくところはオーディオマニアが未だに使っているような往年の名機をメンテしながら大切に使う、
そうすればテープの性能を最大限に引き出すことも可能である。

では、そんなことをやる現在の若い世代がどれだけいるだろうか?

ほぼゼロとみていいだろう。

そこまでやる意味もオレでさえわからない。

カセット世代のマニアが当時のデッキにこだわるのは思い入れよるところが大きい。
当時の流儀も含めて、そこにはアナログの楽しさがあったからだ。

今なら始めるならまずはそこらへんで売られているラジカセで聴けばいい、それで十分とも思う。

・カセットテープの音ってノスタルジックでいいね
・テープのサーッってノイズがまた味があっていい

なので、結果的に出てくる声はこんなところ。

でも、ここだけはそうじゃないよ、と言いたい。

テープのヒスノイズが味とか、、音楽を邪魔するものでしかないから。
テープノイズと戦った日々を味の一言で済まされるとか泣けてくるわ!

オレはカセット世代。
カセットが全盛を極め、時代のスタンダードだった頃の音を知っている。

カセットが見直されても、本来の復権ということにはなりえないようだ。

最も現代の環境で現代の若者にカセットの本当の実力を伝えることは難しい。

ノスタルジーの一言で片づけてもらうのは本意ではない。

しかし噛みつくつもりもない。